【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。
沖縄県那覇市の社労士!
沖縄県那覇市で社労士事務所を運営しています、藤内秀樹と申します。
この記事では、2022年に独立して社労士として歩み始めた私の経験についてお話しします。
士業を目指している方に、少しでも参考になる部分があれば幸いです。
ブラック企業勤務から沖縄移住、日本郵便に転職
新卒で就職した会社がいわゆるブラック企業でした。
50名ほどいた同期の新入社員がどんどん辞めていき、一年が経とうとする頃には残っているのは自分ひとりだけ。
思い返すと、なかなかにハードなところでした。
そこを退職した後、20代前半で沖縄移住をしました。
大学生のときにダイビングショップでアルバイトをしていたこともあり、海が好きだったので。
移住当初はフリーターだったのですが、なんとか定職につかなくては!と思い公務員試験を受けて、ご縁をいただいた日本郵政公社(現:日本郵便株式会社)に入職しました。
ゆうちょの年金相談会をきっかけに年金に目覚め、社労士資格を取得
郵政では、一般的にイメージするような窓口の郵便局員の仕事をしていた期間もありましたが、その他にもいろいろな仕事を経験させてもらいました。
その中で、ゆうちょのお客様向けの年金相談会の開催に携わったことが私と年金の学びとの出会いでした。
さらに、この相談会には社労士の先生がアドバイザーとして招かれており、社労士資格との出会いの場ともなりました。
年金についての知識は、それまでほとんどありませんでした。
どんな年金がどれくらい受給できるのか、さっぱりわかりませんでした。
そしてそれは、お客様も同じでした。
年金を受給する年齢になっても、年金のことをよくわかりません。
制度の不理解から、請求できるはずの年金を放置しているケースもしばしばありました。
いったい、人はいつ年金について知るんだろうか…?
「まずは自分自身がもっと詳しくならなくては」と思い、年金について勉強しました。
勉強すればするほど奥が深くて、その延長として社労士の資格を取得しました。
合格するまで受験に何年もかかってしまったので、実際には一行で書くほど簡単ではありませんでしたが。
年金相談は人生相談、キャリアについて考えるように
あきらめずに社労士試験の受験を続けられた理由の一つに、年金相談を通じて得たキャリア観があります。
「年金相談は人生相談」です。
相談を通じて、多様な方々の人生を垣間見ることになりました。
その中で、60代で余裕をもって生き生きとしている人に共通することがあることに気が付きました。
それは、これまでに培った能力を活かして仕事やプライベートを充実させていることです。
プラスして、何らかの資産から収入を得ているケースも多いと感じました。
肝心なのは、資格と資産であると認識しました。
士業は高齢になっても続けられますし、会社を退職してもアイデンティティの連続性を保てます。
勤務するにせよ、独立するにせよ、資格を取得することは大事だと思いました。
また、比較的簡単に持てる資産として、株やETFをコツコツ買うようにしました。
社労士合格後、集まりに積極的に参加
資格取得後は、社労士の集まりに積極的に参加しました。
社労士の知人からは「沖縄在住のはずなのにいつも東京や大阪にいる!」と言われるほどでした。
勉強会の場で講師をさせていただいたことや、SNS・ブログによる発信を続けたことから「年金の人」というイメージができてきました。
社労士は労務関係をメインにしていることが多く、年金をメインの業務にしている社労士は、じつは少数派です。
その希少性もあって、覚えていただきやすかったと思います。
社労士は扱う業務が幅広く、社労士同士で学び合ったり、仕事の案件を紹介したりすることもあります。
力を入れている分野があればそれを口に出しておくことは大事だと思います。
『ねんきんわか~る』というブログも開始
ブログについては、立ち上げ初期は書きやすくて確実な需要がある、社労士試験の体験談から書き始めました。
この頃の記事は、認知度とSEOを上げる効果がありました。
実際に「社労士試験 睡眠」や「特定社労士 試験対策」で検索していただくと、私のブログ『ねんきんわか~る』が上位に出てきます。
