マネーフォワード経理本部が挑む!新リース会計基準の早期適用~第10回:システム対応とその他の影響の考慮


松岡俊(株式会社マネーフォワード執行役員 グループCAO)

【編集部より】
2027年から新リース会計基準が強制適用となります。対応に追われている企業は多いのではないでしょうか? 本連載では、新リース会計基準を早期適用したマネーフォワード経理本部の実例を解説していただきます。

第1回:改正の概要と早期適用をした理由
第2回:リースの範囲はどこまで?
第3回:新リース会計基準の導入が困難な理由
第4回:IFRS第16号導入プロジェクトの教訓
第5回:【実践】プロジェクトの可視化
第6回:【実践】知識のインプット
第7回:【実践】意思決定の加速とリース期間の決定方針
第8回:【実践】契約書の網羅的な洗い出し
第9回:【実践】全社連携と監査法人との協議
第10回:【実践】システム対応とその他の影響の考慮

システム対応の検討 —持続可能なプロセス構築ー

新リース会計基準への対応を検討する際、システムをどうするかは避けて通れない論点です。

既存システムへの機能追加、新たなクラウドシステムの導入、あるいは表計算ソフトでの管理など、選択肢は多岐にわたります。
この方針決定を早期に行い、必要なコストを予算に計上することが重要です 。  

表計算ソフトという選択肢の落とし穴

一見すると、表計算ソフトでの対応は手軽で低コストな選択肢に思えるかもしれません。
特に表計算スキルに自信がある担当者ほど、「割引計算くらいなら数式を組めば対応できる」と考えがちです。
しかし、このアプローチには大きな落とし穴が潜んでいます 。  

新リース会計基準対応の本当の難しさは、導入初年度の期首残高を計算することだけにあるのではありません。
むしろ、導入後の継続的なメンテナンスこそが、業務負荷を大きく左右するのです 。
私が過去に経験したIFRS第16号プロジェクトの反省点(リンク)として、期首残高の計算に集中しすぎるあまり、導入後の業務プロセス設計を軽視してしまったことがありますが、当社におけるプロジェクトは最初から「導入後」を強く意識して対応を進めました。

リース契約においては契約期間が満了し更新される、途中で解約される、償却費の負担部門が組織変更で変わる、といった事象は日常的に発生します。
これらの現場で起きている情報をタイムリーに把握し、月次決算に正しく反映させなければなりません。
しかし、クラウドではない経理担当者のPCに保存されている表計算ファイルでは、この連携を実現することは極めて困難です。

さらに、複雑な計算式が組み込まれた表計算ファイルは、作成した本人にしかメンテナンスできない「属人化」という深刻な問題を引き起こします。
担当者が異動や退職をしてしまえば、誰もそのファイルに手を出せなくなり、業務が完全にブラックボックス化してしまうリスクを常に抱えることになるのです。

目指すべきは「つながる」プロセス

これらの課題を解決し、持続可能な管理体制を構築するためには、何らかのシステムを介して、現場と経理、そして関連部門をつなぐプロセスを設計することが不可欠です 。  

例えば、クラウド型のリース管理システムを導入すれば、リース契約を管理する現場部門や法務部門、そして会計処理を行う経理部門が、同じプラットフォーム上で情報を共有できます。
現場で契約更新の情報が入力されれば、それがトリガーとなって経理部門に通知され、リース負債・使用権資産の再計算が自動的に行われる、といった連携が可能になります。
当社も、年内に新リース会計に対応を行うための新サービス「マネーフォワード クラウドリース会計」を提供する予定です。

システムへの投資は、単に計算を自動化するだけではありません。
むしろ、部門間の連携を強化し、タイムリーな情報共有と正確な会計処理を継続的に実現するための「業務基盤」への投資と捉えるべきです。
この視点こそが、新リース会計基準への対応を成功させる鍵となります。

