【新連載】中小企業の経理スキル大全~第1回:決算実務


ぶーちょ

はじめに

会計人コースweb読者の皆様、こんにちは。
ぶーちょです。

中小企業の非上場グループ企業で13年、上場グループ企業で3年、合計7社を転々としている野良の経理マンです。
平たく言えばそこらへんに転がってる普通のオッサン経理マンです。

本記事では、中小企業経理部の実態について解説したいと思います。

まずは前提条件です。
本記事は、次のような環境の中小企業経理部を想定しています。

● 非上場会社(上場会社の関連会社でもない)
● 中小企業(売上10億円~300億円)
● 売上は国内の取引のみ
● 資本金1億円以下(外形標準課税は適用しない)
● 経理スタッフは自分を含めて5名以下

つまり、私がこれまで働いたことがあるような「ふつうの中小企業経理部」が前提です。

決算を組めて、やっと一人前

さて、中小企業経理部では、「決算を組めて、やっと一人前」という風潮があります。
月次決算をどれだけこなしても、税額計算までを含めた年次決算の経験を積むまでは半人前の扱いです。

今となっては、人手不足の影響で「月次決算“なら”できます!」という30代の会計パーソンも珍しくありません。
とはいえ、30代であれば、年次決算まで完走できるレベルには最低でも達しておきたいところです。

むしろ、年次決算を回せる人材が少なくなっている今だからこそ、その価値は高く、年次決算が組めるようになれば社内での信頼が上がり、キャリアの幅も大きく広がります。

ちなみに、私は29歳で初めて申告書の作成を担当しました。
しかし、それでも「遅い」と言われた記憶があります。

決算を覚えると、任される仕事が増える

年次決算ができるということは、経理に関する一連の業務と、会社の中で起きた様々な出来事を把握しているということです。

年次決算では、社内の各部署とのやり取りに加えて、顧問税理士や弁護士、司法書士といった外部の専門家と連携する場面も多いです。
知識だけでなく、コミュニケーション能力や実務の修羅場を潜り抜けることで、「場数」が強制的に鍛えられます。

そして、決算の経験によって、社内外の横断的な仕事を任されるようになります。経理部内だけでなく会社全体のプロジェクトに関わる機会も増えてくるでしょう。

● 経理スタッフの教育、マネジメント
● 予算策定
● 社内システムの導入や入替
● 金融機関との折衝

決算実務の工程

年次決算の実務は次の5つの工程に大別されます。

1.決算書の仮締め
2.消費税の計算
3.法人税額の計算
4.計算書類の作成
5.会議体での決算書の承認

以下、各工程を要約します。

1.決算書の仮締め

まずは会計上の税引前当期純利益を固めます。最も作業量が大きい工程です。

① 残高証明書入手/現金実査

預金や現金の「実際の金額」を会計システムと突き合わせします。

預金残高は金融機関の残高証明書、現金は実査をして金種票で確認します。

また、会計上で認識できていない簿外の現預金の有無も確認しておきます。

② 実地棚卸/実地棚卸在庫修正

在庫の「実際の数量」をカウントして、販売管理システムとの突き合わせをします。

滞留在庫や紛失・盗難で消えた在庫の整理は、このタイミングで行ないます。

③ 売上/仕入の確定

売掛金・買掛金の計上漏れ、ダブり、計上の基準を確認します。販売管理システムと会計システムとの残高が一致していなければ修正します。

④ 減価償却費の計上

固定資産ソフトで計算した償却費を計上して、期末簿価を確定させます。
よくあるのが、月次決算で計上した償却費と固定資産ソフトで計算した年間の償却費が、数円一致していないケースです。償却費と期末簿価は、年次決算で改めて見直しをします。

また、除却や売却した資産がないか、固定資産ソフトへの計上漏れやダブり、消費税区分の誤りなども確認します。

⑤ 経過勘定の確定

前払費用、未払費用、前受収益、未収収益といった経過勘定を確定させます。

例えば年払いの保険料や保守料、受取地代家賃です。
計上漏れや前期以前に計上して取り崩されないまま放置されているケースは”あるある”です。

⑥ 引当金の確定

賞与引当金や貸倒引当金の設定です。

賞与については社会保険料(法定福利費)も計上します。

⑦貸借対照表(B/S)の残高確認

科目単位で残高を点検して、過年度との比較で大きな変動がある箇所を精査します。

不明な残高があれば有税償却も検討をして、社内での決裁を取ったうえで処理をします。

⑧損益計算書(P/L)の計上確認

科目単位で計上漏れやダブりをチェックします。

毎年計上している費目がきちんと12ヵ月分計上されているかを確認します。とくに役員報酬や家賃、保険料などの定額の費目が期中で増減していれば、請求書や契約書の内容もチェックします。

