<夏休み特別企画>高校生のための「公認会計士試験」ナビ <後編>


井上 修(福岡大学准教授・公認会計士)

8月もあと数日ほど。高校生の中には、この夏休みに、大学のオープンキャンパスへ参加したという人もいるのではないでしょうか。
そこで、将来の一選択肢として「公認会計士」という職業を考えるきっかけになれば、という思いから、公認会計士試験の受験指導経験も豊富な井上修先生(福岡大学准教授・公認会計士)に、公認会計士を目指す場合の進路から、資格や仕事の魅力、試験のことまで、前編・後編に分けてナビゲートしていただきます。
後編では、公認会計士試験の試験問題を一例として挙げているので、商業高校生などすでに簿記を勉強している方は、是非チャレンジしてみてくださいね!

公認会計士試験にもこんな魅力がある!

8月26日(金)に掲載した前編で紹介したように、魅力いっぱいな公認会計士の資格ですが、もちろん、公認会計士試験を合格しなければそのような恵まれた地位を獲得することはできません。
しかしながら、私自身みなさんにお伝えしたいのが、「公認会計士試験」それ自体に多くの魅力が詰まっているということです。

まず、公認会計士試験の勉強は受験勉強の世界です。
一般論とはなりますが、これまでの受験勉強は、「合格するための勉強」という側面が強かったと思います。実際に勉強した内容を具体的に直接的に活かす場面は少ないともいえます。
しかしながら、公認会計士試験の場合は、会計のプロフェッショナルとして活躍するために必要不可欠な専門知識をまんべんなく勉強します。
これまでの受験勉強とは違って、公認会計士試験のすべての科目に関する知識は、仕事で実際に使う知識としてフルに活用することになります。

次に、医師や弁護士試験と違って、公認会計士試験は「1年」で勝負を付けることができます。
つまり、1年で合格することができる試験なのです。
短期間で勝負できるという点は、人生計画を考えた場合でもとても挑戦しやすく、また、どのようなバックグランドであっても不利になることはありません(最年少合格はなんと16歳!)。

もちろん、経営・商学系の学部の方が、受験科目と大学での講義科目と重複しますので両立もしやすく、大学の講義でより深く公認会計士試験の受験科目を学習することができます。ぜひ、学部選択の参考にしてください。
とは言いながらも、公認会計士は「会計」のプロフェッショナルですから、受験科目のうちもっとも中核となるのが「財務会計論」です。

学習のボリュームも多く、その分、配点も多いです。「財務会計論を制する者が公認会計士試験を制する」といわれています。
ですから、高校生のうちに簿記を学習している人が公認会計士を目指すことは、非常に大きなアドバンテージがあります。

公認会計士試験「財務会計論」を見てみよう!

高校で簿記を学習している高校生のみなさんは、簿記を学習する目的は様々でしょう。
ですが、みなさんが今学習している簿記を最大限に活かす方法の1つとして公認会計士を目指す!という選択肢があるということ、そして今の簿記力でも公認会計士試験に通用することを知ってもらいたいです。

そこでここからは、現在、簿記の学習をしている高校生に向けて、公認会計士試験に実際に挑戦してみることで、是非、公認会計士を目指すきっかけにしてもらえればと思います。

今回は日商簿記3級で学習する「現金」の論点を取り上げます。
現金の論点は、日商簿記3級で学習したように、簿記上「現金」勘定で処理する範囲(特に、通貨代用証券)がポイントなります。

そのうえで、現金の論点で重要なのは「現金過不足」です。
帳簿上の「現金」勘定の残高と、実際の現金有高を比較して、帳簿上の現金勘定を実際有高に合わせる際に過不足があればそれについて処理をする必要があります。

ここでのポイントは、『帳簿上の「正しい」現金勘定の残高』です。
会計帳簿上で、間違った現金処理をしている場合は、まずそれを修正する仕訳(会計処理)が求められます。
日商簿記でも公認会計士試験でも引っかけは同じで、現金と間違えやすい項目として、「自己振出小切手」と「未渡小切手」、「先日付小切手」に特に注意をしてください。

このような知識を基に、公認会計士試験では計算問題が出題されるほか、以下のような正誤判定問題が出題される場合があります。
ちなみに、以下いずれの問題も、「未渡小切手」を現金に含めているという点で「誤り」となります。

・手元にある当座小切手、送金小切手、未渡小切手、送金為替手形、預金手形、郵便為替証書、振替貯金払出証書は現金に含める。(2013年第Ⅱ回問題3・ア)

・現金には、小口現金、手元にある当座小切手、送金小切手、未渡小切手及び振替貯金払出証書等が含まれる。(2016年第Ⅱ回問題2・ア(改題))

いかがでしたか。
これらの問題は試験問題のごくごく一部にすぎませんが、すでに簿記を学習している人にとっては決して難しくない論点だったと思います。

公認会計士試験という最難関の国家資格であっても、簿記の基本的な論点は出題されますし、すでに簿記を勉強している人は実はすでに公認会計士試験の勉強の一部を終えてしまっているということになります。

公認会計士の独占業務である「監査」も全く同じようなことを実施していきます。
企業が作成した報告書の「現金」の金額が本当に正しいかどうかを公認会計士がチェックするわけですが、実際に会社が記録している状況を確認するために会計帳簿を見せてもらい、さらに、それが正しいかどうかについて、現金の実際有高を公認会計士が自ら確認をします。

このようにして、会社が報告した現金の金額に誤りがないかどうかを監査するわけです。
簿記会計で勉強したことは、公認会計士試験に出題されるだけではなく、そのまま監査業務で使う専門知識として必要となります。

公認会計士を目指す高校生へ

公認会計士を目指した普通高校出身の私から見れば、商業高校生のように高校時代にすでに簿記会計を学習している高校生をとてもうらやましく思います。

公認会計士を目標にすれば、すでに高校時代に財務会計論や管理会計論を勉強していることになるわけで、その分、公認会計士試験の合格がグンと早まります。

今の時代、簿記を勉強している高校生で公認会計士の存在を知らない人は少なくなっています。
一方で、「公認会計士を目指そう!」と思う人はまだまだ多くはないと感じています。
しかしながら、みなさんが思う以上に公認会計士試験は身近なものです。

公認会計士試験は、地道な努力だけで合格できる世界です。

簿記会計を先行して勉強してきた高校生にとって、公認会計士を目指すことは非常に大きなアドバンテージなんだということを是非、知ってほしいです。
そして、一人でも多くの高校生が会計のプロフェッショナルを目指してもらえると本当に嬉しいです。

【執筆者紹介】
井上 修(いのうえ しゅう)
福岡大学准教授・公認会計士
慶應義塾大学経済学部卒業。東北大学大学院経済学研究科専門職学位課程会計専門職専攻、同大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。研究分野は、IFRSと日本基準の比較研究、特別損益項目に関する実証研究。福岡大学では「会計専門職プログラム」の指導を一任されている。当プログラムでは、現役の大学生が多数、公認会計士試験や税理士試験簿記論・財務諸表論に在学中合格を果たしており、本プログラムから2018年10名、2019年5名、2020年6名、2021年4名が公認会計士試験に合格した。


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