何をどう学ぶ? 実務での評価は?「大学院ルート」を考える人が気になることQ&A5


加藤 久也(税理士/名城大学大学院非常勤講師) 

【編集部から】
8月の税理士本試験の手応えから大学院進学も視野に入れている方も多いと思います。
大学院での科目免除については、さまざまなウワサや意見のあるところですが、進学に際して実際何をどう勉強するのか?、修了後の評価はどうなのか?等々気になる点は少なくないでしょう。
そこで、5科目合格で税理士登録された一方、現在では大学院の講師もされている加藤久也先生に、フラットな視点から税理士試験との違いや実際の評価について解説いただきます。

大学院ルートを考える人が気になることQ&A

今年度の税理士試験が終わり、早2カ月弱。
合格発表を気にしながら、来年度の受験科目の勉強も進んできている頃かと思います。

本稿では、税理士試験合格を目指しているが、今年度の試験結果次第では、「大学院ルート」も考えみようかなと思っている人の気になる5つの疑問点についてQ&A形式でまとめました。

Q1 税理士試験と大学院で学び方・学ぶ内容はどう違いますか?

A 税理士試験では、法令等に定められた規定の内容とそれらの規定にしたがい納税額を正しく計算できるかどうかが問われます。このため税理士試験の受験対策では、規定の内容を理解し、正しく適用して正確な納税額を計算できるようにします。したがって、規定の適用要件とその効果について、正確に覚えて正しく適用できるようにすることが中心となります。

一方、大学院では、税法を法律学の立場から学びます。判決、学説を通じ税法の条文を多角的にとらえ、その解釈について検討することが中心となります。したがって、条文の内容を覚えるのではなく、条文いかに解釈するかを自身で考える学びが中心となります。

Q2 就職・転職の際に大学院修了により資格を得たことはどう評価されますか?

A 5科目合格だと「すごいですね」と言われることはあると思います。しかし、就職・転職で重視されるのは本人の能力であり、どちらのルートで税理士の資格を得るかについては参考にされる程度で決定的な決め手にはならないと思います。

Q3 実務において大学院修了により資格を得たことはどう評価されますか?

A まったく関係ありません。そもそも特に聞かれません。どちらのルートで税理士になったかよりその後の努力勝負です。

Q4 大学院修了後、実務についた後どのような勉強が必要になりますか?

A 税理士法39条の2において、「税理士は、所属税理士会及び日本税理士会連合会が行う研修を受け、その資質の向上を図るように努めなければならない。」とされており、具体的には1年間に36時間以上の研修を受けることとされています。これらの研修のほかに、民間団体の研修を受講することもありますし、専門誌を定期購読し、新しい情報に触れるようにしています。これらは主に正しく申告するための勉強であり、税理士としての最低限の知識の習得の場だと考えています。

さらに私は、日本税法学会などの学会に参加することにより、最先端の税法研究に触れることや税理士会税務研究所で研究活動もしています。税理士試験の受験勉強もかなりがんばりましたが、税理士になってからの学びのほうが圧倒的に広く深いです。
また、顧問先の具体的事例について検討する場面では、通達、QA、実務書を確認します。しかしこれらで解決しない場合には、法令、裁決例、裁判例にあたり、他の税理士に意見を求めることもあります。
日々勉強です。

Q5 大学院に入学するまでに勉強しておいた方がよいことはありますか?

A 入試の出願書類として研究計画書を提出することになると思いますから、まず今まで触れてきた税法上の疑問について自分なりに文献などを読んでみることをお勧めします。特に、金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂、2021年)、谷口勢津夫『税法基本講義(第7版)』(弘文堂、2021年)、中里実ほか編『租税判例百選(第7版)』(有斐閣、2021年)などの基本書を購入して読むことをオススメします。また、特に法学部以外の学部出身の方は、木山泰嗣『超入門コンパクト租税法(第2版)』(中央経済社、2022年)などで法律の読み方などの基本事項を身につけておくとよいでしょう。

さらに大学院では修士論文を執筆することが必要ですので、その執筆イメージがわくように脇田弥輝『税法論文ってどう書くの?』(中央経済社、2022年)もオススメです。

科目合格か? 大学院・科目免除か? ―加藤先生のアドバイス

大学院を修了して科目免除を受けることに引け目を感じる方がいます。
まず、大学院で修士論文を執筆することは、そんなに簡単なものではありません。むしろ、税理士試験の合格よりも難しい面があります。
税理士試験は、その試験で合格点さえ取れればいい(こちらも言うほど簡単ではありませんが)のに対し、大学院では自身の研究テーマについて継続して研究する必要があるため、自身が設定した課題についてじっくり時間をかけて取り組む姿勢が必要となります。
そういう意味で、私は大学院修了者も税理士試験合格者に負けずとも劣らない努力をして科目免除を勝ち得た方々だと思っています。

繰り返しになりますが、税理士の価値は、どちらのルートで資格を得たかで判断されるようなものではありません。
税理士の資格を得ることは、その時から始まる長い税理士人生のスタート地点に立ったにすぎず、その先において不断の努力をすることで税理士としての力が蓄えられていくのだと思います。
大学院を修了して科目免除を受けることは、何ら不利になる要素はなく、かえって税務の問題を法的見地から検討することができる力を発揮することで活躍の場が広がるとさえ思います。
視野を広くして今後の進路を考えるようにしましょう。

<執筆者紹介>
加藤 久也
(かとう・ひさや)
税理士/名城大学大学院非常勤講師(消費税法担当)
1991年、富山大学理学部卒業。1991年~1995年、株式会社日立製作所に勤務。1998年、税理士試験合格。2000年、税理士登録。2002年、愛知県春日井市に加藤久也税理士事務所開業。税理士業のほか、1998年~2019年に名古屋大原学園、2016年より名城大学、2019年より愛知淑徳大学にて非常勤講師を務める。2017年より東海税理士会税務研究所研究員、2021年より同研究所副所長に就任。2019年より日本税法学会所属。著書に『ワークフロー式消費税[軽減税率]申告書作成の実務』(共著、日本法令)がある。

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