【『財務会計講義』を読もう!】第4回:偶発債務


偶発債務とは何か?

「偶発債務」は、『財務会計講義』の中ではっきりと定義が書かれている。少し安心したところである。改めてp.249から引用してみよう。

偶発債務とは、いまのところ現実の債務にはなっていないが、将来において一定の事象が生じた場合に、当該企業の負担となる可能性のあるような債務をいう。

安心したのも束の間、この定義を読んでも何かよくわからないのである。「いまのところ現実の債務にはなっていない」ものは、貸借対照表に記載される能力はないはずである。

たとえば(1)手形遡求義務、(2)債務の保証、(3)係争事件に係る賠償義務などに起因して生じる債務がその例である。

と、せっかく例を3つ挙げてもらっているので、この3つを中心に理解を深めていきたい。実は、冒頭の学位授与式の話にも一種の偶発債務が紛れている。暇な人は探してみて。

(1)手形遡求義務

p.141の手形遡求義務の設例を時系列的にアレンジし、ついでに会計処理(仕訳)も合わせて学習していこう。仕訳からアプローチしたら、「あっ、そういうことか」と閃くこともあるかもしれない。

設 例

① 2月20日 得意先に商品¥500,000を売上げ、代金は得意先振出しの約束手形(満期日:4月5日)で受取った。

(借)受取手形 500,000
 (貸)売上 500,000

代金は約束手形で受取ったため、このままだと4月5日にならないと入金されない。

② 3月1日 得意先から受取った額面¥500,000の約束手形を銀行で割引き、割引料¥10,000を差引いた手取金を当座預金として預入れた。

(借)当座預金 490,000
   手形売却損 10,000
 (貸)受取手形 500,000

4月5日まで待っていられなくなり、銀行に約束手形を持ち込んで買取ってもらった。しかし、¥500,000では買取ってもらえず、本日から4月5日までの利息分を割引料として¥10,000が差引かれ、¥490,000が入金されることになる。

ただ、話はこれで終わらない。銀行にしてみれば、手形を担保に資金を融資したにすぎず、4月5日に手形支払人が¥500,000を決済できればよいのだが、もしも不渡りを出してしまうと、銀行は矛先を当社に向けて「落とし前きっちりつけてもらいます」ということになるわけである(p.249では「手形遡求義務」として説明されている)。

すなわち、当社は、4月5日までは「もしかすると¥500,000の請求がくるかも…」と、枕を高くして寝れないのである。この状態にあることを「偶発債務」というのである。

ここでもう一度、定義を確認してほしい。偶発債務は「将来において負担が生じるかもしれない」というものなので、3月1日の割引時の仕訳には、もちろんあらわれてこない。簿記的には、対照勘定を用いて備忘記録を行うことは可能である。

(借)割引手形見返 500,000
 (貸)割引手形  500,000

この記録は、偶発債務を貸借対照表に注記するときに役立つ。しかし、「金融商品に関する会計基準」に従えば、次の例のような遡求義務の時価相当額を負債計上することになる。

③ 3月1日 割引時における遡求義務の時価相当額を、一般債権の貸倒実績率に基づき、手形額面の1%と評価した。

(借)保証債務費用 5,000
 (貸)保証債務 5,000

手形遡求義務は、受取手形の消滅に伴って新たに発生した金融負債であるから、時価評価のうえ「保証債務」として貸借対照表の負債に計上するとともに(金融商品に関する会計基準13項)、手形の割引の残高は、貸借対照表の注記事項とされている。ここでの「時価」は、第1回で取り上げた「時価の算定に関する会計基準」を確認しておくとよい。

(2)債務の保証

p.250には債務保証の設例もあるので、若干修正を加えたもので見ていこう。

設 例

① 取引先の借入金¥2,000,000に対して、債務保証を行ったので、対照勘定を用いて備忘記録を実施した。

(借)保証債務見返 2,000,000
 (貸)保証債務 2,000,000

債務の保証を行っただけで、簿記上の取引に該当しないという意味では、仕訳は不要であるが、債務保証した場合、もしかすると債務者に代わって債務を履行する可能性があることから偶発債務が生じている。

よって、この¥2,000,000は、偶発債務として貸借対照表に注記する必要がある。

ただ、この注記は偶発債務だけでなく、債務を弁済した場合の求償権の存在も明示していることに留意する必要がある。

② 取引先の財政状態が悪化し、債務を肩代わりしなければならない可能性が高くなったので、損失額を¥1,500,000と見積って、引当金を設定した。

(借)債務保証損失 1,500,000
 (貸)債務保証損失引当金 1,500,000

第3回で学習した引当金の設定要件4つすべてを満たしたので、債務保証損失引当金を設定している。

ここでは、債務を肩代わりしなければならない可能性が高くなったとしているが、その場合の弁済額は¥2,000,000なのに、引当金として設定した金額は¥1,500,000となっている。

これは、肩代わりした¥2,000,000のうち、債務者に求償しても返還されない可能性の高い損失額が¥1,500,000と見込まれたということである。引当金の設定要件の4つめ「その金額を合理的に見積ることができること」が関連している。

ここはちょっと難しいので、この程度でおいておこう。いずれにしても「偶発債務」(注記事項)から「条件付債務」(負債表示)に格上げ(?)されたということである。

③ 取引先が倒産したので小切手を振出して、債務¥2,000,000を肩代わりするとともに、債務保証損失引当金の全体を、求償債権に対する貸倒引当金に振替えた。

(借)債務保証求償債権 2,000,000
 (貸)当座預金 2,000,000

(借)保証債務 2,000,000
 (貸)保証債務見返 2,000,000

(借)債務保証損失引当金 1,500,000
 (貸)貸倒引当金 1,500,000

1つめは、事実として小切手を振出して肩代わりしており、その額は債務者へ求償するので、仕訳としては問題ないだろう。

ただ、この裏側では、「もしかすると肩代わり弁済しなければならない」という偶発債務が現実のものとなって、偶発債務が消滅したことと、実際に弁済したことにより債務者に対して求償権を行使したことで求償権も消滅しているのである。

この仕訳が2つめで、①の備忘記録の解消(対照勘定の反対仕訳)を行っているのである。

3つめは、③の指示どおりだが、債務保証損失引当金は目的達成により取り崩され、新たに求償債権に対する貸倒引当金が設定される。

ただ、この目的取崩しと貸倒引当金繰入は一連の会計処理とみなされるため、上記のような相殺処理となる。

第3回「引当金」の復習として、負債としての引当金から資産控除としての引当金に変更されていることも改めて確認するとよいだろう。

(3)係争事件に係る賠償義務

これについては『財務会計講義』に具体例は載っていないので、簡単に段階的分類を行って整理しておきたい。

これについても、第3回「引当金」で負債について分類説明したところがあるので、そこも参照しながら学習してもらうと、より横断的な学習効果が高まると思う。


連載スケジュール(毎月1回・最終週の水曜日にアップ予定)

第1回(2020年12月)…「時価(洗い替え方式・切放し方式)」
第2回(2021年1月)…「自己株式」
第3回(2021年2月)…「引当金」
第4回(2021年3月)…「偶発債務」
第5回(2021年4月)…「減損処理」
第6回(2021年5月)…「償却原価法」
第7回(2021年6月)…「割引現在価値」

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