本試験、合格発表、「その先」のこと―資格がキャリアの扉を開けてくれた


山本 賢志朗(税理士)

【編集部より】
8月には税理士試験、公認会計士論文式試験が実施され、11月には両試験とも合格発表があります。税理士受験生の場合は次の科目の受験勉強を始めている人もいますが、いずれにせよ合否のわからない状況を数か月の間過ごすことになります。 本試験や合格発表、「その先」を見据えて、今何を考えておくとよいでしょうか。経験豊富な実務家の方々からメッセージをお寄せいただきました。

キャリアは今から考え始められる

こんにちは。税理士の山本賢志朗です。Xでは「ボザイ」というアカウント名で、受験時代から勉強の記録を発信してきました。現在は東京で税理士事務所を経営しています。

8月の本試験を終えて、11月の合格発表を待つ。試験の出来を何度思い返しても合否はもう変えられません。私もこの時間を4回経験したので、あのモヤモヤはよくわかります。

でも、ひとつだけ確かなことがあります。合否は変えられなくても、キャリアは今から考え始められる、ということです。むしろ、勉強の手を少し緩められる発表待ちの今こそ、「その先」をじっくり考えるベストタイミングです。この記事では、私の実体験をもとに、合格発表の先にあるキャリアの話をします。

資格がキャリアの扉を開けてくれた ― 私の場合

まず、私のキャリアを紹介させてください。少し変わった経歴ですが、「資格が人生を組み立て直す道具になった」実例として読んでいただけたらと思います。

私は幼稚園から大学までスポーツばかりやってきて、勉強とはまったく無縁でした。20代はやる気のないサラリーマンとして過ごし、30歳のとき仕事を辞めました。誇れるキャリアもスキルも、何ひとつありませんでした。

なにかやらなくてはと思い資格の本を手にしました。その本をパラパラ見ていて出会ったのが簿記でした。知識ゼロから独学で始め日商簿記1級に一発合格。この合格が最初の扉になり、32歳・実務未経験で事業会社の経理に採用されました。これはあくまで私の一例で、同じ速さや順番を目指す必要はありません。

そこから働きながら税理士試験に挑戦し、簿記論・財務諸表論に独学で同時合格。簿財の受験を機に会計事務所へ転職し、税法科目は1年1科目と決めて、消費税法、法人税法、相続税法と積み重ねました。受験の最終年にはもう一度転職しました。そして4年で官報合格。税理士法人での実務を経て、独立開業しました。

振り返ると、 日商簿記1級が未経験の私をこの業界に入れてくれて、科目合格が転職の扉を開き、官報合格が独立への道をつくってくれました。合格発表はそのたびにキャリアの節目になっていたのです。

合格していたら ― 合格はゴールではなくスタート

まず合格していた場合の話です。ひと口に「合格」といっても、税理士試験には科目合格と5科目がそろう官報合格(最終合格)がありその先の景色が変わります。科目合格なら次の科目に挑みながらその知識を実務で活かし始められます。官報合格なら、実務経験などの要件を満たして税理士登録へ進む段階です。

受験勉強で身につけた力は知識そのものとは別のところでも支えになります。わからないことを自分で調べ切る力。ゴールから逆算して計画を立てる力。毎日コツコツ積み上げる習慣。私自身、実務の現場で助けられ周囲からも評価してもらえたのはこの「学ぶ力」でした。

そして、実務に出るともうひとつ気づくことがあります。知識だけではお客様に信頼されないということです。難しいことをわかりやすく説明する力、相手の話を聞く力。合格してからも、学ぶことは山ほどあります。だからこそ合格した後も学び続ける姿勢が大切です。就職先や働き方を選ぶときも、待遇や安定だけでなく将来自分のなりたい税理士像をイメージするとその後のキャリアは大きく変わってきます。

