【税理士試験】今年の財務諸表論はどうだった? 諸角崇順先生が予想するボーダーラインと学習アドバイス


諸角崇順(かえるの簿記論・財務諸表論代表)

【編集部より】
2026年8月4日(火)〜6日(木)の3日間にわたり、令和8年度(第76回)税理士試験が実施されました。
そこで、本企画では、「簿記論」・「財務諸表論」・「法人税法」・「相続税法」・「消費税法」について、各科目に精通した実務家・講師の方々に本試験の分析と今後の学習アドバイスをご執筆いただきました(掲載順不同)。ぜひ参考にしてください!

令和8年熊本地震で被害に遭われた方々およびご家族やご友人など大切な方が被害に遭われた方々、心よりお見舞い申し上げます。

また、このたびの地震で熊本での試験日が延期となってしまいました。一度は8月4日を本試験日として追い込みをしていたにもかかわらず、いったん気持ちをリセットすることになった熊本の受験生のみなさまのお気持ちは察するに余りあります。

地震のショックが癒えるまでは勉強から離れてもいいと思います。「そういえば勉強しなきゃな」と少し周りが見える余裕ができたときに再開してくだされば。そして、熊本以外で受験された受験生の方はSNS等で「熊本の受験生はじっくり勉強できていいな」とか「被災したから採点も甘めになるんでしょ?」とか熊本の受験生を苦しめないようにしてください。よろしくお願いいたします。

全体的な感想

理論・計算ともに難しくはなく量も多くなかったため、かなりの高得点での勝負となってくるかと思います。そういった年の本試験はケアレスミスが合否を分けてきます。いかにケアレスミスをしなかったか、違う言い方をすれば、普段の学習からどれだけ基礎を大切にしていたかで合否が決まると思います。

理論に関しては、どこの資格学校(受験予備校)でも取り扱っている論点であり、テキストを重視し基礎理論の徹底した暗記をしていた受験生にとっては比較的解答しやすかった問題でした。また計算に関しても一部捨て論点はありましたが、全体的に平易な問題であったため捨て問をうまく見極められれば40点以上も狙える問題だったと思います。

このように理論・計算とも難易度が総じて低かった上、さらに、試験時間にも比較的余裕がありましたので、ボーダーはかなり高得点になることが予想されます。

<難易度と問題量>

 難易度ボーダー合格確実
第一問★☆☆★☆☆15点19点
第二問★☆☆★★☆18点22点
第三問★★☆★☆☆32点39点
全 体★☆☆★☆☆65点80点

※ 個人的な見解です。
※ ボーダーは、合格率が平均的な場合(20%前後)を想定しています。
※ 合格確実は、合格率が12%前後の場合を想定しています。

<合格率の推移>

 第71回第72回第73回第74回第75回第76回
合格率23.9%14.8%28.1%8.0%31.9%

自己採点をするにあたっては、資格学校(受験予備校)が公表する「ここはとれてほしいところ」「とれなくてもいいところ」などは気にする必要ありません。また「書けた!!」「あんまり書けなかった・・・」なんていう感情も持ち込まないでください。合否はあくまで得点という『数字』で決まります。冷徹に「何点取れたか」だけを集計してください(できれば複数の解答速報を使って、それらの平均値を求めてください)。

そして、本当の意味でのケアレスミスは受験生本人が気付いていない(例:123,000が正解なのに無意識に132,000と書いていた、など)ところで起こっているので自己採点する際とてもやっかいなのですが、普段の模試やテストでの自己分析で「おっちょこちょい」と感じている方は、自己採点を若干厳しめにしておきましょう。

合格確実点に達した方へ

実務での必要性を多少考慮した上で、学びたい!!と思う税法科目を選びましょう。ただし大学院に進学して税法科目の免除を受けようとする方は、就職や転職の際に少しでも不利になることを避けるため、実務でよく使う税法を選んだほうがいいと思います(すでに会計事務所等で特に不満もなく働いている方は、就職や転職を考えなくていいのでどんな税法科目でもいいと思います)。

ここで注意していただきたいのは、酒税法や固定資産税などはミニ税法と呼ばれることがあり法人税法や所得税法より受かりやすいと思っている方がいらっしゃいますが、受かりやすさはどの税法もほぼ同じです。ミニ税法は学習項目が少ないというだけで、合格する受験生はテキストや問題集を20回、30回と繰り返し学習してくるので、ものすごくハイレベルな戦いになるためです(ケアレスミスひとつが命取り)。いっぽう、学習項目の多い法人税法や所得税法はケアレスミスひとつぐらいなら致命傷となることはありません。

<実務でよく使う税法科目>

法人税法、消費税法、所得税法など

<科目ごとの合格標準時間>

科目合格標準時間
簿記論1,000時間
財務諸表論1,000時間
法人税法2,000時間
所得税法2,000時間
相続税法1,800時間
消費税法1,500時間
酒税法800時間
事業税1,000時間
住民税1,000時間
固定資産税1,200時間
国税徴収法1,200時間