グループ会社への展開 ーシステム・プロセスの標準化ー

新リース会計基準への対応を検討する上で、グループ会社への展開をどう進めるかも、避けては通れない重要な論点です。
私が過去に経験したIFRSプロジェクトでは、この点に大きな反省が残りました。
当時は、親会社から大きな方針は示すものの、各社における具体的なシステム対応や業務プロセスの構築は、いわば「お任せ」の状態でした。結果として、グループ内でのプロセスが標準化されず、各社が個別の課題を抱え込むことになってしまいました。

今回はその反省を踏まえ、プロジェクトの初期段階からグループ全体の最適化を強く意識して進めました。まず、各種調査時に使用するワークシートはグループで完全に統一し、各社に「投げっぱなし」にするのではなく、丁寧なコミュニケーションを重ねることで、認識の齟齬が生まれないよう細心の注意を払いました。

また、当社の経理本部プロセスオーナー部が中心となり、支払依頼書の項目統一を含む業務プロセスの標準化を主導しました。利用するシステムも、当社の『クラウドリース会計』と『クラウド契約』を標準ツールと位置づけることで、各社が個別にシステム選定やプロセス設計で悩む必要をなくしました。

このように、各社がそれぞれで検討するのではなく、本社がソリューションを含めてセントラルに検討し展開するアプローチを取ったことが、グループ会社へのスムーズな導入を実現する鍵となったと考えています。そしてこの取り組みは、導入後の統制強化はもちろん、将来的にはAIによる自動化といった、より高度な業務効率化を実現するための重要な基盤になると確信しています。

税務への影響考慮

IFRS第16号と日本会計基準の改正では、日本基準が会社法計算書類や税務申告書に影響を与える点が大きく異なります。
新リース会計基準に基づくプロセスを構築するには、会計基準だけでなく税制改正も考慮した税務プロセスが不可欠です。

  • 借手の処理
    • 会計:ワンモデル(ほぼすべてのリースをオンバランス)
    • 税務:ツーモデル(ファイナンスリースとオペレーティングリース)を維持
      • ファイナンスリース: 概ね税会一致
      • オペレーティングリース: 税務申告調整必要
  • 貸手の処理
    • 税務は会計に合わせた改正がなされています。

借手の処理において、会計基準がワンモデルだからといってリース台帳をワンモデル前提でデータ保持すると税務に対応できません。
そのため、台帳ではツーモデルでの管理が必須であり、最低限、各契約がファイナンスリースかオペレーティングリースかを判別できるようにしておく必要があります。

税務上、ファイナンスリースとなった契約については、各種改正により税会一致が図られる傾向にありますが、オペレーティングリースとなった契約については税務上加算が必要です。
当社のプロジェクトでは、新リース対応プロジェクトチームと税務チームが連携し、加算額の算出方法について議論しました。
P/L科目から拾い上げる方法とB/S科目から拾い上げる方法がありますが、当社ではB/S科目から拾い上げることを想定しています。
その他、フリーレント期間がある契約の税務上の扱いや、申告調整された項目に関する税効果会計についても両チームで議論を行いました。

減損会計への影響検討

新リース会計基準の導入により、貸借対照表上の使用権資産が増加し、これにより資産グループに帰属する資産も増加します。
また、損益計算書に計上される償却費も増えるため、将来キャッシュフローの算出時にはこの償却費を足し戻す必要があります。
この点において、CGUにおける帳簿価額集計時に使用権資産からリース負債を控除し、使用価値算出時に将来リース料支払いを排除するIFRSとは計算過程が異なります。

基本的に、旧基準と比較して減損判定の結果が大きく有利または不利になるべきではありません。
しかし、減損ワークシート上の勘定科目残高ピックアップロジックを誤ると、大きな差異が生じるリスクがあります。
そのため、新リースプロジェクトチームと減損会計担当チームが連携し、新リース会計基準によって発生する勘定残高が減損会計判定シートに正しく反映されるよう検討しました。

