【税理士試験 相続税法】「出題のポイント」公表を受けて:令和5年度試験で合格するために今からすべきこと


【編集部より】
さる10月7日(金)、国税庁ホームページにおいて税理士試験「令和4年度(第72回)税理士試験出題のポイント」が公表されました。
これを受けて、令和5年度税理士試験を受験される皆さんは、今後どのような取り組みをするとよいのでしょうか。
本記事では、【相続税法】について、梨井先生(税理士)にアドバイスをいただきました。

梨井 俊(税理士)

「令和4年度の出題ポイント」を受けて

第一問(理論)

問1

相続税と贈与税との調整についての出題です。論点自体は非常にオーソドックスなので「関連する規定を挙げなさい」であれば誰もが正解できるだろう問題を「条文に触れつつ説明しなさい」として、「法律の暗記でなく理解」と「事例に基づくあてはめ」とを問うています。

実際に出題のポイントにおいても「正しい理解を問う」「実務上重要である」と出題の意図を表現していました。

問2

いわゆる法人版事業承継税制についての総合的な出題です。
出題のポイントでは「全体の理解を問う」との表現とともに問1と同様「実務上重要となる」との表記がありました。

第二問(計算)

難易度・分量ともに取り掛かりやすい問題だったと感じます。

出題のポイントにおいては例年通り「横断的な理解」「総合的な理解度を問う」といった表現に加え、「法改正も確実に」という表記から最近の改正事項である小規模宅地等の特例計算や配偶者居住権の計算もできているかどうかを重要視しているようです。

「出題のポイント」まとめ

出題のポイントを確認して非常に目に留まったのが「改正」「実務」といった表現です。
「改正」は以前から強調されていますが、「実務」についてここまではっきりと強調されたのは今回が初めてかもしれません。以下一部引用します。

【第一問】
問1

本問は、上記のような改正等を踏まえ、贈与税と相続税の調整に関する規定についての理解を問う問題であり、実務上、相続税の課税価格に加算すべき贈与財産の価額の有無の確認をし、これらの規定に基づき、相続税の課税価格への加算の検討を行い、その上で適切に相続税を算出することは極めて重要であり、制度の内容の正しい理解が必要であることから、その内容を問う問題である。
問2
平成21年度税制改正で創設された制度である。平成30年度税制改正においては、中小企業の円滑な世代交代を集中的に促進し、生産性向上に資する観点から、10年間の贈与・相続に適用される時限措置として、抜本的な見直しが行われている
(中略)
したがって、実務上、贈与税について事業承継税制の適用を検討する場合、贈与及び相続を通じた事業承継税制の全体の基本的枠組みを理解した上で、その適用を検討することが重要となることから、本問は、贈与税の事業承継税制の内容の理解に加え、贈与者が死亡した場合における贈与税の事業承継税制の適用を受けた株式に係る贈与税及び相続税の課税関係の理解を問う問題となっている。

【第二問】
特に、税理士として実務に関わる際には、個別の財産評価について基礎から応用まで、その理解を問われることとなる。また、被相続人の遺産の利用状況等の背景をどれほど理解しているかが、特例適用の判断に大きな影響を与える。相続税に関わる法改正も確実に理解する必要がある。
 (令和4年度(第72回)税理士試験出題のポイント 相続税法より)

令和5年度試験で合格するために今からすべきこと

出題のポイントにあるような実務の経験は、受験生の環境によっては難しいところもあります。私なりに思っていることをお伝えすると以下のようになります。
多少ピンポイントのアドバイスかもしれませんが、あてはまりそうな方はご参考ください。

初学者~興味関心をもつ~

初学者の方は「興味関心をもつ」。まずはここからです。出題のポイントにあるような本試験に向けた学習レベルの向上には概念的な質や量の話とともに、制度の趣旨や背景の正しい理解が肝要です。

また、学習が進むと「結論を自分の言葉で説明できる」ことの先に、「その説明の理由(根拠)を提示できる」ことがあると実感しています。そして、この「理由(根拠)を提示しながら自分の言葉で結論を説明する」ことが、本試験の理論解答のひとつの模範解答になります。

カテゴリーによっては暗記から入ってとりあえず結論を覚えてしまうほうが早いですが、本試験で出題されるようなレベルでしっかり合格を目指すのであれば、「正解していればいい」の先のレベルに向かう必要があります。
そのためにも、まずは日々の学習で興味関心をもって、「こうなったらどうなるか」を自分から積極的に考えていきましょう。

経験者~計算を弱点にしない≒理論で挽回しようとしない~

理論の習熟度は学習時間が長くなるほど深まります。このような長年の学習は、そのまま本試験で役に立ち、実務上の重要度にも影響します。実際、最初の頃に覚えた制度が、今年改正されたという経験を持つ方もいるでしょう。そのため、経験者の中には理論が得意な方も比較的多いです。

しかし、経験者の方や働きながら学習している方はまとまった時間が取りにくいため、総合計算問題を解きなおしたり見直したりする時間が取れず、計算が意外と安定しない傾向があります。
私自身も各税法科目の受験2年目あたりは「理論が上位10%で計算が平均点。あわせて上位30%。よっしゃ。」と思う時期がありましたが、「平均点は分布では半分以下」です。
計算を理論でカバーしようとせず、それぞれしっかり平均点の5点上をとれるバランス感覚が肝要です。

〈執筆者紹介〉
梨井 俊(なしい・しゅん)

税理士
大手専門学校で相続税法の講師を務めるかたわら、月次顧問を主な業務とする開業税理士。大学受験の学習塾で英語講師を8年間務めた経験から、学習法や覚える仕組みを資格試験の勉強にもあてはめ、活用法や座学と実務の違いなど、積極的に情報発信も行っている。


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