【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。私の独立開業日誌
行政書士としてはまだ3歳!
東京都台東区の行政書士で、正 淳子と申します。
2020年に行政書士になって3年半がたちました。
行政書士は楽しい仕事です。
業界のかたには「行政書士3歳」と、やや図々しい自己紹介しています。
人間としてはいい歳(50代です)ですが、業界ではまだ新人です。
自分が行政書士になるまで行政書士に会ったことがない、会社で働いた経験がほとんどない、自慢じゃないけれどお金もない、法学部出身でもない、狭い世界で暮らしてきて人脈もない。そんな私が行政書士になって、なんとか3歳に成長するまでのことをお話したいと思います。
なんの技もありません。ただ、巡ってきたチャンスには感謝してパッととびつく。
それだけです。
「行政書士になる」試験中に開業を決心
行政書士試験を受けたときのことをよく覚えています。
「あ、私、行政書士になる」と試験中に唐突に思いました。
受験生時代はただ「試験に合格したい」とだけ考え、行政書士を職業にする未来は思い描いたことがありませんでした。
それにもかかわらず、試験中に突然、「行政書士になろう」と腹を決め、そのまま開業にむけて全力疾走しました。
試験の翌週から、はりきってパソコン教室に通い始めました。
実は、それまでの人生でパソコンにさわったことがほとんどなかったのです。
夫は「行政書士になる」などと夢のようなことを突然言いだした私にあきれつつ、学費を出してくれました。
行政書士ってどんな仕事をするのかわからないけれど(それでよく行政書士になろうなどと考えたものです!)、パソコンのスキルはきっと必要だろうと思いました。
結果的に、開業準備と称して行ったことの中で、最も役に立ちました。
師走、住宅街の平日昼間のパソコン教室では、人生大先輩のクラスメイトたちが、ワンちゃんやお孫さんの写真を使った年賀状の作り方を習っていました。
ほんわか和やかムードの教室で、私も机を並べて入門コース。
パソコンの電源の入れ方やタイピングからスタートし、WordとExcelを学びました。
年が明けて2020年1月。コロナのニュースが報じられたころです。
コロナ禍に台東区で開業
行政書士試験の合格発表からは更にドタバタしました。
大手資格予備校の行政書士実務講座を受講し、行政書士の仕事の素晴らしさを知っていっそう行政書士になりたくなったり、数か月粘り強く空きを待って気に入った事務所を借りたり、借金して行政書士登録をしたり、コロナ禍がどんどんひどくなって人と会うことが難しくなったり。
短期間にいろんなことがありましたが、秋に台東区に小さな事務所をひっそりと開業しました。
宣伝をするお金もないし、人脈もないし、世間もコロナ禍でひっそりしているし、いい大人なのに人見知りの私は、積極的に知り合いを増やすスキルさえありませんでした。
手持ち資金はたった半年分の事務所の家賃相当額のみ。
いい度胸です。
開業したのはいいけれど、さしあたってすることもなく、狭い事務所でただぽつねんと座っていました。
たまに事務所の電話が鳴ればお客様ではなく営業電話。
最初は事務所を名乗るのも嬉しくて、ありがたくお話を拝聴し、営業魂を学ばせていただきました。
宮本武蔵ではありませんが、我以外皆我師也なのです。
ブログをきっかけに大阪の「師匠」と出会う
あまりに暇で、事務所ではせっせとブログを書いていました。
ブログといっても業務知識について書くほどの知識も経験も持たぬ身ですから、書くのは身辺雑記のたぐいです。
じつはこのブログで、私は第一のチャンスを引き寄せました。
行政書士を名乗って(身辺雑記とはいえ)ブログを書く以上、無責任なことは書けません。
一字一句、慎重に言葉を選び、書いては消し書いては消しを繰り返し、やっとアップロードした文章をインターネットの波間から見つけてくださったかたがいました。
大阪の大先輩の行政書士です。
ブログのコメント欄でのゆるい交流を経てオンラインで初対面。
お目にかかれただけでも嬉しかったのに、翌日には、教えてあげるからいっしょに仕事をしよう、と突然すごいチャンスをくださったのには驚きました。
新人だから仕事ができないのは当たり前、仕事は教えればできるようになる、と大先輩は言ってくださいました。
なんと、なにもできない私なんぞに!
