【編集部より】
公認会計士・論文式試験の合格発表が行われ、結果をうけて、来年の受験をどうするか検討中の人もいるのではないでしょうか。大学生の場合は、一般の就活や卒業のタイミングなど、さまざまな要因があり悩ましいところ。
そこで今回は、2回目の論文式受験の後、カナダ留学へ行き、一度は受験撤退を考えたという末岡志帆さん(有限責任 あずさ監査法人 福岡事務所)に、3回目の受験を決意した理由などをインタビューしました。
・interview:末岡志帆さん(有限責任 あずさ監査法人 福岡事務所)
<主な経歴>
久留米商業高校卒業後、公認会計士を目指して福岡大学へ進学。同大学内の会計専門職プログラム(専門学校と提携)にて受験勉強開始。
・2017年4月福岡大学入学
・2017年12月短答式受験 (不合格)
・2018年5月短答式受験 (合格)
・2018年8月論文式受験 (不合格・監査論科目合格)
・2019年8月論文式受験 (不合格、その後、半年間カナダ留学へ)
・2020年11月論文式受験 (合格、コロナ禍で例年と異なる試験スケジュールで実施)
2021年3月大学卒業後、有限責任 あずさ監査法人 福岡事務所へ入社。
大学時代のやりたいこと全部に挑戦!
-会計士受験と並行して大学3年生の時に半年間、カナダ留学をしたそうですが、まず留学のきっかけは何でしょうか。
末岡さん 大学2年生の時にはじめて論文式試験を受験した後、改めて自分の将来を考えた時に、公認会計士プラスアルファのスキルを身につけたいと思いました。もともと海外に興味があったこともあり、大学でしかできないことにチャレンジしたくて語学留学を決めました。
2回目の論文式に向けた受験勉強と並行して留学の準備を進め、試験が終わった2週間後にカナダへ出発しました。留学先では、英語はもちろん、ビジネス教養も少し学びました。
-1回目の論文式受験で不合格だとわかった時、留学に迷いは生まれませんでしたか。
末岡さん 実はもともと5→8合格は無理だろうという前提だったので、留学に対する心境は特に変わらなかったです。
というのも、私が受講していたコースが、2018年12月短答に合格目標のカリキュラムだったため、大学2年生の5月短答で合格することを、当時、大学も想定しておらず、論文式選択科目の経営学のテキストがまだ用意されていなかったのです。そのため、1回目の論文式では経営学を受験しませんでした。
幸い、この年に監査論の科目合格ができたのですが、直前まで模試の成績も悪く、苦手だったので、まさか取れるとは思わず驚きました。
-そのような中でも科目合格できた要因は何だと思われますか。
末岡さん 監査論の勉強時間が取れず、必要な知識も覚えられていなかったので、本試験では配布される『基準集』に頼るしかありませんでした。目次からそれらしい項目を探し出して、該当ページに書かれている内容を自分なりに解釈して解答することができました。
-そして、翌年2回目の論文式受験をし、2週間後には留学へ出発。合格発表はカナダで見たということですが、その時は会計士受験に対してどのように考えていましたか。
末岡さん 合格発表の日は、留学先で友人と銀行のATMに並んでいるときに見ました。不合格がわかり、相当ショックでしたが、その友人が「今考えても仕方がない。今はカナダでやれることをやったほうがいいんじゃないか」と言ってくれたおかげで、あまり考えないようにすることができました。
また、留学中は毎週行われるプレゼンテーションの準備とレポートの課題が毎日たくさん出されていたので、それらをこなすことに必死で考える暇がなかったというのも正直なところです。一人になると、今後受験を続けるかどうか悩む瞬間も当然ありましたが、論文式の勉強を再開するにしても、教材は日本で、手元にありません。
カナダでの生活にも慣れ、現地に友人もできて充実していた時期でしたので、「会計士を目指すよりも、このまま海外で働きたい」という気持ちのほうが大きくなっていました。
頭をよぎった受験からの「撤退」と再起した理由
-一度、会計士受験からの撤退を考えたということですが、なぜ3回目の論文式受験を決意したのでしょうか。
末岡さん 久留米商業高校を卒業後、公認会計士資格を取りたいという理由で、学内に支援プログラムのある福岡大学に進学しました。私立の学費や一人暮らしの生活費など、親に負担をかけていて、「自分のわがままを貫いて論文式を受けないのはどうなのか?」と申し訳なさを感じ始めました。どちらかと言うと、プラスの動機よりも消極的な理由がきっかけでした。
そして、2020年2月頃アジアを中心にコロナが蔓延し始め、ビザの更新ができなくなったことで急遽その翌月にカナダから帰国したのですが、帰国後すぐに日本で緊急事態宣言が出て、アルバイト先の飲食店も時短営業によりシフトが削られ、何もやることがなくなった時に、「これは何かの運命かな」と感じて、受験勉強の再開を決めました。
