【コラム】公認会計士業界のジェンダー平等実現のために(最終回)ー“初”から“当たり前”になる業界へー



首藤 洋志

(文教大学経営学部専任講師、公認会計士)

前回まで、ジェンダー平等の実現に関連して、公認会計士業界の現状や公認会計士(監査法人)には多様性のある視点が不可欠であること、さらにはコロナ禍前後で公認会計士の働き方が大きく変わってきたことについて触れてきました。

最終回では、公認会計士業界のジェンダー平等に進展がみられることや、公認会計士業界をこれまで以上に素晴らしい業界にしていくために必要な方法、考え方などをみていきます。

ジェンダー平等の実現に進展がみられる公認会計士業界

近年の公認会計士業界では、第2回で確認した女性比率等向上に関するデータや、日本公認会計士協会“初”の女性会長(関根愛子氏)誕生〔2016年〕、監査法人“初”の女性理事長(片倉正美氏(EY新日本有限責任監査法人))誕生〔2019年〕にみられるように、ジェンダー平等の実現(女性活躍の推進)に進展がみられます。

監査法人の取組み、政府の施策、経済・労働環境の変化などによって引き起こされている公認会計士業界の働き方の変化は、(主に女性)会計士のキャリア形成に、次のようなポジティブな影響をもたらすことが想定されるでしょう。

まず、ビフォーコロナ時代において、女性会計士が、家事・育児を目的として(やむを得ず)減らしていた業務時間については、移動時間の減少や、付随してもたらされる間接的勤務時間(作業場所を変える際の片付け・準備時間・クライアント訪問時の待ち時間など)の削減により、一定程度増やすことができるかもしれません。

その結果、ワークとライフをバランスさせるのではなく、両者の調和によりシナジー効果を生み出すような、ライフスタイルの支援をする労働環境が醸成されていくはずです。

続いて、長時間労働(組織へのコミットメント「量」)を評価するような人事評価慣行が見直され、短い時間で効果的かつ効率的な成果を生み出す生産性重視の働き方が評価される仕組み(具体的な指針等)の整備がさらに進展することです。

その結果、業務の工夫・効率化に対するモチベーションが向上することや、女性会計士の昇進意欲が増進することなどの点で、好ましい影響が生じるでしょう。

公認会計士に占める女性比率や、管理職に占める女性比率が低いという点においては、公認会計士業界も、今のところ日本の特徴と大きく相違するところはありません。

しかし、相当な努力をしてせっかく手にした公認会計士資格です。監査法人(会計監査業務)で有意義に活用しやすい環境がさらに整備されることで、これまで以上に女性会計士が監査法人に残りやすい風土の醸成が期待されます。

今後の課題と課題解決のアイデア

日本でジェンダー平等実現に向けた課題が残されている現状を考慮すれば、女性会計士の活躍(女性会計士比率や女性管理職比率の向上)にみられるキャリア形成がうまくいくかどうかに対して、各監査法人における制度改善などの「外形的な変革」はやり尽くした感が否めません。

むしろ、監査法人におけるすべての会計士、結婚している場合は夫婦間の考え方、そして女性(会計士)自身による「内実的な変革」がより重要になります。「内実的な変革」とは、たとえば、無意識バイアス(「夫は外で働き、妻は家庭を守る」に代表される、古くから存在する固定観念等)の認識・打破や、ジェンダーに関係なく「自分自身の志を実現するんだ!」という明確な意思をもち、実現に向けて追求すること、などです。

女性のキャリア形成に関連して、片倉正美氏(EY新日本有限責任監査法人 理事長)は、日本公認会計士協会の機関誌である「会計・監査ジャーナル」2022年1月号のインタビュー記事の中で、次の2点に触れています。

第1に、女性(会計士)は、出産や育児、介護などのライフイベントの影響を受けやすいため、監査法人では制度設計のみならず、実際に運用できるような仕組み(ライフイベントに応じて、柔軟な働き方を選択できる制度を気兼ねなく有効に活用できる環境)を整えることが重要である点です。

第2に、女性(会計士)こそ、柔軟な働き方をより実現しやすい管理職へと昇進するほうが望ましく、昇格にもっと貪欲になったらよいという点です。

これまで、ジェンダー問題や無意識バイアス、そして女性的特徴について言及された書籍は数多く出版されています。

たとえば、2013年当時、FacebookのCOOであったシェリル・サンドバーグ氏は、著書『Lean In: Women, Work, and the Will to Lead(邦題:『リーン・イン―女性、仕事、リーダーへの意欲―』)』の中で、女性のほうが男性よりも自身を過小評価する傾向にあることに言及し、「より平等な世界を真剣に目指すなら、女性が手を挙げ続けない傾向があることをまず認識しなければならない」 (訳書, 54頁) と述べています。

また、安倍晋三元首相時代の「人生100年時代構想会議」メンバーに唯一の外国人として招聘されたリンダ・グラットン氏(ロンドン・ビジネス・スクール管理経営学教授)と、アンドリュー・スコット氏(同スクール経済学教授)は、共著『The 100-Year Life: Living and Working in an Age of Longevity(邦題:『ライフシフト―100年時代の人生戦略―』)』の中で、婚姻関係にある男女がキャリアの過程で役割交代(たとえば、夫婦で「仕事中心の時期」と「家庭中心の時期」を相談のうえで交代)することにより、男女間の生涯所得格差が縮小に向かう可能性を指摘しています (訳書, 340-342頁) 。

ここでは2冊しか紹介できませんでしたが、紹介した2冊は、現代社会において重要な考え方のエッセンスがふんだんに詰まったものですので、ぜひ手にとってほしいと思います。

公認会計士業界における50:50の実現を目指して

時代が変われば、価値観が変わるのは当然でしょう。現代において、そもそも「ジェンダー平等」や「女性活躍推進」、はたまた「〇〇初の女性××」、などという言葉が使われること自体、違和感があると思いませんか?

