【編集部より】
12月に行われる会計士短答式試験まであと1ヵ月と少し。これからの毎日をどのように過ごすとよいでしょうか。
今までの努力を本番で最大限に発揮できるように、試験日に向けた取り組み方を、植田先生(公認会計士・CPA会計学院講師)にお聞きしました。
今の時期に多い相談①:科目間のバランスをどうするか
編集部 12月短答までのカウントダウンが始まりました。この時期に寄せられる受験生からの相談内容にはどのようなことがありますか。
植田先生 圧倒的に多い質問は「科目感のバランスで何をしたらいいですか」ということですね。この時期は、理論に比重を置きたくなるんですよ。
だけど、いつも「理論にたくさんの時間をかけて、逆に計算がゼロになるとまずいよ」と言っています。
だから、例えば1日10時間の勉強時間を取れるとしたら、財務計算に2時間、管理会計に1時間、合わせて3時間程度は本試験の日まで毎日、計算の勉強をする。
そして、残りの7時間程度で財務理論・企業法・監査論の3科目の理論のうち、2科目を選んでそれぞれ3時間半ずつ程度を勉強する。
つまり、今日、財務理論と監査論の勉強をしたら、明日は監査論と企業法といったような回し方をします。
なので、5科目のうち4科目を1日で勉強するという感じですね。
編集部 理論は毎日、全部回さなくてもいいのですか。
植田先生 理論は別に毎日やるような科目ではなくて、2日に1回ぐらいのペースで十分です。一方で、計算は1日空けるだけで勘が鈍ってしまうので、毎日勉強してほしいです。
いわば、計算科目は毎食のご飯と味噌汁のようなイメージで、とにかく忘れずに続けてほしいです。
そうしないと、いい結果につながらないことが実際に多いんですよ。
編集部 計算は、手持ちの問題集を繰り返すことでいいでしょうか。
植田先生 基本的には手持ちの問題集の1回解いた問題で構いません。
あとは、この時期であればどこの予備校も答練が実施されていると思うので、答練の問題をしっかり復習して、繰り返せばいいですよ。
編集部 きっちりスケジュールを組んで繰り返したほうがいいですか。
植田先生 僕の場合は、さっきお話ししたような「時間のバランス」だけ決めて、何ページとか何問解くとかは決めていませんでした。
12月短答まで残り1ヵ月と少しなので、今は細かいスケジュールよりも、時間のバランスだけを決めていればいいと思います。
むしろ、1ヵ月前まではじっくり勉強してほしい時期なんですよ。
編集部 じっくり、ですか。
植田先生 例えば理論だったら、テキストの一字一句を丁寧に読んでいくようなイメージで、じっくりその科目と向き合ってほしいんですね。
受験生によっては、10回、20回とテキストを速く回して回転数を上げることで頭に入る人と、2~3回に回転数を抑えるけど時間をじっくりかけることで頭に入る人とがいると思います。
最終的にはどちらの人も受かるし、どちらが良い悪いという話ではないのですが、僕は後者のタイプでじっくり向き合わないと頭に入らなかったんですね。
どのみち、まだスピードを意識する時期ではないので、自分に合う方法でしっかりテキストを読み込んでいってほしいです。
編集部 試験日が近づき始めて焦ってしまいそうですが、そうではないんですね。
植田先生 おそらく、ページ数で計画を立ててしまうと、一論点ごとをおろそかにしてしまうと思うんですよね。
あまり腹落ちしていないのに、とりあえず次のページに進もうというのは良くありません。なので、その論点を納得することを意識して進めていってほしいです。
だから、「時間のバランスを決める」というのは、とりあえず3時間で進んだところだけは自分が今日頑張って納得できたところだよねという進め方です。
12月短答の1ヵ月前までは、それで良い時期だと思っています。
編集部 いわゆる直前期のイメージと違ったので意外でした。
植田先生 確かに、みんな焦るんですよ。
ただ、12月短答のこの時期は、直前期だからといって焦るとよくないです。
そもそもの学習範囲が膨大なので、薄く広く知識を持っている人が受かる試験ではなくて、狭くてもいいから「確実な論点」を持っている人が受かる試験なのです。
だから、ぶっちゃけて言えば、切るところは切ってもかまいません。
例えば、リースの問題が出たら絶対に解けるとか、減損の問題が絶対に解けるとか、一方で、例えば本支店会計が出たら捨てるとか、そういうメリハリが効いているほうが短答式は受かりやすい試験だと思います。
編集部 しっかり納得感を持てる論点をいかに増やせるかがポイントなんですね。
植田先生 論点の守備範囲は狭くていいので、確実に取れるようにしてほしいです。
例えば、外野フェンスのギリギリに飛んできたボールをイチロー選手みたいに取る必要はないんですよ。
