『税法論文ってどう書くの?』著者に聞く、大学院の魅力・論文の書き方・入試突破法


税理士になる1つのルート、大学院で修士論文を執筆して科目免除を受けること。

「大学院ルート」を考えている方にとっては、その魅力や修士論文の書き方、入試対策などは気になるところではないでしょうか。

そこで今回、新刊『教えてみき先生! 税法論文ってどう書くの?』(中央経済社)の著者である脇田弥輝先生(税理士)に、大学院のことについてたっぷりとお話を伺いました。

大学院の魅力とは?

――本書のテーマが「税法論文の書き方」。脇田先生にとって、「税理士試験の税法科目受験」との違い、魅力はどのようなものでしょうか?

大学院の一番の魅力は、税理士になれる確実性がアップすること!

税理士試験の勉強と修士論文の執筆はまったく違うことなので、一概には比べられませんが、「確実性が高まる」というのが大学院の一番の魅力だと思います。

大学院に入ったからといって、必ずしも全員が修了できるわけではないのですが、逃げずにコツコツ向き合えば、修士論文を提出してダメということはありません。

税理士試験の場合、勉強しても当日の試験問題などによっては報われないこともあります。

それと比べると、大学院で頑張れば2年後に税法2科目が免除されるので、長いスパンで見たとき「いつ税理士試験を終えられるか」という目処が立つのはいいなと思っています。

◆税理士になるためにはいくつかのルートがあります。

修士論文はどう書くの?

――本書でもノウハウが解説されている「修士論文のテーマ決め」。脇田先生ご自身、また、お知り合いの方は、どのようにテーマを考えていましたか?

テーマの選び方は人それぞれです。実務をしている方は、仕事のなかにヒントも♪

私自身は、修士論文を書いている頃は実務経験がなく、何からテーマを選べばいいかわからない状態だったので、大学院事務局の方に先輩方の「テーマ一覧」を見せてもらいました。

テーマだけを見ても内容まではわからないのですが、「あ~これは面白そう!」と思うところから、自分も調べはじめていった感じでしたね。

いま関わっている学生で実務に就いている人のなかには、「どうせなら実務に直結したり役立ったりする修士論文を書こう」ということで、普段疑問に思っていることからテーマを選んでいる方もいます。

あとは、本当にどうすればいいかわからない方は、金子宏先生の『租税法』(弘文堂)などを読みながら、「こういう考えがあるんだ」というところから調べてみるのもいいと思います。

――論文テーマは、自分ならではの「オリジナリティ」があったほうがよいのでしょうか?

オリジナリティはプラスアルファ! あまり難しく考えなくても問題ありません。

正直、オリジナリティは本当にちょこっとつける感じなんです。

たとえば、あるテーマに対して強い思いがあったとしても、教授に相談したら、「それは偏っているから、もう少しこうしたほうがいいよ」などといったアドバイスを受けることもあると思うんです。

それでも、「いや、どうしてもこれについて書きたい」とこだわると、苦労する方もいますね。

こういった場合、「なにか1つの事件について書きたい」とか、極端にテーマが狭いことが多いんです。

そのため、どちらかというと「オリジナリティはプラスアルファ」くらいに考えていたほうが、修士論文は書きやすくなると思います。

「今までこんな裁判があって、こういう学説があるけれど、自分はこう思う」といった感じですね。

修士論文はだいたい4万字程度ですが、その大半をオリジナリティだけで埋めるというのも難しいように思います。

オリジナリティがまったくないのはダメですが、実際問題、仕事や家事、受験などと両立しつつ、修士論文を書き上げなければいけない方もいますよね。これまで学んできたことを咀嚼して、「だから自分はこう考える」ということを書くのがいいと思います。

私自身も、当時はホットなトピックをテーマにしたのですが、「この観点から見たらどうだろう」と場合分けをしたり、教授から「この点を加えたらどうか」とアドバイスをもらったりしてオリジナリティを出していきました。

最初から「オリジナリティのあるテーマが探せない」などと悩まなくてもいいんじゃないかなと思いますよ。

ーーテーマが決まった後、参考文献や参考論文はどれくらい読まないといけないのでしょうか?

芋づる式に読んでいくと、自然と量は増えていきますが、身構えなくても大丈夫です。

修士論文の最後に、「参考文献」として参考にした書籍や雑誌、裁判例などをまとめるのですが、それがだいたい2~3ページくらいでしょうか。1ページが30行程度だとしたら60冊弱くらいですね。

「自分が調べたいページだけを参考にした」というものも載せるので、すべてを読んでいなくても、結果的にこれくらいになるといった印象です。

やはり色々と調べなければいけませんし、引用していなくても参考にしたものは載せなければいけません。

最初から「何冊読むぞ」と思っているわけではないのですが、芋づる式に調べていくと、自然とそのくらいにはなりますね。

ーー修士論文執筆と税理士試験、仕事や家事などの両立に苦労される方も多いと思いますが、実際はどうですか?

