私の独立開業日誌 #行政書士・林 健一


【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。

経験や人脈ゼロから即独!

はじめまして。京都で開業している行政書士の林健一と申します。

「独立開業日誌」にご掲載頂けるという事なので、今回、行政書士に関連する経験や人脈等が一切無い状態で開業した私が、最初に最も行き詰った「どうやって仕事を覚えていくのか?」「専門業務はどうやって選ぶのか?」といういわゆる「即独」行政書士にとって誰もがぶち当たる壁についてお話しようと思います。※即独=合格後すぐ独立開業すること。

プロフィール写真

業務をどうやって覚えるの?

「独立開業型」の資格と言われる行政書士ですが、実際、下積みなど、業務を学ぶ経験なく独立開業する方が大勢います。

私もその一人ですが、士業関連の事務所での勤務経験や、関連の深い業界での経験等がなく、試験に合格して即独立をした行政書士が最初に行き詰るのは、営業のやり方などではなく、もっと前段階、そもそも仕事のやり方がわからないという事でした。

行政書士試験の対策で学んだことは、根拠法の読み解きなどには役に立ちますが、業務そのものの知識ではありません。例えば相続法については民法の一部として学びますが、試験に合格しただけでは顧客の状況をヒアリングして遺言状の原案に落とし込んだり、遺産分割協議書を作成を進めるための具体的な手順等はまったくわかっていません。

許認可業務を手掛けるにしろ根拠法や手引きを読み込むだけでは、許可が取得できるか判断の難しいケースには対応することが難しいです。また許認可は行政庁や、その担当者の裁量の範囲が相当に大きい場合が多く、知識を詰め込んだだけでは顧客の相談に、自信を持って答える事が出来ません。

各都道府県の行政書士会で行われている研修会も、基本的に座学なので、ただ単に受講するだけでは手引きを読み込むのと変わりません。

他の行政書士事務所の補助者として経験を積んだり、仕事を手伝わせてくれる先輩行政書士のツテなどがあれば、先輩の仕事を横で見ながら少しづつ覚えていく事が出来ますが、ツテもなく即開業した行政書士には、そんな機会はありません。

そこで、私が実践したのは「質問力」を鍛えるという事です。

まずは当然の事ですが、手引きや関連書籍はしっかり読み込みます。その上で、要件などについて具体的にどのようなケースが該当するのかや、○○なケースの場合どうなるのか等、よくわからなかった事をリストアップします。

次に、顧客が質問してきそうな事をリストアップします。

「先生に依頼したら、いつ頃許可が取れますか?」など、必ず聞かれるであろう質問も、手引きに書かれた標準処理時間を知っているだけでは正確に答える事が出来ません。申請するまでに用意する事や、それに要する時間もわかっていないといけませんし、物件の所有者から署名捺印をもらう必要があるなど、第三者が絡む場合もあります。

このように、よくわからなかった事や、どう返答すれば良いか自信の持てない想定質問をすべてリストアップします。

そして、そのわからない事がわかるようになるためには、どんな質問をすればいいか、それを質問に落とし込みます。

「この質問リストにすべて誰かが答えをくれれば、もう不安な事は残ってない」というレベルの質問リストを作成するのです。

質問相手は研修講師や役所の担当者や、先輩行政書士です。

研修の講師は、中には手引きや用意したテキストを読み上げるだけの方も多くいますが、業務に関する経験は間違いなく豊富な人なので、質問に答えられないと言う事はありません。

役所の担当者も、彼らは講師ではないので、1から丁寧に様々なケーススタディを教えてくれる事はありませんが、事前に用意した質問には答えてくれます(一般人として問い合わせるか行政書士を名乗って問い合わせたほうがいいかは判断の難しいところですが)。

先輩行政書士もよほど目をかけている後輩でもない限り、長い時間をとって1から業務を教えてくれる程ヒマではありませんし、そうする理由もありません。しかし、支部のイベントなど、何かでお会いする機会に、事前に用意している質問に、答えてくれる程度の親切心は多くの方が持っておられます。

どれだけ勉強しても、実際に経験したことがない事を、いきなり専門家として顧客と商談して、役所との折衝を行うのは、想像よりかなり難しいことだと思います。よくやりがちな失敗(というか効率の悪いこと)に、全然知識のない状態で実務研修や講座を受けに行くという事です。

それでは手引きや実務書を読むことと何も変わりません。研修や講習は、自分で調べるだけではどうしてもわからない事や、想定される問題の実務上の対処法などを質問しに行く場所だと考えないといけません。

自分が経験したことがない事であっても専門家として業務をこなす、そのために大切な能力が「質問力」なのです。

専門業務はどうやって選ぶのか?

行政書士には様々な業務分野があります。

その中で、専門分野を選択し、開業していく事になるのですが、そうは言っても、どの業務が自分に向いているだとか、興味のある分野なんて特にない・・・という事もあるかと思います。

前職等これまでのキャリアに関わりのある業務があれば、まずはその業務をやってみようと考えると思いますが、特に今までのキャリアと、行政書士業務が関わりが無いという方も大勢いるでしょう。

そんな場合は、考え方を変えて、自分の得意な営業方法から、それに向いた業務を選んでみるのもいいかもしれません。

交流会や研修会等での人脈作り・ネット集客・ポスティング・ダイレクトメール・広告・テレアポ・訪問営業・etc…

ネット集客だけでも、ホームページやSNS、ブログや、検索上位表示対策に検索連動広告、その他サイトへの広告など、集客方法は様々です。

それぞれ、その業務に向いた営業方法があります。営業方法と選択した業務の組み合わせが悪いと、なかなか結果が出ません

例えば、他士業とも業務範囲が重なる分野や、行政書士資格が必須とは言えない業務は、それだけライバルも多く、ホームページでの検索上非表示対策で戦うのは厳しいケースが多いです。

許認可業務であれば、開業時や、業務拡大時に需要が出るので、ポスティングやダイレクトメール、テレアポ、訪問営業等のプッシュ型の営業では、ちょうど需要のあるタイミングで営業をかける事が出来る可能性は低く、効率が悪いと考えられます。そういった場合、ホームページの検索対策や、タウンページ掲載など、見込み客が専門家を探している時に、自分の事務所が見つかりやすくする営業方法のほうが効率は良いと考えられます。

助成金・補助金等の資金系の業務であれば、見込み客の業種を問わないので、経営者の集まりなどの交流会での人脈作りが向いています。

どの業務を専門にしていくべきか迷っている方は、まず、自分の得意な、または出来そうな営業方法から逆算して、専門業務を考えてみるのも一つの方法です。

行政書士を目指す方へ

行政書士資格は、業務範囲も広く、アイデア・やり方次第で様々な可能性が広がる資格です。

逆に言えば、資格を取っただけではどうにもなりません。どんな資格もそうだと言えるかもしれませんが、正直、それだけでは他の資格よりも激しくどうにもなりません(笑)。

その事から「食えない資格」という人も中にはいます。

しかし、業務選択・営業方法などの選択からビジネスプランをしっかり練り上げる事が出来れば、とても有望な「独立開業型」の資格です。

<著者略歴>
林 健一(はやし・けんいち)
行政書士。
1980年11月生まれ。2018年度行政書士試験合格、2019年9月に林行政書士事務所を開業。飲食店の開業サポートを主軸に事務所運営。著書に、『行政書士試験に150時間で合格する勉強法』『超具体的ビジネスモデル公開付き 行政書士開業・集客マニュアル』(kindle)がある。

Twitter @Insane_bias

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