これからの会計人材とデータサイエンスの世界【第2回】経理業務とITの関係


小澤圭都(公認会計士)

【編集部より】
ITやAI、ChatGPTなどテクノロジーに関する用語を聞かない日はないほど身近なものになりました。会計人材にとっても、それらとどう向き合い、活用するかによって今後の可能性が変わるのかもしれません。
そこで、注目の書籍『Pythonではじめる 会計データサイエンス』(中央経済社)が刊行される、稲垣大輔先生(公認会計士)・小澤圭都先生(公認会計士)・蜂谷悠希先生(公認会計士)に、全3回・リレー形式にて「会計人材とデータサイエンス」をテーマにご執筆をいただきました。
ぜひ受験勉強の合間に、自分のミライを思い描きながらお読みください!
<全3回テーマと執筆者(敬称略)>
第1回:「公認会計士とテクノロジーの関係」稲垣大輔(公認会計士)
第2回:「経理業務とITの関係」小澤圭都(公認会計士)
第3回:「会計データとシステム構築の関係」蜂谷悠希(公認会計士)

経理業務とITの密接なつながり

前回の記事では公認会計士とテクノロジーについて触れました。第2回となる今回は、経理業務とITの関係と、受験生の皆さんが持つ知的好奇心との付き合い方について、決算支援コンサルタントとしての経験や個人的な経験を踏まえてお伝えします。

現代の会計・経理実務において、ITの知識は極めて重要です。読者の皆さんが公認会計士や簿記検定の資格をとった後に携わるであろう仕事の中で、ITを抜きにして語ることのできる領域は、ほとんどないかもしれません。

例えば、決算整理仕訳はExcelを用いて集計された数値をもとに行われることが多いですし、仕訳は会計システムに取り込まれ、財務諸表の作成や開示資料の基礎データとなります。資格試験の問題では、仕訳や財務諸表作成のための情報はわかりやすく提示されますが、経理という会計実務においては、大量のデータをExcelや会計システムによって整理するところから始めなければなりません。その意味で、経理業務はITとは切り離せないものなのです。

私は決算支援コンサルタントとして経理業務の支援を行う中で、Excelの集計表を扱いやすい形に直して加工しやすくしたり、マクロを用いて業務を自動化したりすることで、決算業務全体の効率化を推進しています。最近ではExcelパワークエリなど「ノーコード」(=プログラミング不要)で業務を自動化できるツールが普及しつつあり、また経理業務の効率化が叫ばれていることもあって、ITスキルが経理担当者に強く求められるようになってきています。

「攻め」の経理と会計データサイエンス

これまでの経理・財務会計の役割は、外部に公表する財務情報を誤りなく作成することでした。しかし最近では、会計データからビジネス上の課題を認識し、解決のための方法を探るという「攻め」の姿勢も求められつつあります。

会計システムから出力されたデータや、財務会計目的で作成されたワークシートは、会社のビジネス上の課題を解決する糸口になりえます。データの可視化や統計的分析によって事業の実態を把握したり、適切な施策を講じるためのヒントが得られるのです。その際、会計データの整合性を確認し、適切な加工や変換を行うことで、分析が容易になります。

新刊『Pythonではじめる会計データサイエンス』(中央経済社)では、そうした会計データの分析によってビジネス上の課題を解決するためのノウハウを解説しています。本書の想定読者は、ITには詳しくないけれど興味のある経理担当者です。

経理業務を通じて膨大な会計データに触れる中で、データサイエンスの手法を活用してビジネス課題を解決し、組織のアクションに繋げることができれば、経理という仕事もさらに楽しくなることでしょう。

『Pythonではじめる 会計データサイエンス』(Amazon購入ページへリンク)

受験生はITの勉強を進めるべきか

ITスキルは業務効率化に役立ち、会社の課題解決のための武器になります。ですから、早くITの勉強をしなくては、と思われる方も多いでしょう。しかし焦る必要はありません。

公認会計士や税理士、簿記検定などの受験生にとって最も重要なことは、目標とする資格の取得に全力を注ぐことだと私は考えます。なぜなら私たち会計人にとって、ITスキルはあくまで「手段」に過ぎないからです。