こんな奇特な(≒ヘンテコな)先輩は二度と現れないでしょう。
そりゃ、ついていくに決まっています。
それにブログの文章を通じて、既にお人柄はよく存じ上げています。サッサと心は決まり、よろしくお願いしますとお返事しました。
以来、本日現在まで、仕事と仕事に向かう姿勢を教えていただいています。
ちょうどコロナ禍によって、オンライン面談が急速に普及した時期でもありました。
大阪と東京の距離は問題にならず、事務所に居ながらにして本当に毎日のように顔を合わせ、オンラインミーティングとチャットで経験を積ませていただきました。
(オンライン鞄持ち、と心の中で呼んでいました。オンラインなので鞄は持ちません。ただ勉強させていただいたばかりです。)
ご恩はドッサリいただきましたが、お返しをするチャンスは未だ来ていません。
雲の上の人のような大先輩との出会い
次の大きな出会いは、メールの「cc」に乗ってやって来ました。
行政書士は皆、「単位会」や「支部」と呼ばれるグループに所属します。私は「東京会」の「台東支部」の一員です。
我らが「台東支部」は、新人をとても大事にしています。しかしコロナ禍は、新人と先輩との交流の機会も奪っていきました。それでも新人としては、なんとか先輩と知り合いたい。事務所で座って勉強しているだけではなんの広がりも生まれないのです。
あるとき、私たち新人の育成を兼ねて支部の仕事の一端を手伝わせていただけるチャンスがあり、私は支部の先輩がたとメールをやりとりしていました。
私にいただいた業務連絡メールのひとつに、「cc」として、雲の上の人のように思っていた先輩のお名前が含まれていることに気づきました。やった、ひとことご挨拶できる!
メールのご用件に返信しかたがた、「cc」の先輩あてに「初めまして。新人の正と申します云々」とご挨拶を書き添え、送信してみました。
すぐ電話が鳴りました。
その先輩からお電話でした!まさかこんなことになるとは。
新人はガチガチに緊張します。
「今、お時間あるなら、私の事務所に遊びにいらっしゃい」先輩はおっしゃいました。
とびあがって「伺います!」すぐ自分の事務所を飛び出して走りました。
「自分ひとりで考えていてもお客様のためにならないよ。わからなければどんどん訊きに来なさい。考える時間がもったいない。」と言っていただき、勉強したつもりでも、結局なんにもわからないままだった新人の私はたいへん安堵したのでした。
以来、業務でわからないことを色々訊きに行かせていただいています。
今でもこのときのマスク越しのニコニコ笑顔を覚えています。こちらの先輩にも、まだなんの恩返しもできていません。ありがたく思うばかりです。
2つの出会いが行政書士の世界へと導いてくれた
この2つの出会いのように、ひたすら運に助けられ、拾っていただいて今があります。
チャンスにはすかさず乗って、なんとか行政書士の世界に仲間入りできたかな、と思います。
ですが、たった3年半。未だ「私はコレができます」などと言えるものはありません。
勉強を続け、出会う皆様とお客様に育てていただいている最中です。
ご縁を大事に、良い仕事をしていきたい
行政書士登録当初の悩みは「持っていない」ことばかりでした。
「知識・経験がない」「人脈がない」「お金もない」「仕事もない」。
「ないない尽くしの八方ふさがり」から始まりましたが、ないない、と嘆くだけの時期はすぐ終わり、悩みは刻々と変わってきています。
仕事が思ったように進行しない、お客様に思わぬご迷惑をかけた、お客様とうまくコミュニケーションがとれなかった、目の前の仕事に追われて余裕がない、将来の展望と今やっていることが噛み合っていない、等々。
ひとりで悩んで考える時間も大事ですが、私が自分ひとりでできることは限られています。
出会えたご縁を大事にし、互いに助け助けられ、良い仕事ができる良い行政書士になりたいと考えています。
私のこの文章を読んでくださったあなたとも、いつかどこかで出会えることを楽しみにしています。
<プロフィール>
正 淳子(しょう・じゅんこ)
行政書士
行政書士しょう事務所 代表
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