資格の先にある働き方のリアル

資格を取った先にどんな働き方が待っているのか、私の今をお話しします。

私は現在、独立して自分の事務所を経営しています。どんなお客様と仕事をするか、どんなサービスに力を入れるか、どんな道具を使うかをすべて自分で決められます。開業してまだ日は浅いですが、どんな事務所にしていくかを考え試行錯誤しています。

税理士業の傍らで格闘技の試合にも挑戦できているのは、働き方を自分で決められるからです。

30歳の私にはこんな未来はまったく想像できていませんでした。それでも目の前の勉強を積み重ねた先にこの働き方がありました。資格は働き方の選択肢を広げるきっかけになり得る道具です。

だからこそ発表を待つ今のうちになりたい税理士像を一度思い描いてみてください。誰の役に立ちたいか、どんな働き方をしたいか。その未来像が具体的になるほど、合格発表がどのような結果であっても、次の一歩を考えやすくなります。

キャリアをどう捉えるか ― 今の実力だけで未来を決めない

最後にキャリアの捉え方そのものの話です。

資格は「ゴール」ではなく「道具」です。合格した瞬間に人生が変わるのではなく、その資格を使って何をするかで人生が変わります。税理士なら、官報合格と登録の先に、独立して事務所を構える開業税理士、税理士法人の経営に参画する社員税理士、組織の中で専門性を磨く所属税理士など、働き方の選択肢が一気に広がります。どれか一つだけが正解ではありません。自分で選んだ道を、自由にやりがいを持って働ける。それが資格という道具の一番の価値だと私は思います。

そして、今の実力と今見えている選択肢だけで未来を決めないでください。30歳の私は自分が税理士になるとは想像もしていませんでした。さらに言えば、税理士になってから格闘技を再開し、プロ総合格闘家として戦うことになるとも思っていませんでした。試合に向けた準備には、本番から逆算して計画を立てることや、毎日コツコツ積み上げる習慣など、受験勉強で培ったものが生かせる部分が多々ありました。受験勉強で得た力はまったく別の挑戦でも自分を助けてくれるのだと知りました。

AIの進化で会計業界の仕事はこれからも変わり続けます。それでもどんな時代でも一番強いのは学ぶ姿勢を持ち続け、努力を怠らない人です。その姿勢はあなたが受験勉強で毎日積み重ねてきたものそのものです。

おわりに ― 「その先」は、今日から始まる

11月の合格発表では、喜ぶ人も悔しい思いをする人もいるでしょう。でも、あなたのキャリアが動き出す日は発表の日ではありません。「その先」を考え始めた今日からもう動き出していると思います。

合格していたら実務や登録に向けた次の段階へ。不合格でも積み上げた力は消えません。次の一歩はどちらの結果でも踏み出せるはずです。そして資格の先には自分で選んだ働き方で自由にやりがいを持って仕事をする未来のあなたがいると思います。その未来の自分を想像して今の勉強を続けてみるとよいと思います。

勉強と無縁だった私でも30歳から始めてここまで来られました。あなたのキャリアという長い試合はまだ始まったばかりです。次のゴングはもう鳴っています。頑張ってください!

<執筆者紹介>

ボザイ(山本賢志朗)

税理士 KENセコンドパートナーズ税理士事務所所長
幼少期から柔道一筋で勉強とは無縁の生活を送るが、30歳で仕事を辞めたことを機に簿記と出会う。独学で日商簿記1級に一発合格後、働きながら税理士試験に挑戦し、簿記論・財務諸表論は独学、税法は通信で学習し4年で官報合格。現在は税理士業の傍らプロ総合格闘家(ケンシロウ)として格闘技の試合にも出場する「戦う税理士」。Xアカウント「ボザイ」(@bozai888)で税理士試験、仕事、格闘技の発信を続けている。
著書に『税理士試験 全11科目のすごい勉強法』(共著、中央経済社)がある。

<オススメ書籍>

税理士試験 全11科目のすごい勉強法

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