大野修平(公認会計士・税理士)
【編集部より】
ChatGPTの登場以来、ビジネス誌などでも頻繁に特集が組まれ、仕事への活かし方や注意点、課題などが取り上げられるようになるにつれ、得体の知れない未知のものではなくなってきているのではないでしょうか。その一方で、やはりまだどことなく活用しきれず、距離を感じたままということもあるでしょう。特に、新しい技術ゆえにアップデートも早く、追いつくことさえ難しい面もあります。
そこで、本連載では、税理士・会計士・会計事務所でどのようにChatGPTを活用すればよいかについて、ChatGPTに関する情報発信も多くされている大野修平先生(公認会計士・税理士)にご紹介いただきます!(毎月1回掲載予定)
みなさんこんにちは。セブンセンス税理士法人で公認会計士・税理士をしております、大野修平です。「会計事務所におけるChatGPT「超」活用術」も早いもので第4回となりました。
こちらの連載では会計事務所において、どのようにChatGPTを活用していくのかについて、比較的初歩的な使い方について具体的にご紹介していくことになっていました。
「いました」というのも、第2回目までは予定通り進んでいましたが、前回(第3回)の原稿を提出する直前にOpenAI社のDevDay(開発者向けのカンファレンス)が開催され、その中でGPTsという、特定の課題解決に特化したChatGPTをユーザーが自ら作成することができる機能がリリースされました。
これにより、私のような非エンジニアにとってもGPTを使った開発の道が開かれ、それに興奮した私は当初の連載予定を大幅に変更して、自分が作った「びじねすもでるんβ」をご紹介しました。
気になる方はぜひ前回の記事をご覧いただきたいのですが、私のような非エンジニアが1時間ほどでこうしたGPTsを作れてしまう時代がやってきたことは、我々人間が、今後どのように生成AIと関わっていくかについて、本腰を入れて考えるタイミングが来たということだと感じています。
生成AIは仕事を奪うのか?
AIが仕事を奪うと言われて久しいです。では実際にテクノロジーの発展が、人間の仕事を奪うのか? 奪うとしたらどのように奪っていくのでしょうか?
少し極端な話から考えてみましょう。
この世にそろばんが発明される前、四則演算が得意な人は重宝されたでしょう。しかし、そろばんによって多くの人がある程度複雑な計算を行えるようになったとき、四則演算が得意な人の重要度は下がったと思います。
もし彼が四則演算を仕事として行っていた場合、彼の仕事はそろばんを使いこなす人に奪われてしまったといえるでしょう。
また時が経ち、安価でコンパクトな電卓が普及し始めると、今度はそろばんを使いこなせる技術の重要性は下がったでしょう。そろばんを使って仕事をしていたのなら、その仕事は電卓を使いこなす人に奪われることになります。
そして今では電卓をうまく操れる技術より、エクセルを使いこなせる技術のほうが重宝されています。電卓を使う仕事は、エクセルを使いこなす人に奪われたと言えるでしょう。
このように、新しいテクノロジーによって、誰でも効率的に行えるようになった仕事は、そのテクノロジーを使いこなせる人に奪われます。いつの時代も同じことが繰り返されてきました。
テクノロジーは仕事を奪わない
ただ、これは「テクノロジーに仕事を奪われている」のでしょうか? 電卓を使う仕事はエクセルに奪われたのでしょうか?