その後、年金の記事も増やしていますが、難しい面もあります。
わかりやすさと正確性の両立です。
年金制度は字面が堅く、例外も多いために文章が難解になりがちです。
一方で、かみ砕きすぎると語弊が生じることもあります。
そのバランスをどう取るかが悩みどころ。
伝えたい相手を具体的にイメージしながら調整しています。
ブログを書いたりSNSで発信するための情報収集においては、一次資料を重視しています。
年金はとにかく誤解が多く、さらにメディアの報道も興味関心を引くために不安を誇張するかのような伝え方になっていることがよく見受けられます。
違和感のある記事を見たら、まずは根拠となる厚労省の資料を確認すること、できれば先駆けて最新の情報をチェックすることを心がけています。
2022年2月に独立開業、より専門的な年金相談を実践
「企業内にいるままだと専門性を磨きにくい」と思い、2022年2月に独立開業しました。
前職は沖縄生活を安定させてくれたありがたい職場でしたし、人生の方向性を決めるきっかけをくれたことにも感謝しています。
ただ、「自分のやりたい方向に進みたい」気持ちが強くなりました。
開業時から現在まで、年金事務所で週に2~3回ほど年金相談員をしています。
年金事務所はご年配の方が相談に来る場所と思われがちですが、実際には老齢年金だけでなく、障害年金や遺族年金、さらに離婚分割の手続きなども扱うため、若い方も訪れます。
また、職種や所得などの属性が偏ることがないため、幅広い背景を持つ方々の相談を経験することになります。
こうした経験を通じて、現場でしか得られない貴重な知見を蓄えることができています。
学んだことを活かして社労士事務所においても、個別の年金相談や障害年金の請求代行に取り組んでいます。
相談の際には、年金記録を拝見したら「ほめる」ことを心掛けています。
保険料をがんばって納められたり、会社勤めを続けてこられたりした結果ですから。
免除をぬかりなく手続きをしていたら、さすがと思いますし。
それをちゃんと口に出すようにしています。
趣味のスキューバダイビングで気分転換
趣味のスキューバダイビングは、開業初年度はさすがにやる暇がほぼありませんでした。
2年目以降は再開しています。
自営業だと、常に仕事のことを考えてしまいがち。
週末もなんやかんやで仕事をしています。
また、年金は何かと批判の声にさらされやすいので、ときに心が痛むこともあります。
そんな中、無心になれる時間があるのは大切なこと。
沖縄に住んでいると半日でも時間が空けば気軽に潜れるので、いい環境です。
あと、海で撮った映像が素材として使えてプロモーションにもなっているので、一石二鳥です。
これからのこと
「年金の正しい理解を広めたい」という思いがあります。
今後もそれに繋がる活動を続けていきます。
年金は本当に誤解の多い制度です。
また、現役期の方からすると保険料を支払う側なのでおもしろくはないかもしれません(実際には障害年金や遺族年金を受給する可能性があるのですが)。
私は今までの仕事柄、年金の納付も給付もたくさん見てきました。
その経験から得たことを伝えていきたいです。
制度を正しく理解し、未来について過度に悲観的にならないことが大事です。
もし仮に、年金制度がないとしたら、老いやケガ、病気で収入が途絶えることがどれほど怖いだろうと思います。
年金はゆく先の心配を減らしてくれることで、何より大切な今を充実させて生きることを支えてくれている制度なのだと考えています。
<プロフィール>
藤内秀樹(ふじうち・ひでき)
特定社会保険労務士
あおうみ社労士事務所
1977年生まれ、愛媛県松山市出身。
20代前半で沖縄に移住。日本郵便株式会社において年金相談会の開催を経験。年金制度に興味を持ったことから2018年に社労士資格を取得。社内研修の講師を担当し、年金アド3級試験で団体最優秀賞と個人優秀賞をW受賞。
2022年2月より沖縄県那覇市で開業。行政協力で年金事務所の相談員を務める傍ら、年金相談や障害年金請求代行、セミナー講師等を通じて、安心・納得の年金受給のサポートに尽力。日本年金学会会員。
著書に、『社労士の資格カタログ』(中央経済社、共著)がある。
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