【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。
食品関係の営業職からのキャリアチェンジ
はじめまして。
大阪府豊中市で行政書士をしております林博之と申します。
大学卒業後に食品関係の会社に入社して以来、複数の会社に転職してきました。ほとんどが食に関する会社で、約30年間、営業職に携わってきました。
ここでは、私の開業について書かせていただきます。お勤めされながら独立開業を目指されている方に少しでもお役に立てれば幸いです。
氷河期世代、法学部に入るもご縁があった食品会社に入社
私が生まれた年が第二次ベビーブームと呼ばれた1971年です。今では考えられないほどの子供の多さでした。二浪の末、何とか大学の法学部に合格することができました。
入学当初は公務員を目指し、法律の勉強を頑張っていましたが、浪人時代の反動か、途中から志を見失い、「単位を取って4年で卒業すること」が目標になりました。
悪いことに、就職活動のタイミングでバブル経済がはじけました。いわゆる「氷河期」に突入し、大変厳しい就活を経験しました。
苦労の末、もともと食に興味があり、ご縁があって食品の会社に入社することができました。
昔から食品業界は浮き沈みがなく、安定している業界であると言われていたのも、業界を志望した動機の1つでした。
ただ、私が社会に出た頃の食品業界は、昔ながらの風習が残り、コンプライアンスも今ほど徹底されていませんでした。
度重なる不祥事がニュースで流れ、「時代についていけない会社は淘汰される」という感覚を持ちながら、日々改善活動に力を入れて働いてきました。
この30年の間には、ISОやHACCPなどの品質基準や工程管理が浸透して、食品業界全体の流れとして安全性が確立してきたと思います。
コロナ禍の不安の中、行政書士試験の勉強を開始
サラリーマンとして長い間勤めてきましたが、そのような中で発生したのが新型コロナウイルスとそれに伴う活動の自粛です。
「コロナがこのまま感染拡大すれば、会社や自分はどうなるんだろう」と不安になりました。
その時に、ふらっと立ち寄った本屋で手に取ったのが、行政書士のテキストでした。
「独立開業が可能で、必死に勉強すれば今からでも受かるかもしれない…」と決心したのを、昨日のことのように覚えています。
民法などは大学時代に学んだものからかなり改正されてましたが、法律学習に懐かしい気持ちもあり、一念奮起して、2020年2月から独学で勉強を始めました。
独学で勉強。2回目の試験で合格!
独学で一番の悩みは勉強のモチベーションを維持することでした。
同じタイミングで行政書士の勉強を始めた方のYouTubeを参考にしたり、Twitter(現X)から試験の情報を集めたりしながら、仕事終了後や土日など毎日欠かさず勉強しました。
散歩や車での移動中は耳から勉強、トイレには付箋を貼り、お風呂には問題集を持ちこんでました。
特にお風呂は「絶対に湯舟に問題集を落とせない緊張感」もありました。
「絶対1回で受かる」
そう決めて臨んだ本試験。
結果は8点足らずで不合格でした。
自己採点で択一式が170点。合格点は180点なので、「記述式であと10点あれば…」と期待をしていましたが、1問マークミス、記述が6点と残念な結果となりました。
この結果に落胆はしましたが、「十分合格圏内まで手が届く」とわかりました。
そこで、2年目は勉強時間より勉強の内容を重視し、その結果、無事に合格できました。
2年目は択一式の自己採点で164点とることができたので、記述式で16点取れれば合格です。
それでも、合格発表までの約2ヵ月間が本当にしんどかったです。
不安な気持を抑え、自分の受験番号を見つけた時の喜びは一生忘れないと思います。
2023年3月に念願の独立開業
合格年の翌年に宅建士の試験、簿記検定を受験し、当初考えていた資格の勉強を終えました。
そして、2023年3月に念願の行政書士事務所を開業しました。
最初の仕事は、支部紹介の軽自動車の登録業務でした。
はじめて業務を受任、完了し、入金を確認した時は「自分も行政書士になれたのだ」と実感がありました。
2件目の依頼も紹介で、ある許認可の申請手続きを行いました。
もちろん、はじめての業務なので許可の手引きを確認し、書籍を読み、いろいろと調べ、それでも不明な点は支部の先輩などに質問したりしながら、無事に受理されました。
その後、同じ会社から他の許認可の業務、入管の手続きなど、複数受任することができ、現在も継続しています。
私自身、会社員の営業職時代にはさまざまな会社と取引してきました。
行政書士として開業したことをお伝えすると、入管や補助金などの仕事の受任につながることもあり、徐々にお客様の数も増えました。
開業当初は不安もたくさんありましたが、合格同期や同じ支部の会合、研修などに参加し、人脈が築けたことが仕事につながりました。
自分自身を商品として「営業」する
いろいろな人に会い、自分の存在を知っていただくことが大事です。
開業して約1年半ほど経ちましたが、まだ「この業務に特化していこう」という方向性はありません。王道である許認可をはじめ、外国人の入管業務、旅行者向けの民泊の展開、自動車業務などを主な業務として展開していきたいと考えています。
30年間、会社の商品の売上向上のために必死に営業活動を行ってきましたが、はじめて自分自身を商品として「営業」しています。
この営業に楽しみを感じつつ、よりお客様に満足していただけるように、日々精進していかなければと思っています。
苦労の多かった激動の会社員時代でしたが、独学で合格し、行政書士を開業しました。
ここ数年、自分の実力以上の力が発揮できたと思います。
いわば、「人生で一番、自分の人生を真剣に生きた数年間」でした。
これからは、行政書士としての活動を楽しみながら業績拡大に向け、頑張っていこうと思っています。
プロフィール
林 博之 (はやし・ひろゆき)
行政書士はやし法務事務所代表
1971年(昭和46年)生まれ、大阪府豊中市在住。
・保有資格:行政書士、宅地建物取引士、F P2級
2023年11月申請取次取得/2024年6月住宅宿泊管理業登録。
趣味は毎週の草野球。
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