ボーダーには達していたが、合格確実点に達しなかった方へのアドバイス

1 税法科目に進まれる方

税法科目に進まれると簿財との合格標準時間の差に愕然とされると思います(法人税法や所得税法は1科目で簿財2科目分以上の勉強時間を必要とします)。また、基本的に税法科目の受験生は簿財の合格者で構成されるため、受験生の質もかなり高くなってきます(受験生全員が「努力のできる人」で構成されるからです)。

よって、日々、税法固有の細かな計算や財務諸表論とは比べものにならない量の理論暗記に追われ、財務諸表論の復習なんかしている時間がない、というのが現実となってきます。いくら講師が「万が一のことも考えて財務諸表論の勉強も時々しておいてよ!」とお願いしても、です。

ならば、いったん財務諸表論のことはいったん忘れて、新しい税法科目を今年の直前期の勉強ペースで学習してください。その際、比較的合格標準時間の少ない税法科目、かつ、年内で全範囲の学習が終わるコースを選択しておくといいと思います。そうすると、財務諸表論に合格していた場合、年内に学習していた税法科目についてはそのまま年明け以降受験経験者コースに合流し、さらに知識に磨きをかけることができますし、仮に財務諸表論に不合格となり財務諸表論に戻ることになったとしても、その税法科目の一部分のみをつまみ食いした状況ではないので(12月末までにその税法科目の全範囲の学習を終えていることになるので)来年やり直すにしてもリスタートがしやすくなるからです。

2 税法科目に進まず財務諸表論にもう一度チャレンジする方

ボーダーには到達していたわけですから税法科目に進んでいいのですが、どうしても不安が残るなら合格発表を待たず財務諸表論に戻ることを考えていいと思います。ただ、そのときは合格発表まで今の実力を落とさない程度の勉強をしておけば充分です(特に学校等に申し込む必要はないと思います)。そのために実行していただきたいことを理論と計算に分けて書いておきます。

<理論>

月1回のペースで、財務諸表論(会計学)の基本書(例えば『エッセンシャル財務会計』(井上達男・山地 範明、中央経済社)など)の通読をしてください。今までは、暗記!暗記!ひたすら暗記!!と前のめりになってしまい「木を見て森を見ず」の状況になっていた可能性がありますので、「本試験日まであと○日!!」といったように焦りを感じずにいられるこの時期に財務諸表論の全体を何度も繰り返し俯瞰しておくのはかなり効果的だと思います。そうすることで、今まで点の知識(丸暗記の知識)だったものが線(理解を伴う暗記)としてつながり始めます。

通読する際の注意点

1冊の基本書を1ヵ月(30日)かけてじっくり読むのではなく、休日一日を基本書の通読にあてる等、短期間で一気に通読してください。そうしないと、基本書の前半に書いてあった内容と後半に書いてある内容がつながる論点の場合に、そのつながりに気付けないことがあるからです。

そして、過去の受験生の方からも毎年のようにたくさん質問されることとして、「暗記した理論を忘れないようにする努力はしておいたほうがいいですか?」というものがあります。この質問に対する私の回答は「しなくていいよ」となります。というか、「しないでください」と言いたいぐらいです。意外に思われるかもしれませんが、ちゃんとした理由があります。

本試験から合格発表まで約4ヵ月ありますが、この約4ヵ月という時間の流れの中で、あえて記憶のメインテナンスをしないことで丸暗記に頼っていた部分がそげ落ち、理解を伴って記憶していた部分だけが残ることになります。万が一、合格発表での結果が思わしくなかった場合、仕切り直してリスタートとなるのですが、そのときになっても丸暗記した部分を残しておくと、次の年も結局、丸暗記に頼った受験をしてしまうことになります。そこで、あえて合格発表までの4ヵ月を基本書の通読という知識の連結に使うことで、合格発表後の理論の「理解」につなげていってほしいと思っています。丸暗記のメインテナンスよりもこちらのほうがきっと得点力は上がるはずです。

<計算>

可能であれば毎週ひとつは総合計算問題を解いていただきたいと思います。特に簿記論の受験が終わっている場合は、絶対に実行していただきたいと思います。

計算に関しては仕訳を丸暗記している方はほとんどいないと思います。よって理解した上で解いているはずですが、みなさんが生まれたときから慣れ親しんでいる日本語を使って答える理論とは異なり普段の生活で計算の知識はまず使わないので、合格発表までの約4ヵ月間ほったらかしにしていると確実に知識が抜けていってしまいます。

また、本試験後のこの時期は、比較的心に余裕のある状態で問題に向かい合えると思いますので、いろいろなことを試してもらいたいと思います。

まず、解き方について。

SNS等で合格者の勉強方法を知る機会もあると思います。たとえば、計算用紙に仮計を作るor作らない、最初から解くor解けるところから解く、マーカーを使うor使わないなど。時間に余裕のあるこの時期に自分と受験環境の似た合格者の解き方をマネして、いいと思えたものは取り入れていきましょう。