むしろ、自分の目の前に飛んで来たボールを落とさずに、しっかりと確実に取れるかが大事です。外野手よりも一塁手になってください(笑)。
今の時期に多い相談②:答練の点数がなかなか伸びない
編集部 今は答練の時期だということですが、答練の点数がなかなか取れない場合は、どうしたらいいでしょうか。
植田先生 予備校の答練は作問が上手で、引っ掛け方がうまいんですよね。
だから、しっかり間違い直しをして、復習した時に「どこに引っかかったのか」がわかれば、点数を気にする必要はありません。
短答式の問題は、例えば資料が(1)から(10)まで並んでいたとして、そのうち(9)まではわかったけど、(10)だけどう処理していいのかがわからないというだけで、答えが出せないんですよね。
すると、その問題の点数としては0点になりますが、実力が0点というわけではないんです。
だから、その10%分の内容だけを間違い直しすればいいですし、それで受かっていくので実質的な点数を考えてもらえばいいと思います。
間違いの原因は、ケアレスミスしたとか、単純にその論点が漏れていたとか、色々ありますが、その(10)だけをしっかり詰めれば本試験で対応できる実力がつくはずです。
答練では、点数が表れるので焦る気持ちもわかりますが、形式的な点数ではなく、もう少し実質で考えていいんですよ。
編集部 復習はどのようにしたらいいですか。
植田先生 時間はかかりますが、きちんとテキストに戻って、どの論点がひっかけに使われていたのかという点を、しっかり丁寧に確認するようにしましょう。
具体的には、計算科目については答練の問題文にミスした内容を書く。これは結構オススメです。
編集部 問題に書き込んでしまうのですね。
植田先生 受験生の中には、同じ問題を2回目以降解くために、問題を綺麗な状態で置いておきたいと言って何も書き込まない人がいますが、それはあまり意味がありません。
それよりも、問題に自分のミスをしっかり書き込んで、復習を効率的にできるようにしたほうがいいです。どうせ2回目に解く時には、緊張感のある状態では解けないですからね。
例えば、資料のうち、リース料が前払いという指示があったとして、その指示を読み飛ばして後払いで計算したとか、そういうメモを問題文に書き込んでおくのです。
それで、復習時に、メモの部分だけを一気に解き直します。そうすると、問題を1問解くのに10分かかるところが、その資料1個だけなら1分で復習を終えられます。
さらに、本試験でメモの入っていないまっさらな問題をバンと初めて見た時に、不思議なもので、自分がよくミスしていたポイントなどが問題用紙に「浮かび上がって見えてくる」ようになるんですよ。
今の時期に多い相談③:苦手な論点がある
編集部 では、苦手な論点をどうしたらいいでしょう。
植田先生 この時期であれば、思い切って捨ててしまっていいです。
例えば、本店会計が苦手で、でも答練では網羅的に出題されるので、解けずに不安になると思います。しかし、今から苦手な論点を付け焼き刃で勉強しても、短答式の問題を解けるレベルには仕上がりません。
会計士試験はパターン通りに出るというより、少しひねって出てくるので、付け焼き刃では立ち打ちできないのです。だから、不安になるのはわかりますけれども、思い切って捨てて、復習もしなくていいです。
編集部 もう勉強しなくていいんですか。
植田先生 これは、12月短答が終わってから8月論文を目指す時にまた頑張りましょう、ということです。よくあるのは、連結キャッシュ・フローですね。
連結CFは短答式には数年に1回くらいしか出題されず、最近間隔が空いてきてしばらく出ていないんです。だからそろそろ出題されてもいいだろうということで、予備校の答練では出題されるんですよね。その結果、これも復習しておくべきなのか…という焦りが発生する。
でも、この論点を理解できていない人が、今更やっても点数は伸びないので、だったら取れる論点をもっと強化したほうがいいですね。
編集部 なるほど
植田先生 ただ、連結CFは論文式ではもう少し出題頻度があがりますから、12月短答が終わった後でしっかりと勉強しましょう。
今のこの時期から、短答式に向けて慌てても、付け焼き刃は本試験の前では無力ですので、何かしようとしなくていいです。
残りの時間は限られているので、確実に取っていけるところを押さえたほうが合格に近づきます。
編集部 ヤマを張りたくなるのが受験生の心情だと思います。はじめて12月短答を受ける人は、ヤマを絞っても勉強してもいいものですか。
植田先生 はじめて受ける人は、1週間前にヤマを「中心に」勉強するのがちょうどいいです。
ヤマだけに絞るのは、11月の論文式結果発表でダメだった人が突貫で12月短答を受ける場合だけ。それ以外の人は、ヤマを中心に1週間前に回すようにするといいですよ。