経理業務において重要なのは会計に関する広く深い理解であり、ITスキルはその会計知識を効果的かつ効率的にアウトプットするための「道具」です。たしかに現代の会計実務では、その道具の使い方が重要視されています。しかし、それはあくまで会計人としての基礎があってのものです。

もちろん、意欲のある方が会計の勉強と同時並行で、ITスキルの勉強を進めるのは大いに結構です。知的好奇心は成長を力強く後押しします。

自分に足りていないITスキルが何なのかを見極めたうえで、Excelの関数を基礎から学べるテキストを選んだり、マクロ(VBA)の資格用テキストで勉強したり、あるいはネット上の解説記事を参照してもよいでしょう。

SNSでIT分野に強そうな会計人をフォローする、というのも、勉強の第一歩かもしれません。能動的に情報を取りに行くという前向きな姿勢は、どんな領域においても評価されます。

ただ、私の個人的な経験を踏まえると、「知的好奇心と付き合い方」にはやや慎重になってほしい気持ちもあります。私は自分の知的好奇心に従ったがために、公認会計士試験の受験生活が延びたという経緯があるからです。

予備校で学ぶ簿記よりも、大学で勉強する金融工学の方がエキサイティングだったので、しばらく予備校に通わなかった時期があったのです。当時は予備校の個人用レターボックスから除名され、あわや会計士受験ドロップ・アウトか、というところまでいってしまいました(笑)。

そんな困難もありつつ、その後、大学で学んだ金融の専門知識は公認会計士資格とシナジーがあると確信し、受験を継続したのですが、それでも当時の知的好奇心が私を合格から遠ざけたのは間違いないでしょう。私自身、大学の勉強を優先したことには一切後悔をしていませんし、むしろ私の人生を間違いなく豊かにしてくれた時間だと考えていますが、「知的好奇心は、時に資格取得の仇となる」という側面には注意してほしいと思います。

知的好奇心の探求は少しだけ我慢して、短期集中で資格をとってしまったほうが、長い目で見れば好きなことにたくさん時間を使えるかもしれません。

激動の時代で学ぶ受験生に向けて

いま、会計を取り巻く世の中はめまぐるしく変化しています。将来「激動の時代だった」と言われるであろう現代に生きる受験生の皆さんの中には、きっと不安と闘いながら、日々勉強を進めている方も多いでしょう。未来のことは誰にもわかりませんが、私は会計を学ぶ皆さんの努力は何らかの形で必ず実を結ぶと信じています。

激動の時代、テクノロジーの進化が従来の社会のあり方を大きく変えゆく時代のなかでも、会計を学ぶ意義は全く薄れてはいません。AIが仕訳をしたり、高性能なチャットが会計の質問に答えられるようになったとして、その正確性は誰が検証し、その責任は誰が負うのでしょうか?

会計を学んできた人でなければ、会計のアウトプットの正しさは保証できず、自社の経済状況を堂々とディスクローズすることはできません。テクノロジーと会計を正しく融合させ活用することも難しいでしょう。

まずは会計の知識をしっかりと身につけ、その知識を社会の要求に沿うようにアウトプットできるようにITスキルを磨くことで、時代に即したスキルセットを持つことができるのではないでしょうか。それが、現代の会計業界で求められるプロフェッショナルであり、将来のリーダーとなるための必須条件だと私は思います。

会計資格とITスキルを組み合わせることで自分自身の価値を高め、より多くの人に貢献できるよう、ともに学び続けましょう!

【執筆者紹介】
小澤圭都(おざわ・けいと)

公認会計士
慶應義塾大学経済学部卒業、早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。有限責任監査法人トーマツにて金融機関の監査やデリバティブ評価システムの検証業務に従事。現在はジャパン・ビジネス・アシュアランス株式会社にて上場企業の決算支援に携わり、ITによる業務効率化を推進。日本公認会計士協会東京会IT委員を務めたのち、日本公認会計士協会学術賞審査委員に就任。2021年より早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程にて「複式簿記とテクノロジーの融合」をテーマに研究を行う。
著書に『Pythonではじめる会計データサイエンス』(共著、中央経済社)がある。


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