もう1年、会計士試験の受験勉強するときの「学習計画」と「お金問題」②監査トレーニー編


滝沢凜(福岡大学助教)

監査トレーニーとは、公認会計士試験(論文式)に合格していなくても、監査法人で監査業務に従事できる制度です。給与や実務経験といった観点からは、受験生にとって魅力的なものと考えることができます。しかしその実態については、なかなか情報を入手しづらいもの。本企画では、監査トレーニーを経験した方に、匿名ならではのインタビューを敢行しました。

<お話を聞いた人>
MIYUさん(ペンネーム) 
公認会計士  
大学4年から会計士受験を開始。会計大学院(アカスク)進学後、2年次に短答式試験(5月)合格するも、論文式(8月)は不合格。会計大学院修了後に監査法人Aの監査トレーニーに採用。採用年の論文式試験(8月)に合格。
お気に入りのアニメキャラは、カビゴン(ポケット・モンスター)。

ゆうへいさん(ペンネーム) 
公認会計士試験合格者  
大学3年から会計士受験を開始。4年次に短答式試験(5月)に合格するも、論文式(8月)は不合格。大学卒業後、監査法人Bの監査トレーニーに採用。採用年の論文式試験(8月)に合格。
お気に入りのアニメキャラは、バギー(ONE PIECE)。

ニシヤさん(ペンネーム) 
公認会計士  
高校卒業後、その年の短答式試験(12月)に合格。翌年の論文式試験(8月)に不合格となり、監査法人Cの監査トレーニーに採用。採用年の論文式試験(8月)に合格。

なぜ監査トレーニーを選んだのか

滝沢 みなさんが監査トレーニーに応募するに至った経緯を教えてください。

MIYU 私はもともと地方出身なのですが、会計士の受験って情報量や友人関係の観点から、大学院修了後も上京し続ける必要があると思ったんですよね。ただ、一人暮らしをするといっても親に頼り続けるわけにはいかないし。そんな中、監査トレーニー制度が最善の選択肢だと思って応募しました。

ゆうへい 私は、不合格だった論文式試験の成績表を見て、「来年の論文式まで1年専念することもないな」と思いました。それでトレーニー制度に応募しようと思ったのですが、その中でも監査法人Bのトレーニー制度は好条件で。稼働が4月1日からなので卒業旅行に行けるし、繁忙期が終わるまで1ヵ月半だけ働けば3ヵ月休める(給料も試験休暇中もらえる)といった点に魅力を感じました。大学4年の論文式で不合格となったので、周りの友達と同じように4月から働きたかったというのもあります。

ニシヤ 私はとにかく早く開業登録をしたいという思いが強く、登録のための実務経験という観点からトレーニー制度に魅力を感じました。すなわち、社会人経験を積みたいっていうことが大きかったですね。

精神的安定

滝沢 続いて、監査トレーニーのメリットについて伺っていきましょう。まず、職を得ることで、精神的な安定がもたらされることが考えられますが、この点はいかがでしょうか。

MIYU 私はあまり精神を安定させる気はなくて、むしろ追い込むためにトレーニーに挑戦した側面が強いです。言うまでもなく、働くよりも受験に専念した方が有利な訳で、その事実に反する、がけっぷちに追い込むという選択をした感じになります。

ゆうへい 私もMIYUさんと全く同じですね。精神的安定を追求するつもりは無かったです。仕事と勉強とで両立する必要がある訳で、しかも不慣れな新社会人生活に起因するストレスもある訳ですし。そういった仕事のあと勉強しなきゃ、となると、精神的安定というのはなかなか無いのかなと思います。

ニシヤ 私は精神的安定派ですね。それまで受験に専念していたので、勉強以外の経験が積めないまま歳をとっていく感覚がきつかった。トレーニー制度は、社会人経験を積める点で心の安定につながると思います。友達―トレーニー同士の受験仲間もできましたし。

滝沢 なるほど、精神的安定については、ある派とない派に分かれる形となりました。ちなみにニシヤさんから「友達」というワードが出ましたが、MIYUさん・ゆうへいさんのお二人はいかがでしょうか。

MIYU もともと学生時代から予備校の友達がいて、反面、トレーニーで新しくできた受験仲間はそんなにいないかなと思います。会社にトレーニーの同期はいたのですが、そんなにプライベートで交流することはなくて。学生時代からの受験仲間の方が、つながりが強かったと思います。

