
じゅんし
【編集部より】
公認会計士試験の受験生には毎年、社会人の方が一定数います。また、実際に公認会計士として活躍されている方の中にも前職が経理だった方や異業種からの転職という方もいらっしゃいます。前職の経験がどう活かされているのか、どのように見える景色が変わったのか。今回は、一般事業会社の経理出身であるじゅんしさんに前編・後編に分けて教えて頂きました!
前編では、経理時代に見えていた会計士像と実際に監査側に移って見えた経理・監査の違いについて書きました。
後編では、社会人として働きながら会計士を目指すというのはどういうことなのか、実際に合格してから振り返り、勉強した価値はあったのか、ということをテーマにしています。
公認会計士を目指すまで
私が勤めていた会社は地方の大企業で、いわゆるホワイト企業でした。若手は数年かけてじっくりローテーションを重ねて育てていく、というスタイルで、経理業務は基本的にルーティンが多く、同じ業務を繰り返すことになります。それが悪いことだとは思わないのですが、このペースでまったりしていて本当にいいのか?という漠然とした不安、焦りのようなものがありましたし、一度しかない人生で一つの会社にだけいても面白くないんじゃないか、という気持ちもありました。一方で、職場の人はいい人たちだしそのまま勤めていれば安泰という会社ではあったので、何の担保もないままに会社を飛び出して転職するというような度胸もありませんでした。
経理という仕事を通して公認会計士という資格に出会い、調べるうちに、どうやらこの資格を取れば専門知識を身に付けたうえで働ける、食うに困らず住む場所も好きに選べる、何なら独立もできるっぽいぞということを知りました。この先会社がどうなるかわからないという時代の中で、会社の枠を超えた専門性、働く場所やキャリアの選択肢を持つことは非常に魅力的でした。転職しないとしても間違いなく仕事に役立つだろう、とも考え、受験を決意しました。
社会人受験の厳しさ
会計士受験の予備校に申し込み(今までの人生で一番高い買い物です)、受講を開始します。勉強自体は最初の頃は新しく覚えることが多く、世界が広がる感覚があり楽しかったです。また、会計士試験の試験範囲は非常によくできており、経理実務に直結する内容が多いです。勉強が実務に直接的に役に立っている感覚があったのも、続けられた理由の一つでした。
一方で試験範囲が非常に広いのもこの試験の特徴の一つです。覚えるべきことが多すぎるため1週間前に勉強したことを忘れてしまうなんてことはざらで、同じ問題を何度も何度も繰り返し解くことになるのですが、単純に飽きるうえに自分のできなさを繰り返し突き付けられるようで、かなりしんどかったです。写経や修行の類に近いものだったのかもしれません。
社会人受験で難しいのは、なによりもモチベーションの維持です。働いていれば繁忙期や突発対応、異動など仕事の負荷が高まる時期があるものです。この時期に勉強がおろそかになること自体は仕方ないのですが、問題はその後仕事が落ち着いたときに勉強のペースを以前通りに戻し、継続するということが想像以上に難しいのです。仕事のほかに、プライベートのライフステージの変化などで勉強に集中できない時期ができることもあるでしょう。
そしてなによりも大きいのが、社会人受験生は別に合格できなくても食うに困るわけではない、ということです。切迫感がない状態で、仕事が忙しい時期を乗り越えてせっかくできた時間でさあ勉強しよう、とはなかなかならないものです。会計士試験の受験は通常数年にわたりますので、こうしたペースの乱れ十数回、下手をすると何十回と乗り越えなければならず、こういったところで脱落していく方が多いのではないでしょうか。
会計士試験は相当のお金を費やすことになりますし、投下する時間も千時間単位になります。そして当然ですが勉強をしている間、歳を重ねていくことにもなります。一番怖いのは、ほどほどの勉強をずっと続けてずっと合格できない、という状態が続いてしまうことです。もちろん勉強が完全に無駄になることはありませんが、それでも合格できるかどうかは天と地ほどに違います。
働きながら会計士を目指すのであれば、自分はなぜ試験を受けるのか、なぜ会計士になりたいのか、を明確にしていないと数年を空費してしまう恐れがある、という点はよくよく留意すべきでしょう。
働きながら続けるか、専念するか