次に、時間配分。

手元には、受験前に解いた総合計算問題がたくさんあると思います。模試形式だと良いのですが、問題集形式の場合、標準解答時間(解答の目安となる時間)があらかじめ記載されているかと思います。その場合は、まずそれを消し込みましょう。すでに一度は解いた問題。そんなものは時間内に解けるに決まっています。

そして、消し込みが終わり総合計算問題を解く、となったとします。その際は、1~2分使って「今の自分の実力だと何分で解けるかな」というのを推測しメモしてから解き始めましょう。解答後、推測した時間と±20%以上ズレるなら、本当の意味での実力(解答力+問題分析力)が備わっていないと判断できます。計算力というものは、ただ単に問題が解けるだけではなく、問題文を見た瞬間に「あ、この資料は○分で解けるな」と判断する力も含んだ概念です。この判断が受験を経験していても正しく機能しないのは単純に問題演習不足です。推測した分数と±20%以上ズレてしまう方は週にふたつは総合計算問題を解いておくようにしましょう。

受験前に解いた問題を上記のプロセスで解き直したとします。その後、同じ問題をもう一度解き直す際は、受験後1回目の解き直しにかかった時間の3分の2の時間で2回目以降は解き直しましょう。強制的に焦る環境を作り出し問題を解くことで、焦ったときだけ顔を出すミスが浮き彫りになります。

他には、あえて騒がしい場所で解いてみる、完全に真っ白な紙を解答用紙にして解答してみる、など、本試験直前には試すことができなかったことをこのタイミングで試して、自分にとって最善の勉強方法を見つけてもらいたいと思います。きっと、税法に進まれたときにも役に立つと思います。

ボーダーに達しなかった方へのアドバイス

再受験で確実に合格をつかみたいのならば独学ではなく資格学校等に申し込まれたほうがいいと思います。そして、学校や講師の指示に従って基礎から学び直してください。

成績が思うように伸びない方は、例えば、カリキュラムから遅れる、テストを提出しない、など、学校や講師の指示に従わない傾向、いわゆる自己流の勉強方法をとっている方が多い気がします。まずは素直かつ謙虚な気持ちでカリキュラムに沿って基礎から学び直していきましょう!

講師はその時期に応じた勉強法のアドバイスなどを授業中に話します。年末にやっておいてほしいことは、当たり前ですが、年末の授業で受験生のみなさんにお伝えします。でも、受験生が学校のカリキュラムに従わず、そのアドバイスを3月とかに聞いたら・・・。またテストの添削を通じて、文字や数字のクセに対する指摘を受けたり、一般論ではなく一人ひとりの受験生に寄り添ったコメントをもらえたりすることもあります。

昔と異なりネット環境等が整ったことで今は通信のほうが通学より有利になることが多くなっています(いつでもどこでも授業が受けられる、コロナやインフルエンザに罹るリスクを減らせる、通学に要する時間が不要、1.5倍速等で聴ける、24時間いつでも質問ができる、など)。しかし、通信の最大の長所である「いつでもどこでも授業が受けられる」は短所になることもあります。今日は疲れたから明日にしよう、というように。

リベンジを果たすためには今年以上に自己管理を徹底し、この悔しい気持ちを忘れないうちに勉強習慣を身体に叩き込みましょう!

最後に・・・

本試験、本当にお疲れさまでした。特に悔しい気持ちで受験を終えた方は捲土重来を期すため、すぐに勉強に戻られるかもしれませんが、少しは頭と身体を休めておかないと次の一年がもちません。短い夏とはなりますが、受験生活に協力をしてくださったご家族や恋人、友人などとの楽しい時間を過ごして心身共にリフレッシュしておいてください。

【著者プロフィール】

諸角崇順(もろずみたかのぶ)

同志社大学法学部3回生の9月から税理士試験の学習を始め、簿記論及び財務諸表論に一発合格(法人税法も一発合格)。
法人税法の受験後、大手資格学校にて講師デビュー(財務諸表論)。8年目より法人税法の講師も兼任(通算17年間在籍)。
大手資格学校退職後、佐賀県唐津市に移住し、個人運営の資格学校を立ち上げる(後に法人化 学校名「かえるの簿記論・財務諸表論」)。立ち上げ後6年が経過し、ついにお申し込みをお断りしなければならないほど受講生数となる(通算の講師歴は29年、指導させていただいた受講生は3,000人以上)
著書に『税理士になりたいと思ったら読む本』(中央経済社)がある。 
<旧ホームページ>https://peraichi.com/landing_pages/view/sakura-saku
<新ホームページ>https://www.sakurasaku-manabi.com

〔書籍紹介〕

税理士になりたいと思ったら読む本

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