【「並木流」会計用語辞典】第6回:企業会計原則の一般原則④~⑦


並木秀明
(千葉経済大学短期大学部教授)

【編集部より】
「会計人コースWeb」でおなじみの並木秀明先生に、会計用語や勘定科目について、多様な視点を踏まえて、ゆるりと解説していただく連載です。

今回は、企業会計原則の一般原則4「明瞭性の原則」、一般原則5「継続性の原則」、一般原則6「保守主義の原則」ならびに一般原則7「単一性の原則」を説明する。

明瞭性の原則

企業会計は、財務諸表によって、利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならない。

明瞭性の原則は、利害関係者に対して必要な会計事実の適正開示と明瞭表示を要請する原則である。つまり、「貸借対照表、損益計算書をわかりやすく作成しなさい」という要請である。

企業と利害関係者との間にコミュニケーションギャップ(企業の公表したい内容と利害関係者の受け取る情報の差)が生じないよう、財務諸表を通じ必要な会計事実(計算した結果)を明瞭に表示することが必要となる。

現在の制度会計では、会社計算規則、財務諸表等規則などに表示の様式(ひな形)が示されているので、それに準拠すればよい。すなわち、試験の理論問題として出題可能性は低いといえる。

制度会計では、どのような規定で財務諸表の明瞭性を高めているのか、例を挙げておこう。

・貸借対照表の流動性配列法

資産は流動資産・固定資産の順で、負債は流動負債・固定負債の順で表示すること。ただし、ガス会社・電力会社などは、流動項目より固定項目に重要性が高いと考え、固定項目を先に表示する固定性配列法を採用している。

・損益計算書の区分表示

金額の最も大きな売上高から因果関係の費用(売上原価・販売費及び一般管理費)、営業外収益と営業外費用、特別利益と特別損失を並べて表示する。

・総額主義の原則

総額主義とは、損益計算書及び貸借対照表を作成するにあたって、企業の財政規模及び取引規模を明瞭に表示するため総額により記載する。つまり、損益計算書は、売上高と売上原価を相殺した売上総利益から作成してはならない。貸借対照表は、受取手形と支払手形、売掛金と買掛金、貸付金と借入金を相殺してはないというものである。それは、会社の規模が隠されてしまうという理由である。

・注記表の作成

貸借対照表、損益計算書に記載した金額の説明文である。

継続性の原則

企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない。

継続性の原則の必要性

経理自由の原則の話をしたが、継続性の原則は、この経理自由の原則を受けている。

・減価償却費の計算であれば、今年は定額法、来年は定率法に
・商品の評価あれば、今年は先入先出法、来年は移動平均法に

これでは、利害関係者は、困ってしまう。この点に継続性の原則の必要性がある。

継続性の原則が必要な理由は、利益操作を排除し、財務諸表の期間比較性を確保するためである。

みだりに変更してはならない、とは

「みだりに変更してはならない」とは、「正当な理由があれば変更可能」ということである。変更するといっても、「一般に公正妥当と認められた方法」から「一般に公正妥当と認められた方法」でなければ認められない。つまり、真実性の原則に違反してはならない。常識的には、その変更が企業にとってよりよい変更でなければ、変更の意味はない。

正当な理由の例

ⅰ 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更
ⅱ 以外の正当な理由による会計方針の変更

ⅰ 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更とは?

・会計基準等の改正によって特定の会計処理の原則及び手続が強制される場合
・従来認められていた会計処理の原則及び手続を任意に選択する余地がなくなる場合
など。

会計基準等の改正には、既存の会計基準等の改正又は廃止のほか、新たな会計基準等の設定が含まれる。なお、会計基準等に早期適用の取扱いが定められており、これを適用する場合も、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う。

保守主義の原則

企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。

保守主義の原則は、予測される将来の危機に備えて、慎重な判断に基づく会計処理を行わなければならないことを要請したものである。

設立当初の企業、または設備投資(有形固定資産の購入)をした企業は、一般に台所が苦しい(お金がない)ものである。そこで、経理自由の原則に乗っ取って認められるかぎり、利益は小さめに費用(損失)は大きめに処理を要請する。利益が大きければ、税金や配当といった資金が必要となるからである。会計処理の選択で企業に倒産されては困るのである。したがって、この原則の別名を「安全性の原則」という。

適当に健全な会計処理

適当に健全な会計処理の「適当」とは、ちゃらんぽらんな「いい加減」ではなく、風呂の湯加減の「良い加減」である。

例として、定額法ではなく定率法を採用すれば減価償却費が多く計上される。また、割賦販売の販売基準ではなく、回収基準を採用すれば売上高(収益)が小さく計上される。

しかし、これは当初のみであり、長い会計期間を想定すれば同じ費用・利益となる。

したがって、不利な影響を及ぼす可能性がなければ、あえてこのような会計処理を選択する必要なない。

過度の保守主義の禁止

企業会計原則注解(注4)では、「企業会計は、予測される将来の危機に備えて、慎重な判断に基づく会計処理を行わなければならないが、過度の保守的な会計処理を行うことにより、企業の財政状態及び経営成績の真実な報告をゆがめてはならない。」とも規定している。

それでは、過度の保守的な会計処理とは、どのような会計処理なのか。たとえば、引当金の繰入額(見積額)を大きくするなどである。つまり、「やり過ぎないように」と規定している。

単一性の原則

株主総会提出のため、信用目的のため、租税目的のためなど、種々の目的のために異なる型式の財務諸表を作成する必要がある場合、それらの内容は、信頼しうる会計記録に基づいて作成されたものであって、政策の考慮のために真実な表示をゆがめてはならない。

単一性の原則は、利害関係者に対する報告手段である財務諸表について、様々な目的をもつ利害関係者に対して報告が行われるため、その目的に応じた財務諸表の形式の多様性は認めるが、財務諸表の作成の基礎となる帳簿(仕訳帳・総勘定元帳)は、一つのものでなければならない。

つまり、二重帳簿の作成を禁止しているのである。

① 単一性の原則は実質一元・形式多元を要請 

実質一元 → 同一の組織的な会計記録(仕訳帳・総勘定元帳により作成)

形式多元 → 異なる形式の財務諸表の作成

② 異なる形式の財務諸表とは?

会社法(会計計算規則)に準拠した計算書類と金融商品取引法(財務諸表等規則)に準拠した財務諸表では様式(ひな形)が異なる。

ⅰ 会社法 
株主総会提出用の貸借対照表、損益計算書などの計算書類

ⅱ 金融商品取引用 
内閣総理大臣提出用の貸借対照表、損益計算書などの財務諸表

ⅲ 銀行などから資金調達するために提出する財務諸表
銀行などの要請に応じて作成する。一般に中小企業など株式を上場していない企業は、会社法に準拠して作成した計算書類を、大規模企業など株式を上場している企業は、金融商品取引法に準拠して作成した財務諸表を提出する。

<執筆者紹介>
並木 秀明
(なみき・ひであき)
千葉経済大学短期大学部教授
中央大学商学部会計学科卒業。千葉経済大学短期大学部教授。東京リーガルマインド講師。企業研修講師((株)伊勢丹、(株)JTB、経済産業省など)。青山学院大学専門職大学院会計プロフェッション研究科元助手。主な著書に『はじめての会計基準〈第2版〉』『日商簿記3級をゆっくりていねいに学ぶ本』『簿記論の集中講義30』『財務諸表論の集中講義30』(いずれも中央経済社)、『世界一わかりやすい財務諸表の授業』(サンマーク出版) などがある。


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