ちなみに、僕のYouTubeチャンネル「CPAカレッジ」で予想論点を発表するので、学習の参考にしてみてください。
今から本試験までを1ヵ月前・1週間前・当日までの3つに区切る
編集部 ここまでのお話によると、1ヵ月前まではじっくり、1週間前からは回すという感覚で学習を進めるとよいでしょうか。
植田先生 そうですね。短答式の1ヵ月前まではテキストをじっくりと丁寧に読んで、論点を確実にしていき、1ヵ月前から1週間前までで、苦手なところを洗い出すようにします。よく忘れるところに付箋をはったり、印をつけたりしていく作業ですね。
そして、短答式まで1週間を切ったらその付箋や印をつけたところだけを回していきます。
編集部 洗い出しというのは先ほど仰っていた問題にメモするとかですか。
植田先生 計算はそれでいいです。答練の問題にメモをして、そのメモの部分だけを復習するようにします。
一方で、理論はテキスト中心ですね。復習する時も必ずテキストに戻ってください。答練や問題集の選択肢は、必ずテキストに戻って、メモをしておきます。
例えば、株式総会の特別決議なのに、普通決議と書かれていて答えを間違ったということであれば、それをテキストに戻ってメモをしておきます。メモしたところだけでなく、前後の文脈も確認しておくとよいですよ。
普段からそうした一元化した自分だけの究極の1冊を作っておいて、1週間前になったらその究極の1冊の中でも特に付箋のところだけを回していきましょう。
編集部 1週間前に一気に見るんですね。
植田先生 はい、付箋や印をつけたところを一気に見る。それにつきます。僕の場合は記憶の持ちが1週間だったので、10日前に勉強したことはもう忘れているみたいな感じだったんです。
この時期になったら、受験生自身で自分の記憶の持ちは1週間ぐらいだなとか、なんとなく感覚をつかめていると思いますから、その自分の感覚を信じていいと思います。
イメージとしては、1ヵ月前までと、1週間前までとでは、勉強する内容を減らしていく感覚です。
1ヵ月前までは丁寧にテキストを全部読んで、2回転目は、1ヵ月切ってから1週間前までの間に洗い出しをして、復習するところを減らしていきます。
その時に、「ここはしばらく見なくてももう覚えているな」とか、「ここは忘れやすいから絶対見直さないといけないな」とかを洗い出していくのです。
そして、1週間前からは、付箋が貼ってあるところを頭に詰めていきます。
編集部 洗い出しといっても、単なる作業ではなくて、考える時間なんですね。
植田先生 そうです。しっかりと考えて付箋を貼っていくと、テキストが付箋だらけになって不安になるかもしれません。
でも、受かる人のテキストを見たら、付箋がいっぱいついていますから。だから、テキストを見たら、だいたい受かるかどうかはわかります。受かる人のほうがいっぱいついているんですよ。
編集部 そうなんですね!
植田先生 付箋を貼れないということは、その線引きができなくて、「なんか全部わからんな」みたいな感覚なので。だから、テキストが付箋でいっぱいになった分だけ頑張ったと思って試験に臨めばいいのです。
こういってしまってはなんですけれども、この試験は、間に合うということはないんですよね。
受かる人でも、あの論点が出たらいやだとか、あれをもう少し覚えておかないととか、いっぱい不安を抱えています。
だから、完璧な状態で試験を受けられるなんて人はほぼいません。
先ほど答練の点数は気にするなとは言いましたが、最後は答練で1回でも良い点数があったら自信にはなりますよね。
そのほうが、自分の気分が乗った状態で本試験に望むことができるので、こういった「謎の自信」があるかないかは、本番を迎えるには重要ですね。
ぜひ、「自分が合格することは決まっているんだ」という気持ちで、本試験頑張ってきて下さい!
<お話を伺った人>
植田 有祐(うえだ ゆうすけ)
公認会計士・税理士。CPA会計学院講師。
同志社大学経済学部卒業。公認会計士試験合格後、新日本監査法人にて、主に金融商品取引法監査、会社法監査、アニュアルレポート作成業務に従事。その後、植田有祐公認会計士事務所を設立し、決算早期化コンサルティング業務(棚卸規定の整備、引当金見積の精緻化)や、原価計算導入コンサルティング業務(原価要素の集計、標準の設定、現金収支予算、労務規定の整備など)を行う。
・野原監査法人パートナー
・YouTube「CPAカレッジ」毎週金曜AM10時絶賛配信中
・Twitter(@newjapancpa)
【バックナンバー】
CPA講師・植田先生に聞く! <習熟度別>12月短答合格を目指す受験生が今すべきこと(2022/8/23掲載記事)