たしかに、出産は女性にしか担えません。しかし、育児(そして家事等)は、ジェンダーに関係なく夫婦(パートナー)で協力して平等に行うべきはずです。男性がとびきりおいしい肉じゃがを作ってもいいし、女性が一家の大黒柱となっても、なんら問題はないのです。また、子供が生まれた際に、「(長期の)育休をとるのは女性」だと、最初から決めつける必要はありません。

私は、公認会計士(常勤職員)として、2011年から2020年までの9年間、会計監査に従事するなかで、男性以上に高度な仕事をバリバリこなす女性会計士に出会いました。また、多くの尊敬すべき女性会計士の先輩からさまざまなことを教えてもらいました。さらに、監査法人には、産休・育休制度や、複数の働き方(たとえば、時短勤務、勤務時間の変更等)から自身の働き方を選択できる複線型勤務等の制度も整っており、出産・育児と両立しながら活躍している女性会計士も多いです。

そのため、資格を武器にする公認会計士という職業は、ジェンダーを問わず活躍できる仕事だと自信をもっておすすめすることができます。

とはいえ、兎にも角にも、まずは女性会計士比率を向上させることで、公認会計士業界に50:50(フィフティー・フィフティー)の状況を作り出すことが肝要でしょう。ここでいう、50:50の状況とは、組織におけるジェンダー比率が同水準であり、男性同様に多くの女性が組織のトップや管理職に就くことのできる、多様性のある職場環境を意味しています。

やはり、男性80:女性20のような状況では、男性の権力や発言権ばかりが強くなってしまいますよね。その結果、女性が前面に出ることや、声を大にすることが難しそうであることは、感覚的にも想像しやすい気がしませんか?

このコラムを目にしたことを1つのきっかけとして、みなさんが公認会計士として活躍しながら、未来の業界を盛り上げていってくれることを願っています!

一緒に、会計士業界から、多様性にあふれた真のジェンダー平等を実現しましょう!

先輩会計士としてのメッセージ

受験生のみなさんは、日々、受験勉強に明け暮れていることでしょう。

膨大な量のテキスト、会計基準や監査基準、さらには会社法、税法などを理解し、試験に向けて覚えることは並大抵の努力ではないと思います。

私自身、受験勉強中、つらいと思ったことは何度もありました。しかし、そのたびに友達と鍋パーティーをしながらお酒を飲んで息抜きしたり、受験仲間と一緒に大学の図書館で勉強したりして、なんとか受験時代を乗り越えることができたと思っています。正直な話、1人では絶対にやり抜くことなんでできませんでした。

みなさんも、勉強(努力)することがつらいときには、ご両親や友達などをいつでも頼ってください。きっと力になってくれるはずです。

目標(「何のために?」という目的)を見据えて、努力を続ければ必ず道は拓けます!!

余談になりますが、最近、ゼミ生からの紹介で、喜多川泰先生の小説をはじめて読むきっかけを得ました。以下の2冊です。

・『「手紙屋」~僕の就職活動を変えた十通の手紙~』

・『「手紙屋」蛍雪編~私の受験勉強を変えた十通の手紙~』

前者は就職活動中の大学生が、後者は受験勉強中の高校生が、それぞれ「手紙屋」との十通のやりとりを通して成長する過程を描いた小説です。2冊とも、受験勉強中のあなたにこそ、気分転換にでも読んでもらいたい1冊です。働くことや、勉強することの意味について考え直すことのできる素晴らしいきっかけを得られるはずです。

また、これまで以上に、勉強に情熱をかけて取り組みたくなること間違いなしですよ! 騙されたと思って、ぜひ手にとってみてください。公認会計士になったみなさんと、お会いできることを楽しみにしています!

<執筆者紹介>
首藤 洋志(しゅとう ひろし)
文教大学経営学部専任講師、博士(経済学)(名古屋大学)、公認会計士

1987年、大分県大分市生まれ。
2011年、九州大学大学院を修了後、現EY新日本有限責任監査法人(東京国際部)に入所。
2018年、同監査法人名古屋事務所に異動。
2020年、同監査法人を退職。名古屋大学大学院経済学研究科博士後期課程を満期退学。
2020年4月より現職。
2児(4歳、0歳6ヵ月の女の子)の父。趣味は読書、映画鑑賞、旅行、サッカー。公認会計士の仕事や女性活躍推進に関して、大学等での講演活動を積極的に行っている。

【主な著書、論文】
会計人コース2018年12月号別冊付録 「【保存版】3.5時間で弱点発見!簿・財 サクサク復習ワークブック」(苗馨允氏と共著)
「日本におけるIFRSの任意適用が会計数値に与える影響―初度適用の調整表に基づく調査―」『IFRS適用の知見―主要諸国と日本における強制適用・任意適用の分析―』(苗馨允氏・角ヶ谷典幸氏と共著), 340-362頁, 2020, 同文舘出版。
「資産負債観に基づく歴史的原価会計―収益認識会計基準を手がかりにして―」『簿記研究』3巻2号(単著), 11-22頁, 2020。

◎ご意見、ご感想など、お気軽にご連絡いただければ嬉しいです!
shuto@bunkyo.ac.jp


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