このように、新リース会計基準はリース会計だけでなく、他の周辺会計基準にも影響を及ぼす可能性があります。
企業会計基準委員会が「リースに関する会計基準」などを公表した際にも、同時に複数の会計基準が改正されました。
当社プロジェクトでは、生成AIのDeepResearchモードを活用して各基準の変更点を調査し、当社への影響の有無を確認しました。
企業によって影響の有無は異なるため、周辺基準への影響についても同様の調査を実施することをお勧めします。

前払費用台帳への影響検討

実務上重要でありながら見落とされがちなのが、既存の前払費用台帳への影響です。
日本では家賃を前払いするケースが多いため、多くの企業が新リース会計基準の適用範囲に入る取引についても、現在、前払費用台帳に資産計上し、均等に取り崩していると考えられます。

新リース会計基準では、前払いが行われることを前提に、使用権資産が計上され、償却費が計上されます。
しかし、その一方で、前払費用台帳に関連資産が計上され続けると、リース台帳における償却計算と重複し、会計処理に不整合が生じる可能性があります。

この問題については、プロジェクト担当者と前払費用台帳の管理担当者間で事前に議論を行いました。その結果、新リース会計基準導入後は、当該取引を前払費用台帳への計上対象外とすること、および新プロセスにおける借方計上科目などを決定しました。

おわりに

本連載では、10回にわたり当社が新リース会計基準の早期適用プロジェクトを推進する中で得た、具体的な経験や学びについて詳述してきました。
本番開始を1か月後、開示を4か月後に控えた現時点では、まだ完全に成功裏に終わったとは言えませんが、過去のプロジェクトにおける反省を活かし、概ね順調に進捗できていると感じています。

このプロジェクトの推進にあたっては、私以外のプロジェクトメンバーである経理本部プロセスオーナー部の皆さんが、チーム一丸となってWBS上のタスクを着実に一つひとつこなしてくれたことに、まず感謝を伝えたいと思います。
また、プロジェクト途中で導入した生成AIといった新しいツールにも柔軟に対応してくれたことも、大きな力となりました。

過去のIFRS第16号対応の反省から、今回はWBSによる徹底した計画の可視化、判断軸を定めた迅速な意思決定、そして関係者を早期に巻き込む密なコミュニケーションを特に重視しました。
中でも、新リース会計基準の大きな目的であった自社プロダクト開発チームへのフィードバックという点においても、大きな成果を得ることができました。

当社の『クラウドリース会計』や『クラウド契約』の開発チームと仕様の検討段階から連携しました。チームワークを発揮しながら新リースプロジェクトにおける実務ノウハウを活かしながら設計を行うことができました。

もちろん、実際の運用や監査手続きの中で、機能の追加や仕様の変更が必要となる場面も出てくるでしょう。
その際にも、引き続き開発チームと密接に連携し、強制適用で企業の経理担当者ががこれらのツールを使い始める頃には、さらに洗練されたものへとブラッシュアップしていきたいと考えています。
当社が提供している「マネーフォワード クラウド」のようなクラウドシステムはリリース後も機能が進化し続ける点が特徴です。
このような地道な改善活動を通じて、当社のValuesの一つである「User Focus」を実践してまいります。

本連載でご紹介した内容は、あくまで現時点での軌跡です。
今後、導入後に起きたことなども含め、当社セミナー等で継続的に情報共有を行ってまいりますので、ご興味をお持ちいただけましたら是非ご参加ください。
本連載が、これから対応を進められる皆様にとって、少しでも具体的なヒントとなれば幸いです。

【著者プロフィール】
松岡 俊(まつおか・しゅん)

株式会社マネーフォワード
執行役員 グループCAO 
1998 年ソニー株式会社入社。各種会計業務に従事し、決算早期化、基幹システム、新会計基準対応 PJ 等に携わる。英国において約 5 年間にわたる海外勤務経験をもつ。2019 年 4 月より株式会社マネーフォワードに参画。『マネーフォワード クラウド』を活用した「月次決算早期化プロジェクト」を立ち上げや、コロナ禍の「完全リモートワークでの決算」など、各種業務改善を実行。中小企業診断士、税理士、ITストラテジスト及び公認会計士試験 (2020 年登録)に合格。


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