【経済ニュースを読み解く会計】仕事だって、渋滞する!?ー業務の混雑が引き起こすコスト


小笠原亨(甲南大学経営学部准教授)

【編集部より】
話題になっている経済ニュースに関連する論点が、税理士試験などの国家試験で出題されることもあります。でも、受験勉強では会計の視点から経済ニュースを読み解く機会はなかなかありませんよね。
そこで、本企画では、新聞やテレビ等で取り上げられている最近の「経済ニュース」を、大学で教鞭を執る新進気鋭の学者に会計・財務の面から2回にわたり解説していただきます(執筆者はリレー形式・不定期連載)。会計が役立つことに改めて気づいたり、新しい発見があるかもしれません♪ ぜひ、肩の力を抜いて読んでください!

「一難去ってまた一難」より「泣きっ面に蜂」がツラい

「一難去ってまた一難」という、ことわざがありますよね。

せっかく大変なことが終わったのに、また別の大変なことが来てしまったという意味です。「せっかく恋人と仲直りしたのに、次は仕事でトラブルが起こった」とか、「大学の定期試験が終わったと思ったのも束の間、すぐに資格試験が控えている」とか。

あまり良い意味ではありませんが、それでも「一難去って」いるだけ、まだマシといえるかもしれません。

似たようなことわざで「泣きっ面に蜂」というのもあります。

こちらは大変なことに取り組んでいる最中に、別の大変なことが来てしまうという意味で、さっきよりも悪い状況です。大変なことと向き合わなければならない時期が重なるため、1つずつ取り組もうとすれば、取り組んでいないほうが順番待ちになるという嫌な状況です。

こんな状況はできれば避けたいですよね。大変なことが続けて起こったとしても、「一難去って、また一難」のように順番に解決していきたいものです。しかし、そう言ってもいられないときだってあります。

業務が立て込むと、捌ききれずに渋滞する

企業においても、業務が特定の時期に集中すると、捌ききれずに順番待ちの状態になってしまうことがあります。たとえば、こちらのITmediaの記事をみてみましょう。

記事によれば、2023年11月27日に佐川急便の配達が遅延したと報じられています。佐川急便の説明では「大幅に物量が増加しており、全国的に荷物のお届けに遅れが生じている」とのことです。
この時期はAmazonのブラックフライデーや楽天のスーパーセールなど、大手ECサイトの年末商戦の時期であったため、それが物量増加の原因の1つではないかと考えられます。

結果としてたくさん荷物を配送する場合でも、1つの注文を捌いたあとに次の注文が来ればよいのですが、こうしたイベントが特定の時期に集中してしまうと、一難去らないうちに次が来てしまい、配送物が順番待ちの状態になります。

順番待ちの列が長くなるほど、注文してから配達が終了するまでの時間は長くなりますよね。道路が渋滞していると、目的地に到着するまでの時間が遅くなるのと同じ原理です。このように、業務が特定の時期に集中すると、業務に「渋滞」が発生します。

業務が渋滞すると、どうなるか?

業務に渋滞が発生すると、様々な問題が生じます。

例えば、工場の製造プロセスで渋滞が発生した場合、順番待ちをしている仕掛品や原材料を保管しておくためのスペースや費用が必要になってきます。さらに順番待ちの時間が長くなれば、納期に間に合わなくなる可能性も出てくるでしょう。

また、できるだけ早く業務を処理しようとすると、別の問題が生じます。配送業の例でいえば、通常は依頼しないであろう高単価のドライバーに外注しなければならないかもしれません。
こうした外注を避けようと現有のドライバーだけで配送を強行すれば、長時間運転による交通事故のリスクが増加する可能性もあります。

このような業務の渋滞に伴う追加コストを「混雑コスト(congestion costs)」といいます。congestionは、渋滞という意味を含む単語なので、イメージ通りのネーミングですね。

「少し余裕がある」くらいのほうが望ましい

さて、業務の渋滞を防ぎ、混雑コストを抑えるにはどうすればよいでしょうか。主に2つのアプローチが考えられます。

第1のアプローチは、特定の時期に業務が集中しないように、業務量を平準化させることです。需要予測を行い、前もって行動しておくことなどが該当します。

第2のアプローチは、業務を処理するキャパシティに余裕をもたせることです。道路が広ければ車が渋滞しにくいように、企業のキャパシティ(ex.業務を処理する従業員の数)が十分にあれば業務の渋滞を避けやすくなります。混雑コストとキャパシティの関係については、次回で詳しく説明することにしましょう。

いずれにしても、業務が渋滞しないように、業務量やキャパシティの水準を適切に管理することが重要です。

資格・検定試験の問題では、工場の生産能力の限界近くでの生産活動を想定することがあります。しかし、現実にはこれが原因で様々な問題が発生することもあります。

何事も「いっぱいいっぱい」の状態だと、ロクなことが起こりません。常に「少し余裕がある」くらいが理想的なのかもしれません。

後編へつづく)

◆執筆者紹介
小笠原 亨(おがさわら・とおる)
小笠原亨 先生
甲南大学経営学部准教授。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。専門分野は管理会計・原価計算。特に、コスト構造の決定や業績評価に関する研究。
【主な論文】
小笠原亨・新改敬英・原口健太郎. 2023.「需要の上振れリスクが企業のコスト構造に与える影響-企業ライフサイクルによる不確実性の分類」.『会計プログレス』24:91-108.

<後編はコチラ>

生産キャパシティの「ちょうど良い」水準を考える

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