【コロナ禍の今こそ理解したい 「資金繰り」超入門Q&A】第1回 資金繰りに失敗するとどうなる?


Introduction(編集部より)

緊急事態宣言もさらに延長され、ますます資金繰りが苦しくなってきた企業も多いと思われます。

企業が存続するためのキーポイントである資金繰りについては、その重要性は認識しつつも、数字はニガ手でよくわからない、という経営者・後継者の方々も多いのではないでしょうか?

また、経験の浅い経理担当者や会計事務所の職員のなかにも、そのような方々がいらっしゃると思います。

そこで、本特集では、「資金繰り」の重要性を理解し、真剣に取り組むための第一歩となる超基本的な知識について、税理士の増山英和先生に5回にわたって解説いただきます。

資金繰りが苦しい今、そんな基礎知識より即効性のあるノウハウを教えてほしい、という要望も強いと思います。

しかし、資金繰りを乗り越えて「あーよかった、やれやれ…」で終わってしまうと、またすぐに同じ危機に直面してしまうことも多いと予想されます。

そうならないためには、資金繰りを手がかりに経営を見直していくことが重要です。

そのためのきっかけになる情報を提供することが本特集のねらいです。


資金繰りに失敗して廃業・倒産した話をよく聞きますが、どのような原因によるものなのでしょうか?

計数管理を怠り、資金繰り改善に取り組まなかった結果、業績が悪化しやがて廃業した事例はとても多いです。まずは、失敗例から教訓を得ましょう。


美味いものさえ作っていれば

ある日、地元で評判の洋菓子製造・卸・小売業の社長の奥様(経理担当)から相談がありました。

「ヒット商品のおかげで売上が急増してうれしい悲鳴なのですが、資金繰りが逆にどんどん厳しくなっていくので、こちらも悲鳴をあげています」

自社で会計ソフトを入れていても、決算間近に一気にまとめて入力しているので試算表も作成しておらず、財務数値もつかめないため、このまま続けていくことに不安を感じていました。

社長は職人肌の3代目。

「美味しいものさえ作っていれば経営はうまくいく。数字は不得意なので女房任せ」

と決算数値には目もくれず、金融機関との折衝には同席せず、資金繰りに関してもすべて奥様任せでした。

入りは遅く出は早く

社長は町内会長も務める街の人気者。

人望が厚く多くの方から慕われる、いわゆる「いい人」です。

卸売先から「社長、申し訳ないけどもうちょっと支払いを待ってもらえないかな」と支払猶予を頼まれれば「いいよ、おたくも大変だな」と気前よく承諾することで売上代金の回収が延び、仕入先から「社長、申し訳ないけどちょっと早く支払ってもらえないかな」と早期の支払いを頼まれれば「いいよ、頑張れよ」と仕入代金の支払を早めることに、何の抵抗もなく気前よく対応してきました。

このような対応が1回のみならず何度か続くと、「あの社長は頼めば応じてくれるいい人だ」と業者間で噂になりました。

その結果、次第に資金の入りは遅く、出は早くなったことで、さらに資金繰りが厳しくなっていったのです。

手貸でなく証貸にした結果・・・

回収サイトが延びるにもかかわらず、支払サイトは短縮し、おまけにヒット商品により売上が増加したため、運転資金の必要額が増えました。

当初は、社長や奥様からの借入金で資金繰りを回していましたが、それも限界に近づいたため、奥様は金融機関に融資の相談をしました。

金融機関は、売上が伸びていることで生じる「正常運転資金」なので、手形貸付による短期継続融資を提案してきました。これなら返済資金の流出はありません。

しかし、かつて業績が悪化したときに手形貸付の「貸しはがし」にあったトラウマから社長は猛反対し、約定弁済付きの証書貸付(貸付金額、金利、返済方法・期間などの条件が記載された「金銭消費貸借契約証書」を交わして貸付を行うこと)にしました。

これにより月々の返済額がさらに増え、資金繰りがさらに逼迫する事態に陥りました。

原価すら把握せず

経営を見直すため、経営コンサルタントに依頼して超人気商品の原価計算をしたところ、ヒットする理由が明確に判明しました。

100円の売値に対して、原価はなんと120円もかけていたのです。

市場は正直ですから、安くて美味い、となれば黙っていても売れます。

この赤字商品が飛ぶように売れれば売れるほど、赤字が増え資金繰りが悪化していったのです。

この事実を社長に報告し、100円と値付けした根拠を尋ねたところ、「余計なお世話だ」と怒り出し、黙り込んでしまいました。

改善策を提案するものの

以上のことから、社長の経営姿勢と対応も含め、「赤字商品」「回収・支払サイト」「借入返済」が資金繰り悪化の原因であることが判明したので、以下のように改善の方向性を整理し報告しました。