⑨勘定科目内訳書の作成

勘定科目内訳書は、法人税申告書の提出時に必要です。

このタイミングで計上の漏れやダブりを再確認することで、後の税額計算での手戻りを防ぎます。

2.消費税の計算

消費税の計算は、仮受消費税から仮払消費税を差し引くだけの作業ではありません。

課税売上割合に基づく計算が必要です。

1.課税売上高に係る消費税額を計算
2.課税売上割合を算定
3.課税売上に対応する課税仕入に係る消費税を集計
4.課税売上と非課税売上どちらにも共通する課税仕入に係る消費税を集計
5.上記4で集計した消費税額に課税売上割合(2)を乗じる
6.上記1の課税売上の税額から上記3と5を差し引く
7.中間納付の消費税額を上記6から差し引く
8.当期の未払消費税額が確定

消費税の仕訳を計上した際、仮受消費税、仮払消費税、未払消費税との差額が発生します。

この差額を雑収入や雑損失として計上すると、税前利益が確定します。

3.法人税額の計算

法人税額の計算は、まずは所得(税務上の利益)を計算するところから始まります。

申告書の別表四で会計上の利益を調整して、所得を計算します。

1.別表四で所得を計算
2.所得に税率を掛けて、法人税・地方法人税・事業税を計算
3.都道府県民税、市町村民税を計算
4.税効果会計・税率差異分析

中小の非上場会社では税効果会計が適用されない会社も多いですが、税率差異分析は税額計算のミスや漏れの発見に有効です。

4.計算書類の作成

申告書の提出時に必要となる計算書類は以下の4つです。

1.貸借対照表
2.損益計算書
3.株主資本等変動計算書
4.個別注記表

これらの資料の多くは会計ソフトからそのまま出力可能です。

社内資料として、製造原価報告書やキャッシュ・フロー計算書も併せて作成する会社もあります。

5.会議体での決算書の承認

計算書類がそろったら、最後は社内の会議体で承認を受けます。

実務の手続きとしては、以下の4つです。

① 代表取締役もしくは取締役会での承認
② 株主総会での承認
③ 申告書の提出
④ 決算公告

いずれも「会社法」や「税法」で定められたの手続きですので、省略できない工程になります。申告書を税務署に提出するだけなら事業年度を修了した翌日から2カ月後(3月決算なら5月末)に合わせて決算書を作成しても構わないのですが、上司や顧問税理士のチェック、社内的な手続きを考慮すると、わりとタイトなスケジュールになります。

まとめ:年次決算はバックオフィス業務のオールスター戦

年次決算の作業は、在庫の入出庫、販売・購買のプロセス、給与計算、固定資産管理、税額計算、そして最後の会議体まで——バックオフィス業務のすべてが詰まっています。

決算を回すためには「経理だけできたらOK」ではなく、会社のあらゆる仕組みと動きを理解しておく必要があります。

なんでもやるのが経理パーソンです。

ここを完走できるようになれば、経理パーソンとして一人前の扱いです。実力もキャリアの幅も、間違いなく上がります。

【プロフィール】
ぶーちょ


窓際にも座らせてもらえないバツイチ野良経理
経理歴17年/上場会社・経理財務部長

京都府宇治市出身。1985年生まれ。資格は簿記2級と普通自動車免許。夜職業界の経理部コピー係からキャリアをスタートし、業務システムメーカー、町工場の一人管理部を経て上場会社へ転職。東証グロース・スタンダード上場の2社を経験したのち、現在の会社へ。
X(旧Twitter)やnoteでは、うだつの上がらない30代のオッサン経理マンに向けて、経理の実務について発信。

X(旧 Twitter):@buchok_dojo
note:https://note.com/buchok_dojo


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