ゆうへい 自分と同じ時期にトレーニーをやっていた方の中に、同じ事業部で働く同い年の同期がいまして。その方とは受験仲間だったのですが、自分は基本的に家で勉強するタイプだったので、そこまで積極的に一緒に勉強する、ということはなかったです。

受験勉強とのシナジー効果

滝沢 会計士業務に携わる監査トレーニーでは、会計学や監査論の学習とのシナジー効果もあるかもしれないと思いました。この点は実際のところどうなのでしょうか。

MIYU 私の場合は、そもそもトレーニーで働いていた期間、監査業務は一切やらず、主に非監査業務に携わっていましたね。ですので、あまりシナジーはなかったです。

ゆうへい 私は4月からの配属なので、繁忙期の監査業務にいきなりアサインという形でした。新人のできる簡単な事務作業が多かったですので、シナジーはそんなになかったと思います。

ニシヤ 私もゆうへいさんと似たような感じですね。1年目の作業は、ロジカルなものより事務的なものが多いと思うので、会計士受験に直接役立つということはあまりないように思います。「詳細テストってこういうもんだな~」という気づきはありましたが、点数が上がったかはわかりません。

給料

滝沢 安定した収入が得られるというメリットも考えられますが、この点はいかがでしょうか。

MIYU 採用要項に示されているとおりですかね。残業を希望すれば、その分の残業代を稼ぐことができますが、勉強時間を削ることになっちゃいますよね。

ゆうへい そうですね。私の場合は、原則残業・出張なしでした。あと、契約社員扱いなので賞与はなしです。会計士試験が終わったら残業・出張をしてもよいというスタンスだったと思います。
周りのトレーニーの方を見ていると、中にはもっと働きたいですと言っている方もいらっしゃいました。

ニシヤ 一人で暮らしていくのには十分じゃないですかね。飲み会とかに頻繁に行ったりせず、勉強してれば大丈夫だと思います。

滝沢 ちなみに修了考査にみられるように、予備校代の手当は出るものなのでしょうか。

ニシヤ 予備校代の手当については、特にありませんでした。

MIYU 同じくです。

ゆうへい 私も同じくです。

勉強に割くことのできる時間

滝沢 受験生の中には、監査トレーニーは勉強に割くことのできる時間について気になる方も多いと思います。こちらについては、いかがでしょうか。

MIYU 私の場合、論文式試験の前に3ヵ月くらい試験休暇をいただけたので、実質的に勉強と仕事の両立を図るのは2ヵ月だけでよかったです。両立した2ヵ月間は、仕事後に予備校で3時間くらい勉強したり、それ以外は電車とかで学習したり。土日に多くやるというスタイルだったと思います。
自分はだらだら勉強してしまう派なので、試験休暇に入ることで気持ちを切り替えられたのが良かったです。メリハリをつけることは修了考査の学習にもつながりました。

ゆうへい 働くことで、もちろん勉強時間は減るとは思います。「今日は仕事やったし」という言い訳で勉強しないと良くないので、そういった甘えに気をつけるよう心がけていました。あと、自分はだいたい5月半ばまで働いて、そこから試験休暇でした。

ニシヤ 私は論文式直前の3ヵ月前まで、勉強はやりませんでした。それまでは、仕事と遊びとに専念して、残業のない社会人といった感じでしたね。前年の論文式に落ちているという状況だったので、試験範囲について一通り学習は済んでいたという状況です。

シフトの柔軟性

滝沢 先日実施した予備校アルバイト編のインタビューでは、有給休暇の使用についてお話がありました。みなさんはどうでしたか。

MIYU 私は有給休暇がとれたので、入社時に持っていた有給休暇を試験休暇につなげていました。その分、論文式試験後はぶっ続けで働くという感じで。トレーニーの同期の中には、論文式の合格発表日に休むために、有給休暇を1日分残しておく方が多かったですね。

ゆうへい 私は特に有給休暇を使っていなかったです。試験後に、普通にいただける有給休暇を使いました。

ニシヤ 私は有給休暇を使っていませんでしたね。正月とか、論文式試験後に使いました。試験休暇の3ヵ月が2週間延びてもあまり変わらないと思ったので。

監査業界への憧れ

滝沢 監査業界への憧れをモチベーションとして学習している受験生は多いと思いますが、業界に慣れてしまうことでモチベーションが下がってしまうといったことはありましたか?