忙しいなかで修士論文を書かなければいけません。コツコツと計画的に進めることが大事です。

私自身は大学院に通いながら税理士試験を受けていたので、6~7月は税理士試験の勉強に集中し、修士論文にはほとんど手をつけていませんでした。

通っていた東亜大学大学院は通信制でしたが、土曜日には亜細亜大学の聴講にも行っていたので、午前中に授業を受け、午後は亜細亜大学の図書館で税理士試験の勉強をしていました。

仕事がすごく忙しい人のなかには、睡眠時間を削った人、書籍が整理しきれなくなったのでワンルームを借りて、そこで書籍を床一面に広げながら修士論文を書いたという人もいます。

やはりコンスタントにコツコツできるのが一番ですが、みんな忙しいなかで修士論文を書かなければいけないので、それができず、最後に教授からお尻を叩かれて「ヤバいヤバい」と言いながら取り掛かるという人もいますね。

ただ、自分で考えて、指摘を受けながら書いていくほうがよりよい修士論文になり、大学院、そして国税審議会でOKが出る確率が高まります。

国税審議会に提出してもOKが出ないレベルの修士論文には、大学院としてもOKが出せません。教授は自分の名前でGOサインを出すわけですし、期待されるレベルまで仕上げないと本人のためにもなりませんしね。

ちなみに、OKが出る方は、2年生の9月にはかなり本格的に修士論文を書き進めている印象です。11月あたりにはほぼ完成しているイメージですね。

◆本書の巻末「<座談会>大学院修了者に聞く! 修士論文はどうやって書いた?」では、4名の方々に体験談をお聞きしました。(似顔絵作成:ひかノ光)

大学院入試を受験する方へアドバイス

ーーこれから大学院入試を受験される方もいらっしゃいます。今からできる入試対策やアドバイスがあれば教えてください。

論理的に「読む力」と「書く力」を身につけましょう!

これについては、東亜大学大学院のことしかわからないのですが、東亜の場合は、受験生に知識を問わないんですね。私自身、当時は専業主婦で知識がないなかで受験しました。

対策としては、まず絶対に「過去問」は見たほうがいいと思います。

東亜では、「こういう2つの判例があります、どちらが正しいと思いますか。その理由を述べなさい。」といった問題が出ます。

これには正解がなく、理論的に説明できればいいということで、「読む力」と「書く力」があるかを見ています。

私が入試を受けた当時、「ロジカル・シンキング」に関する本があって、それを当てはめて答案を書いたらスッキリまとまりました。

そのため、税法の知識よりは、論理的に考えて伝える力を身につけるほうがいいように思います。

あとは、大学院によりますが、東亜の場合は入試が2時間、問題もA4用紙1~2枚くらいなんです。

税理士試験だと「はやく書かなきゃ」と思っていましたが、大学院入試では「2時間のうち1時間じっくり問題を読んで、1時間かけて答案を書けばいいや」と考えていました。

実際、はじめは問題を読んでも意味がわからなかったのですが、「日本語だし」と思って丁寧に読んでいたら、だんだん文意がつかめてきて、自分の考えを書くことができました。

大学院入試は税理士試験とは違います。「急いでたくさん書かなくてはいけない」ということではないと思うので、問題をしっかり読んで、よく考えて、考えがまとまってから書き出してみてください。

税法を知っていれば書きやすくなるのかもしれませんが、少なくとも東亜の場合は、前提知識がなくとも、ちゃんと読めば問題の内容がわかるような入試ですよ。

――最後に、税法科目免除による税理士資格取得を目指す方に向けてメッセージをお願いいたします。

税理士になることは目的ではなく過程です!

大学院で税法科目免除を目指すことは決してラクではありません。しかし、「いつまで試験勉強が続くのだろう」といった途方もない不安はなくなるので、早く税理士になりたい方にとっては、目標に近づく可能性が高まるのではないかと思います。

また、人脈を築ける点や、試験勉強とはまた違ったスキルが身につく点もオススメです。

税理士試験を受けているときは、税理士になることが目的になりがちですが、税理士になることは目的ではなく過程です。資格を取って、そこからどうするか。

もし大学院に行くことが自分にとって早く税理士になる方法なのであれば、必ずしも試験(5科目合格)にこだわらなくてもいいのかなと思います。

私自身も、実務のことがよくわからないまま税理士試験の勉強をしていて、受験2、3年目のとき、たまたま同じママ受験生から「科目免除」のことを聞いたんです。そういう道があるのであれば、それもいいかなと考え、大学院進学に舵を切りました。

今は「早く税理士になってよかったな」と実感していますし、受験生の皆さんにも1つの選択肢として考えてもらいたいです。そして、大学院で税法論文を書くことになった際には、ぜひ本書を手に取っていただけたら幸いです。

応援しています、頑張ってください!

――励みとなるメッセージをありがとうございました!


【お話を聞いた人】

脇田 弥輝(わきた みき)

脇田弥輝税理士事務所代表税理士。株式会社MKパートナーズ代表取締役。
1976年東京生まれ。大学卒業後、システムエンジニアとして就職するものの結婚を機に退職。長男を出産後、会計・税法の知識ゼロから税理士を目指し、2013年税理士登録。個人税理士事務所、税理士法人勤務を経て、2016年 脇田弥輝税理士事務所開業。同年4月より東亜大学通信制大学院法学専攻非常勤講師。著書に『何も知らなくても大丈夫! フリーランスの税金と経費と確定申告[副業の人も]』(ソシム)、『ダンゼン得する知りたいことがパッとわかる 青色申告と経費・仕訳・節税がよくわかる本』、『世界一やさしい電卓の教科書1年生』(ともにソーテック社)がある。

【書籍紹介】

『教えてみき先生!税法論文ってどう書くの?』

脇田 弥輝 著
定価:2,200円(税込)
発行日:2022/01/14
A5判 / 176頁
ISBN:978-4-502-40941-7
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