【編集部より】
会計士受験生には大学生が多く、中には在学中合格を目指す人も多いと思います。
では、いわゆるフツーの大学生がなぜ短期間で一発合格できるのでしょうか。
今回は、学内の専門職プログラムで現役大学生を会計士試験合格に導いてきた井上修先生に、その秘訣を教えて頂きました。
前編では「短答式に短期間で合格する秘訣とは」について、後編(明日掲載予定)では「会計士試験レベルの基礎的な計算力を向上させる勉強法」について解説していただきます。
井上 修(福岡大学准教授・公認会計士)
普通の大学生がなぜ短期間で一発合格できるのか
公認会計士試験短答式試験まであと2ヵ月を切りました。12月の短答式試験に受験される人向けに、なぜ短期間で一発合格する人がいるのか、その秘訣について少しお話しします。
この内容は、決して今回初めて受験する人だけではなく、全員に知ってもらいたいものです。参考にできそうであればぜひ検討してみてください。
まず、今回取り上げる「短期間で一発合格する人」の前提として、いわゆる「天才・秀才」ではなく、普通の大学生を想定しています。
実際の受験指導を踏まえて、公認会計士試験に短期間で一発で合格する人がいるのはなぜか、どうやって合格させるのかについてお話しします。
短期で合格させるために―指導者の立場から―
ほとんどの公認会計士試験受験生は、受験専門の予備校や専門学校に通っているかと思います。
まず、受験予備校のカリキュラムのすべてをこなせるようになれば合格することは間違いなく言えます。ですから、まずはみなさんが今現在通っている予備校のカリキュラムそれ自体は非常に優れたものです。
しかしながら、普通の大学生にとって、この予備校のカリキュラムもしくは試験範囲は非常に膨大で消化することはできないと考えています。
諦めとかそういう話ではなく、たとえ私自身が今受験生であったとしても、大学と両立しながら短期間で合格するためにカリキュラムの全てを完璧に消化できるとは思えません。
それくらい今の公認会計士試験の試験範囲は膨大なもので、それに伴って予備校のカリキュラムも膨大なものになっています。
そのため、私の教え子に対して消化できないとわかっているものを無責任に「受験予備校のカリキュラム通りにやれば大丈夫」とは絶対に言いません。
しかしながら、受験予備校に通わないと公認会計士試験には合格できないことも事実です。
そこで、あくまで受験予備校のカリキュラムを前提として「合格に必要不可欠な範囲に絞り込むこと」が、短期一発合格の秘訣であると考えます。
まず大きな枠組みとして「基礎に特化した計算力の育成」と「理論科目重視の戦略」です。簡単に言ってしまうと、「計算問題は基礎的な演習を重視する」ということと、「理論科目は細かい論点も全て網羅する」という戦略です。
計算科目については、応用的な論点はあまり手を付けなくても短答式試験には合格できます。
ただし、あくまでも指導者として責任が取れる人間関係の中で思い切った戦略をとっていますが、このような「方向性」が短期一発合格、ないしは、2回目や3回目それ以上の受験生にとっても合格の王道だと考えています。
初学者の学習範囲―計算問題―
2年目以降の受験生が普段勉強している範囲(あくまでも計算問題)を示すと、以下のようなイメージです。
本試験を受けた経験がある人ほど、応用的な論点や上級論点の計算力が足りていないと思ってしまいがちです。何度か受験している人にとって、入門基礎期の内容は1回やったことがあるため、あまり手をつけない傾向があります(特に計算問題)。
なんとなくできると思っていたり、手をつけたとしてもつまらなく感じてしまい、刺激的な応用的な論点や上級論点に目が行きがちです。
さらに、直前期の実践的な答練は応用的な論点や上級論点が中心ですから、今現在の直前期の学習内容は必然的に応用的な論点や上級論点ばかりとなります。
したがって、複数年受験生はどうしても応用上級レベルの内容に注視してしまいます。
(色の濃さは重点的に取り組んでいることを意味します。なお、「試験範囲」は、予備校で学習している応用上級論点を超えるレベルのものが無限に広がっていることもどうか忘れないでください)。
では、果たして短期間で一発で試験に合格する普通の大学生が、このような応用的な論点や上級論点を完璧に消化しているでしょうか?
初年度受験生にとって直前までに力を入れて勉強してきた範囲は必然的に以下のようになります。
計算問題に限った場合、実はこの守備範囲こそが短期1発合格の秘訣であり、さらには、あらゆる受験生にとっても合格の秘訣であると考えます。
計算科目に関して応用的論点や上級論点にあまり手を付けていない入門基礎期の初学者が、短答式試験に一発で合格することについて何も不思議に思っていません。むしろその方が有利であると考えます。なぜなら、置かれている環境下において、必然的に応用上級論点に手が回らず、入門基礎問題に多くの時間を掛けることができるからです。
ただし、単に入門基礎期問題をやれば合格できるほど単純な話ではありません。入門基礎をしっかりやることの意味は、「絶対にケアレスミスをせずに一回の計算で正確に正答を出せる力」を意味します。質を高める勉強を通じて真の意味での基礎力を育成することが重要となります。
なぜ計算は基礎を重視すべきか?