MIYU 特にそういうことはありませんでした。監査法人に入っただけで、組織の中枢を理解できるわけではないので。一人前になった気分ではなかったですね。

ゆうへい 私も憧れの喪失は特になかったです。早くレベルの高い業務を任せてもらいたいというモチベーションは生まれましたね。

ニシヤ 自分は監査法人に入ってみて、抱いていた期待通りの印象でした。キラキラしたランチとか楽しかったですね。自分の場合、監査法人でキャリアを積もうとは思っていなかったので、業務的な憧れがなくなったとかは特になかったです。

法人選択の自由

滝沢 一度トレーニーとして入社した法人から、他所へと移るケースはあるのでしょうか?

MIYU 私の時は、トレーニーで入っても、監査法人に残るか残らないか、部門に残るか残らないかは選択の自由がありました。もともと他法人でトレーニーをやっていた方がチームにいることもありますし。

ゆうへい MIYUさんと全く同じですね。法律で職業選択の自由は守られているみたいなこともあると思いますし。もちろん社員の方から残ってほしいという思いが伝わることはありました。

ニシヤ 私の肌感覚でも、「移りたい人は移る」といった感じでしょうか。

志望先をどう選んだか

MIYU 私の時は、トレーニー制度を実施している監査法人と、していない監査法人があって。
短答未合格者を受け入れている法人もありました。その中で、実際に行った友達の様子を聞いたり、「自分はこの法人に入りたい」という気持ちを大事にして、志望先を選びました。

ゆうへい 制度面と、応募時点での自分の状況を照らし合わせて決めました。模試の結果の添付が求められる法人もあったりしたのですが、自分は模試をまともに受けていない状況だったので。

ニシヤ 私は、制度というよりも、リクルートイベントで仲良い人がいたのが決め手でした。

就活

滝沢 続いて、就活について伺っていきましょう。一般に監査トレーニーは高倍率といわれることがありますが、この点いかがでしょうか。

MIYU 正直、採用年によって違うのでわからないです。定期採用より倍率が高いのかな。定期採用のフローの中で受験生を見ていると思うので、就活は最初から最後まで気を抜かないことが大事だと思います。ちなみに私が論文式に不合格だった年の偏差値は42でした。

ゆうへい 私の時は倍率を公表していなかったし、そもそも聞いていませんでした。面接では、勉強計画といった、割とありきたりのことを聞かれています。MIYUさんのおっしゃる通り、9月、10月の定期採用リクルートでの発言とかはみられていると思います。

ニシヤ 私の時は、倍率10倍以上って聞いていました。求められるスキルは、一般企業の就活に近いのかも。「本人の素養に会計士資格を加えると楽しみ」って感じの人が選ばれる傾向が強いと思います。私は特に他法人の併願はしませんでした。あと、論文式不合格時の偏差値ですが、入社して蓋を開けてみたらほとんどの方が50を超えていましたね。

滝沢 内定に至ったとして、雇用契約はいつまで継続できるのでしょうか。

MIYU 論文式の受験資格を喪失した時点だと思います。三振した後、短答からやり直してまた入社された方は知っています。

ゆうへい MIYUさんと同じくです。三振後の選択肢はいくつかあると思います。三振してから受験専念にシフトするとか、監査アシスタント職に採用されるとか。

ニシヤ お二人と変わらないと思います。三振したら終わりですね。その時のリスクヘッジとして税理士の簿記論・財務諸表論を受験する方はいました。

いつまで受験を続けたか?

滝沢 みなさんは、仮に不合格が続いたとして、いつまで受験を続けるつもりだったのでしょうか?

MIYU 不合格だった時のことは、あんまり考えていませんでした。論文式に受かったら終わりって考えていたので。

ゆうへい 2回目の論文式に落ちていたら、監査トレーニーをやめて受験に専念する予定でした。さすがに三振がかかった試験を働きながら迎えるのはリスクが高いので。

ニシヤ 落ちた時のことは考えていなかったですね。どうなんだろ、本当に考えていませんでした。最悪三振となる訳ですが、受験を続けるかどうかは三振してから考えていたと思います。

滝沢 ありがとうございました!

<執筆者紹介>

滝沢 凜(たきざわ・りん)  

福岡大学商学部経営学科助教
2018年、早稲田大学4年次に公認会計士試験合格(5月短答式・8月論文式)。2019年以降、大学院に在籍しながら、有限責任監査法人トーマツ・パブリックセクター・ヘルスケア事業部において監査業務に従事(2022年9月まで)。
2023年4月、福岡大学着任。同年8月、世界マスターズ水泳選手権2023九州大会出場。同年12月、公認会計士事務所タキザワプロ開業。
お気に入りのアニメキャラは、マイト・ガイ(NARUTO)。

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