正確には違うと思います。電卓を使う仕事はエクセルを「使いこなす人」に奪われたのです。
奪ったのはエクセルというテクノロジーではなく、テクノロジーを使いこなす「人間」です。
おそらくこの構図は生成AIの時代も変わらないでしょう。
我々は「仕事を奪うのはAIではなく、AIを使いこなす人間だ」ということを忘れないようにしなければなりません。
そして、電卓を使っていた人がエクセルを使いこなせるようになれば、エクセルが登場しても仕事を奪われないのと同じように、生成AIを使いこなせるようになれば、AI時代であっても仕事を奪われないわけです。
もちろん、そんなにうまくシフトできない人もいるでしょう。結果、仕事を失う人もいるかもしれません。ただ、社会全体のことを憂いても仕方ありません。我々が影響を及ぼせることは「自分」がどちら側になるかということです。
テクノロジーを使いこなす人が、そうでない人の仕事を奪うのであれば、それはつまり、今現在「生成AIを使って誰かの仕事を奪っている」という実感がないのであれば、すでに奪われる側に回っているのかもしれません。
テクノロジーは仕事を生み出す
少し怖い話をしすぎてしまったかもしれません。明るい話もしましょう。
テクノロジーの発展により仕事が効率化されると、効率化された隙間に新たな仕事が発生します。つまり、テクノロジーの発展により奪われる仕事がある一方で、新たに発生・誕生する仕事があるということです。
そして、新たに生まれた仕事は、そのテクノロジーの活用を前提としていることが多いでしょう。
例えば、エクセルを使わなければ事業計画書の作成はとても大変な作業でしょう。ある数字、例えば来月の売上予測値を下方修正すると、その月の費用やそこから先の損益計画、資金繰り、貸借対照表計画などの数字も連動して変化しますが、それらを手作業で事業計画書に反映するには、かなりの時間を費やすことは想像に難くないでしょう。事業計画書の作成とその修正はまさに職人技によるものでした。
しかし、事業計画書をエクセルで作れるようになると、例え下方修正で売上数字をしたとしても、その影響は各セルの計算式により他の数値にも瞬時に反映されます。
そうなると、これまで職人技でやっていた数字のつじつま合わせの作業は、エクセルに代替されるわけです。
資本主義を前提とした競争社会においては、こうして効率化されて生み出された時間を持て余すことは許されず、そこに新しい仕事が差し込まれます。
例えば、売上や経費の根拠をより精緻に積み上げ計算したり、基本となる事業計画書をもとに、売上高成長率の高い楽観的シナリオや、逆に悲観的なシナリオなど、複数のシナリオで事業計画書を作成したり、既存の事業計画を離れて、新しいビジネスモデルの構築をしたり、そのための資本政策を考えたり、投資家へのレポートをより充実させたりといった、これまでは時間に追われてできなかった仕事が差し込まれたり、そもそも実行不可能だった仕事が生み出されます。
奪われる仕事がある一方で、新たに生まれる仕事があり、そのためにさらなるテクノロジーの活用スキルが求められるわけです。こうして、テクノロジーを使いこなす人にはより仕事が集まり、そうでない人からは仕事が奪われます。
そう思えば、「◯◯業界はAIにより仕事が奪われる」という言説はあまりに解像度の低い話だということがわかるでしょう。
どの業界でも奪われる仕事と、新たに生まれる仕事があり、そのために我々はテクノロジーを活用するスキルを向上させていかなければならないのです。
まとめ
では生成AIの時代に、実際にどのようなスキルが求められるのでしょうか。
実は生成AI時代にスキルを高めるためには、まずは、テクノロジーへの向き合い方についてマインドセットを変える必要があると思います。
それほどまでにこの生成AIが社会に与えるインパクトが大きいということでもあります。
今回は少し総論的な話となってしまいましたが、次回はこの生成AIと協働するためのマインドセットと、生成AI時代に求められるスキルについて深掘りしていきたいと思います。
<執筆者紹介>
大野修平(おおの・しゅうへい)
公認会計士・税理士
セブンセンス税理士法人 ディレクター 大学卒業後、有限責任監査法人トーマツへ入所。金融インダストリーグループにて、主に銀行、証券、保険会社の監査に従事。
トーマツ退所後は、資金調達支援、資本政策策定支援、補助金申請支援などで多数の支援経験を持つ。
また、スタートアップ企業の育成・支援にも力をいれており、各種アクセラレーションプログラムでのメンタリングや講義、ピッチイベントでの審査員および協賛などにも精力的に関わっている。
さらに、セブンセンス税理士法人が運営する『セブンセンスビズマガジン(https://consulting.seventh-sense.co.jp)』では、ビジネスに関する様々な情報を発信し、中小企業やスタートアップのお悩み解決にも力を入れている。
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連載「大野修平先生に聞く! 会計事務所におけるChatGPT「超」活用術」バックナンバー
第1回:検索ではなく、やりとりしよう
第2回:パーソナライズした文章の作成
第3回:さらに進化した「GPTs」で何ができる?
第4回:テクノロジーへの向き合い方についてマインドセットを変える
第5回:実際にどのようなスキルが求められるのか
最終回:組織としてどのように取り入れていけばよいか