よく公認会計士試験は「計算科目」が重要といわれます。もちろん、応用上級レベルまで仕上げられるのであればできるに越したことはありません。
しかし、一般の受験生が短期間で膨大な試験範囲の中で計算科目を応用上級レベルまで完璧に仕上げることは不可能です。
効率的に合格するためにも、むしろ、正攻法で合格するためにも、計算科目は基礎を重視すべきです。
計算問題は、理論科目と異なり1円も間違えられず部分点もないため、シビアなアウトプットが要求されます。したがって、あいまいな知識を持っていても役に立たないともいえます。
当たり前ですが、応用上級レベルの論点に行けば行くほど知識を完璧にすることは不可能になっていきます。この点、基礎的な論点は完璧にすることが可能です。
しかも応用的な論点の基盤にもなります。しかし、みなさんは試験範囲の広さを考えると基礎を重視するだけで大丈夫なのかと思うでしょう。
本試験は当たり前ですが、「本試験問題」がみなさんにとって第一義的な倒すべき「敵」となります。その一方で公認会計士試験は相対試験ですので、競争相手のことを常に意識して勉強する必要があります。
実際の本試験は「応用上級レベル」も出題されますが、合否を分けているのはその部分ではありません。なぜなら、競争相手にとっても難問は解けない可能性が高いからです。差がつかなければできなくても構わないわけです。
さらに、そこに時間を掛けることは、絶対に取るべき基礎的・標準的な問題に時間を割ていないことを意味します。
残念ながら、今の受験生は予備校のカリキュラム上、無意識に合格から遠ざかるような勉強を強いられていることがリアルな現状です(特に、普通の大学生にとって)。重きを置くべき点が大きくズレている可能性があります。
多くの受験生を見てきて、受験に失敗した理由として「計算力が足りなかった」という感想を上げてくれます。ここでいう不足している計算力の意味が「応用上級論点」について感じているようで、次の勉強に向けてどうしてもそこを気にしがちです(基礎だとモチベーションが上がらない人もいます)。
しかしながら、複数回受験生であっても、もっとも見直してほしい部分が「基礎的な計算力」です。むしろ、正攻法で合格するためにもそのことを強く意識してください。
そうでなければ、私自身、試験範囲やカリキュラムを終えていない多くの大学1年生や2年生を公認会計士試験に合格させることができていません。直前期の答練を受験していなくても合格する理由は、余計な難問に触れないからです。
むしろ、応用上級論点を知らないからこそ、難問に手を出すこともないですし、取るべき標準的な基礎問題を時間を掛けて確実に取りにいりにいかざるを得ません。
「基礎重視」というキーワードは、受験業界では遙か昔から言われている当たり前のことのように思えますが、長年携わっている立場から見るとそのニュアンスが全然違うものと考えています。
10年前、5年前と比較しても受験環境は受験者全体のレベル、試験範囲、出題傾向の点で著しく異なっています。実は、2年前と今現在ですら受験環境は大きく異なっています。
今現在、伸び悩んでいる多くの受験生にとって、今から短答式試験の合格を考える場合、計算科目については、是非とも基礎的標準的な計算問題に特化してください(まずやるべき順番として)。
基礎に特化した計算力の育成
ただ基礎的標準的な計算問題をやればよいというわけではありません。「絶対にケアレスミスをせずに一回の計算で正確に正答を出せる力」、すなわち、質の高い計算基礎力を身につけないと合格はできません。
では、普段の勉強においてどのようにすればそのような力が身につくのでしょうか?
私は「概念的に何が大事か?」を伝えることはあまり意味がないと思っています。なぜなら、学生側がそれを実行して実際に身につけているかどうかは不明だからです。
具体的な行動と自分自身で管理可能な内容でないと取り組みようがありません(公認会計士試験の勉強時間の9割が自学自習です)。
そこで、まず第1ステップとして次回の記事で説明する「電卓1回法」を実践してみてください。
(次回(明日掲載)につづく)
〈執筆者紹介〉
井上 修(いのうえ・しゅう)
福岡大学准教授・公認会計士
慶應義塾大学経済学部卒業。東北大学大学院経済学研究科専門職学位課程会計専門職専攻、同大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。研究分野は、IFRSと日本基準の比較研究、特別損益項目に関する実証研究。福岡大学では「会計専門職プログラム」の指導を一任されている。当プログラムでは、現役の大学生が多数、公認会計士試験や税理士試験 簿記論・財務諸表論に在学中に合格を果たしている。本プログラムから2018年は10名、2019年は5名、2020年は6名が公認会計士試験に合格。