【会計士・短答式】なぜ「管理会計論」が足を引っ張るのか? 克服のヒントは「問題との対話」


和歌山大学経済学部准教授
藤原 靖也

【編集部から】
公認会計士試験科目のなかでも苦手な方が多い「管理会計論」。
先日、第Ⅱ回短答式試験の合格発表がありましたが、不合格となった方のなかにも、「管理会計論が足を引っ張った」という方は多いと思われます。
そこで、「管理会計」を専門に研究され、公認会計士試験の指導にも力を入れられている藤原靖也先生(和歌山大学経済学部准教授)に、管理会計論を克服するためのヒントを教えていただきました。
“出題者目線”に立ったアドバイスは、今後の学習方針を見直すにあたって必見です!

管理会計論は、本当に難問・奇問ばかりか?

管理会計論を「難しく解きにくい学問」と捉えている方も多いかもしれません。実際に、この科目を「守り」の科目と位置づけている方も多いと聞きます。また、複数解が考えられる問題も度々出ているのはご承知のことでしょう。

しかし、短答式試験における管理会計論に「難問・奇問の類はほぼない」というのが私の答えです。

たしかに短答式試験における時間の制約は厳しく、60分であれだけの分量の問題に答えるのは難しいかもしれません。特に、計算問題に時間がかかると感じる方も多いことには首肯できます。

ただ、やはり「難易度はどうか?」と聞かれると難問・奇問の類はほぼなく、短答式試験に限れば、管理会計論という学問をきちんと理解していれば解けるベーシックな問題ばかりです。

それでは、なぜそう言えるのか? そもそも、なぜ複数解が考えられる問題が出るのか? 

これらがわからないということは、言葉は厳しいですが、管理会計論という学問を理解できていないか、学習法が間違っているか、そのどちらかだと思います。

管理会計論で一番やってはいけない学習法とは

公認会計士試験の試験科目の中で管理会計論を苦手にしている方が多い理由は、「パターン学習に終始しているからではないか」と推察しています。

実は、この学習方法は、管理会計論で「一番やってはいけないこと」です。なぜなら管理会計論は、パターン学習との相性が特に悪いからです。

その理由を、出題者側に回って考えてみましょう。

そもそも管理会計論は、広い意味で「戦略実現のための学問」と言われます。どの学術書をとっても、ここから外れてはいないと思います。

また、管理会計の1つの大きな役割は、(伝統的にも今も)経営戦略の実現のために有益あるいは必要な情報を、必要なときに経営者・管理者などに提供し、マネジメントに役立てることです。専門用語では「情報システム」といいます。

一方、「マネジメントに役立てる」と一言で括っても、難しい問題がたくさんあります。

純粋に考えてみてください。

  • 経営戦略は、各社で同じでしょうか?
  • 事業の規模や市場シェアは、各社で同じでしょうか?
  • 研究開発能力・生産能力・取引先・従業員のスキルなどは、各社で同じでしょうか?
  • 経営管理上の課題・検討事項は、各社で同じでしょうか?
  • 経営戦略の実現のために必要な検討事項を解決するのに役立つ、あるいは必要な情報やシステムは、各社で同じでしょうか?

答えは自明です。会社によって違います。

では、会社によって経営戦略から具体的な検討事項までが異なるなかで、どのような意図をもって出題者は作問するのか。

出題者は、架空の会社を想定し、検討してほしいこと・導いてほしいことを決め、過不足なく情報を与えたうえで解答を求めます。

たとえば、この会社はどのような会社か。どのような課題を検討中か。どのような経営管理上の情報をほしがっていて、何を導いてほしいのか。

これらの情報が管理会計論の問題文には書かれています。

そして、情報に何らかの抜けや誤りが1つでもあった場合、複数解の余地が生じます。これが、管理会計論の問題に「解なし」が生まれやすい理由です。

想定されている会社像が違う以上、管理会計論の問題に画一的なパターンはありません。同じ分野に思える問題でも「解いてきた問題とは何かが違う」と感じる方が多いのはそのためです。

身につけるべきは「国語力」

かといって、管理会計技法を知らなくてよいというわけではありません。一通りの管理会計技法を身につけ、まずは基礎的な問題は解けるようにしてください。知らなければ解答すらできません。

一方、それだけでは頭打ちになるのが公認会計士試験の管理会計論です。管理会計情報に制度的な制約が(原価計算分野の一部を除いて)ない以上、問題のパターンは無限にあると思ってください。

それならどうすればよいのかと思うかもしれません。管理会計論を克服するためのヒントは、他の科目以上に「問題と対話」することです。

皆さんは、出題者がどのような会社を想定しているかイメージしながら問題を解いているでしょうか? その会社がどのような課題を抱え、何を導いてほしいのかがわかるでしょうか? 他の科目と同様に、あるいはそれ以上に、問題と対話ができているでしょうか?

これまで管理会計論を教えてきたなかで確実に言えるのは、管理会計論が得意な方は、しっかりと問題を読み、対話しながら解答ができていることです。管理会計論の問題を解くにあたっては、しっかりと論点を見極める「国語力」が極めて重要なのです。

管理会計論に苦しんでいる方へ

管理会計論も他の科目と同様に、一定の「カタ」がなくては何もできません。

しかし、「カタ」を暗記するだけでは高得点は望めません。それだけを丸覚えしたところで順調に点数が伸びる科目ではないからです。

一定の基礎が身についたのちに重要になるのは、パターンの反復学習ではなく、問題の意図を丁寧に読み解くことです。暗記に終始することなく、「対話」を重視しながらアウトプットを進めてください。

それが、管理会計論を味方につける糸口になると思います。

〈執筆者紹介〉
藤原 靖也(ふじわら・のぶや)

和歌山大学経済学部准教授、博士(経営学)
日商簿記検定試験1級、税理士試験簿記論・財務諸表論、公認会計士試験論文式試験に合格。神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了後、尾道市立大学経済情報学部講師を経て現職。教育・研究活動を行いつつ、受験経験を活かした資格取得に関する指導にも力を入れている。


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