⑴ 赤字商品については、とにかく赤字にならないように「売値を上げる」「原価を下げる」、これが無理なら撤退する。

⑵ 回収と受取のサイトについては、今後、相手からの要望に絶対に応じない。かつて要望に応じた先には、当初の条件に戻すよう依頼する。これにより取引のトラブルが生じる可能性があるので、新たな業者を開拓する。

⑶ 借入返済については、正常運転資金の範囲は短期継続融資に変更を依頼し、月々の返済額を減額させる。

これらが改善に向けての打ち手であることを社長に告げたところ、社長はすべて拒否。

今度は、最大の債権者である金融機関も同席して再度の改善会議をしても、社長は「得意先や取引先に迷惑がかかるので今さらそんなことはできない」との一点張り。

改善せずに現状のまま続ければやがて倒産する、との警告に、社長は激怒して退席してしまいました。

改善に取り組む意思がない、と判断した金融機関は支援することをあきらめ、その後、新たな融資は一切行われませんでした。

親族内には事業を承継する者はおらず、老齢化した幹部・社員にも承継者がいなかったため事業承継できず、相変わらず経営改善に取り組むこともなく、やがて資金繰りに行き詰まり倒産してしまいました。

倒産の原因となる兆候

中小企業庁HPにて公表されている中小企業の倒産に至る原因を見ると、圧倒的に「販売不振」が、次いで「既往のしわよせ」があります。

これらにより資金の流入が減り、流出が増えることで、最終的には「資金繰りが悪化」して倒産に至るのです。

企業はいきなり倒産することはありません。

何らかの予兆が必ずあります。

以下の倒産原因となる兆候が自社で現れたら即、改善です。

① 販売不振により売上高が減少し、外部からの資金の流入が減少します。

② 既往のしわよせとは、過去の連続赤字とそれを埋めるための債務の累積による資金繰り悪化を意味します。最後は資金繰りにしわ寄せされます。

③ 放漫経営の最大の原因は、経営者のだらしない経営姿勢と能力不足です。無駄な資金の垂れ流しが行われ、改善に取り組まなかった結果です。

④ 連鎖倒産に至る原因は、売掛金の回収難にあります。予定していた資金の流入が減少してしまうのです。

⑤ 過小資本が多い中小企業は、自己資本が少なく金融機関からの借入れに依存しているので、返済や金利の負担により資金が流出します。

⑥ 設備投資過大により、資金の固定化や多額の借入に伴う返済負担が生じます。特に土地を取得した場合、減価償却できないことに注意が必要です。

⑦ 信頼性の低下により金融機関の貸し渋り・貸しはがし、取引先の取引停止により事業自体の継続が不可能となります。

⑧ 在庫状態悪化により、当初予定していた資金回収は難しくなります。

→第2回「「勘定合って銭足らず」はなぜおこる?」

〈執筆者紹介〉
増山 英和(ますやま・ひでかず)
税理士・CFP
1988年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。現在、増山会計事務所、増山総研、相続・事業承継支援センター代表、NPO法人相続支援協会理事長、茨城県中小企業家同友会代表理事、TKC全国会中小企業支援委員会委員長。常磐大学短期大学部非常勤講師を歴任。認定経営革新等支援機関として徹底した財務・経営指導や、ファイナンシャルプランナーとして事業承継・相続対策には定評がある。わかりやすくためになる著書・講演やラジオ番組が好評。
(主要著書)
『中小企業金融における会計の役割』共著、中央経済社、2017年
『中小企業BANTO認定試験 公式テキスト』共著、中央経済社、2019年
『実践!経営助言』共著、TKC出版、2012年
『中小企業の事業承継戦略(第3版)』共著、TKC出版、2017年 他

◆本特集は、増山 英和著『4つのステップで社長の悩み解消!資金繰りなるほどQ&A』(中央経済社刊)の一部を要約したものです。

増山 英和 著
定価:1,980円(税込)
発行日:2021/04/30
A5判 / 160頁
ISBN:978-4-502-38491-2
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