私は短答式試験までは働きながらで合格できました。その年は流行り病の影響で短答式試験が5月しかありませんでしたので、短答式試験後8月の論文式試験までの間が3ヵ月しかありません。それまでに論述や租税法、選択科目の勉強を一切していなかったこと、そもそも5月は繁忙期の真っただ中であり、また運悪く夏に異動が重なって忙しかったことから、短答式試験を終えた後勉強らしい勉強をできないまま、ほとんどノー勉で論文式試験を受験しました。結果は当然惨敗です。
ここでこのまま働きながら勉強を続けるか、いっそ受験に専念するかということになるのですが、私の場合はこの時点でもう働きながら勉強を続けるモチベーションが限界に近くなっていました。一方で勉強をすればするほどに専門職として生きていきたい、という気持ちは強くなっており、ならばもういっそ退職して専念しよう、と決めました。
ここまでの間に、退職専念をすることもあり得るだろうと、無職になっても少なくとも1年~2年暮らせる程度のお金は貯めていました。また実際に論文式試験を受験してみて、思っていたほどに合格が遠くにあるわけではなく、数ヵ月専念すれば十分に合格を狙える位置にいる、という感触を得られたのも、退職を決意できた要因の一つです。
社会人受験生が退職して受験に専念することは、大きなリスクを伴います。しかしながら本気で会計士試験の合格を目指す場合、働きながらの勉強を続けて合格できないこともまた、大きなリスクです。「収入を失い、職歴に空白を作ることのリスク」と「受験期間が長期化して合格できないまま年齢を重ねるリスク」を比較して、後悔のない選択をするのがよいのだと思います。とても難しいことですが。
合格後の変化
さて、実際に退職し受験専念に切り替え、無事その年の論文式試験に合格し、監査法人に入所しました。
監査の仕事をやってみて感じた経理との違いは前編で書いた通りなのですが、他にも、実際に合格して感じた変化はいくつかあります。
そのうちの一つは、想像していた以上に自分のキャリアを自分自身で決められるようになったということです。会計士試験に合格する前、前職にいたときは会社を辞める、転職するというのは清水の舞台から飛び降りるような、非常に大きな決断でした。もちろん資格を取ってからも転職、退職が大きな決断であることは変わりないのですが、「どうなっても食いっぱぐれることはないだろう」という感覚で働けるようになりました。転勤を恐れることなく働く場所を自分で選べる、というのも大きいですね。
キャリアの幅も合格前より圧倒的に広がっており、むしろどういったキャリアにしようか迷ってしまうという、合格前の自分から見ると贅沢な悩みも生まれています。経理の実務を理解しつつ、会計監査や内部統制もある程度わかっている人というのは案外貴重なようです。
そして最も大きな変化は、監査法人の同期・同僚はもちろん、補習所やイベント、非公式なところではXをはじめとしたSNSなどを通して多くの方と知り合うことができ、やり取りをする機会が増えたことです。公認会計士や試験合格者がつながるコミュニティは多くあります。社会人数年目になってこのようにコミュニティが広がるということはあまりないですし、皆さんそれぞれに優秀でご活躍している方も多く、非常に楽しく、刺激になっています。
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というわけで、「経理から監査へ!監査を経験して見えたこと」いかがでしたでしょうか。
振り返ってみると会計士試験への挑戦は、単に資格を取得する以上の意味がありました。仕事の内容だけでなく、出会う人やキャリアに対する考え方まで大きく変えるものでした。
もちろん、社会人になってから会計士試験に挑戦するには相応の時間とお金を費やすことになり、場合によってはキャリア上のリスクも伴います。毎年公開されている公認会計士試験の合格者調をみればわかるように、社会人受験生の合格率は非常に低く、間違いなく難関資格の一つです。それでも、自分が何のために公認会計士を目指すのかを考えたうえで挑戦するのであれば、その過程も含めて得られるものは大きいと思います。
この記事が、公認会計士を目指して勉強されている方、公認会計士を目指すことを検討されている方の参考になれば幸いです。
(おわり)
【執筆者紹介】
じゅんし
公認会計士
大手監査法人勤務。新卒で一般事業会社に入社し経理部門に配属され、公認会計士試験の学習をはじめる。専念期間を経て令和4年度公認会計士試験に合格し、実務補習所を短縮して令和5年度修了考査を受験・合格。
・X(旧twitter)(@junshi_networth)
・note(https://note.com/junshi_networth)
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