-その年はコロナ禍により公認会計士試験スケジュールも変更され、論文式試験は11月実施でした。逆算すると約半年しかない中、短期間でどのように巻き返したのでしょうか。
末岡さん さらに言うと、帰国後しばらくは卒業論文の準備や他大学との合同研究発表会の準備で忙しく、本腰を入れて真面目に勉強を再開できたのは論文式2~3ヵ月前で、本当に時間がありませんでした。当然、その年のテキストには何も書き込みがなく真っ白…。なので、一旦それは脇に置き、細かく書き込みのある前年度のテキストを使うことにしました。
勉強法としては、「苦手分野の講義動画の見直し」などのインプットをメインで進めていたのですが、試験1ヵ月前の全国模試の結果を見ると、まさかのE判定…。
”このままだと間に合わない、講義の視聴も時間がかかるだけだ”と思い、そこからはアウトプットメインの勉強法に切り替えました。
もうその時点では残り1ヵ月を切っており、普通の人と同じペースで進めても間に合わないことが明確だったので、答練を制限時間の7割の時間で解くようにしました。そして、残り3割の時間で、解説をひたすら読んで、テキストに戻り、周辺知識も一緒に覚えるということを繰り返し、復習とインプットを同時に行うようにしました。
-答練はどれくらいの分量を解きましたか。
末岡さん 前年までの知識を思い出すのにも時間がかかり、とにかくギリギリという焦りもあったので、1日に答練を4〜5科目解いていました。1回きりではなく印刷して何回も繰り返し解くようにしていましたが、それでもその年の論文答練だけでは足りないので、受験勉強を始めてから3年分の論文答練や論文アクセス答練、全国模試など手元にあるアウトプット教材を全部解きました。
さらには、短答式の答練も使い、計算問題は選択肢を隠して、理論問題は解説のほうを見て、選択肢×の項目も読んで、「こういうひっかけ論点があるんだ。ここで間違うから、そういう出題にしているのか」というアプローチからも勉強しました。
️経験した人にしかわからないプレッシャー
-3回目の論文式受験はどのような心境でしたか。
末岡さん プレッシャーは正直すごく感じていました。本試験1週間前は、緊張と不安でお腹が痛すぎて寝れない日もありましたが、試験当日は「3回目で受かったら、3回中の1回だから合格率的には辻褄も合うはず」と、自分に言い聞かせて試験に臨みました。
-2回目と3回目の受験で何か違いはありますか。
末岡さん 2回目の受験時は留学費用を貯めるために論文式の2週間前までアルバイトをしていたこともあり、直前期の勉強量は3回目の受験時のほうが断然多かったと思います。
また、2回目の時は全論点を網羅的に勉強していましたが、3回目はとにかく時間がなかったので、自分なりに取捨選択をして、C論点でも分かるものは解く、B論点でも1時間勉強してもわからないものは捨てるなどメリハリをつけていました。
️会計士受験の経験も、留学の経験もキャリアに活かす
-今後のキャリアプランをどう描いていますか。
末岡さん 20代のうちに、海外駐在にチャレンジしたいと思っています。実は、昨年の夏に1ヵ月間、KPMG USへの海外派遣プログラムに参加しました。
カナダ留学のときに、働き方に対する考え方を学ぶ授業もあり、海外では仕事を堅苦しく捉えず仕事を“楽しむ”人がほとんどだと聞いていましたが、それを体感するような1ヵ月でした。
私が担当させていただいた監査チームには日本人がいなかったので不安も大きかったですが、分からないことは積極的に質問するなど、チームメンバーとのコミュニケーションを意識しながら業務を行いました。派遣先は西海岸のシリコンバレーだったのですが、私の担当したクライアントはアメリカ全土に拠点を持つ会社だったので、フロリダオフィスのチームメンバーとミーティングをする機会もあり、同じ国にいるのに時差があるというような点も新鮮でした。
また、繁忙期ではなかったこともありますが、仕事終わりにチーム皆で食事に行ったりドライブに連れて行ってくれたり、仕事もプライベートも充実していました。
-最後に、受験生に向けてメッセージをいただけますか。
末岡さん 私は論文2回目の時に一度、会計士受験を諦めた身ですが、試験に合格し、今、監査法人で働く中で、「あの時諦めなくてよかった」という気持ちが一番大きいです。
論文式3回目のプレッシャーは、経験したことない人には絶対にわからないほど重いですが、ぜひ頑張って乗り越えていただきたいなと思います!
<お話を聞いた人>
末岡 志帆(すえおか・しほ)
有限責任 あずさ監査法人 福岡事務所
大学4年生のときに会計士試験に合格。大学在学中に、会計士受験の傍らかねてからの夢であったカナダ留学にチャレンジ。大学卒業後は、あずさ監査法人福岡事務所に入社し、製薬業や製造業をメインに複数の企業の監査業務に従事。海外子会社の監査人とのコミュニケーションや監査法人内の海外派遣プログラム等を通じ、国内だけでなく海外でも活躍できる公認会計士を目指す。