マネーフォワード経理本部が挑む!新リース会計基準の早期適用~第8回:【実践】契約書の網羅的な洗い出し


松岡俊(株式会社マネーフォワード執行役員 グループCAO)

【編集部より】
2027年から新リース会計基準が強制適用となります。対応に追われている企業は多いのではないでしょうか? 本連載では、新リース会計基準を早期適用したマネーフォワード経理本部の実例を解説していただきます。

第1回:改正の概要と早期適用をした理由
第2回:リースの範囲はどこまで?
第3回:新リース会計基準の導入が困難な理由
第4回:IFRS第16号導入プロジェクトの教訓
第5回:【実践】プロジェクトの可視化
第6回:【実践】知識のインプット
第7回:【実践】意思決定の加速とリース期間の決定方針
第8回:【実践】契約書の網羅的な洗い出し
第9回:【実践】全社連携と監査法人との協議
第10回:【実践】システム対応とその他の影響の考慮

契約書の網羅的な洗い出しが最大の課題

基準理解と方針決定後、広範囲な契約書からリース取引の特定に着手しました。
最大の課題は、監査法人による監査・レビューに対応できるよう、社内のあらゆるリースに該当しうる契約を網羅的に特定することでした。

「隠れリース」の特定には理論上、全契約書のレビューが必要です。
しかし、これを人力で行うのは非現実的です。

採用した実務的アプローチ

そこで当社は事前調査の段階では監査法人と協議し、実務的アプローチを採用しました。
まず、事業形態から隠れリースの可能性が高い勘定科目を限定し、金額的重要性に基づいた閾値を設けて調査範囲を絞り込みました。

その後、該当する科目の契約書を入手し、判断を進めました。この絞り込み後のレビュープロセスを効率的に進める上で、当社の電子契約システムが決定的な役割を果たしました。

電子契約システムで効率的にリストアップ

幸い、当社では契約書「マネーフォワード クラウド契約」で電子的に一元管理されており、これがプロジェクト初期段階で決定的な役割を果たしました。
「マネーフォワード クラウド債務支払」の支払依頼書から電子契約までリンクで辿れたため、膨大な契約の中から対象候補を効率的にリストアップできました。
これは前職のIFRS第16号プロジェクトと比較して大きな進歩でした。

もし従来の紙ベースの契約管理であったなら、契約書の洗い出し作業は物理的なファイル探索、PDF収集、各部署へのヒアリングなど、膨大かつ非効率な手作業に終始していたでしょう。
これにより会計分析前の段階で数ヶ月を要し、プロジェクトの予算と時間を圧迫するだけでなく、人的ミスによる漏れのリスクも高まっていたはずです。

カスタムAIの導入

本プロジェクトでは、当初手作業で行っていた契約書の読み解き作業を、会計基準と詳細な指示を学習させたカスタムAIの導入により効率化しました。
AIによる分析には、契約書プロセスのデジタル化が不可欠です。
特に紙媒体の契約書など、デジタル化されていないデータはAIが直接分析できません。
体系的に整理されたデジタル契約リポジトリは、AIなどの先進技術をコンプライアンス業務に導入するための基盤となります。

2018-2019年頃のIFRS第16号対応プロジェクト時には存在しなかった生成AIは、契約書のような複雑な文書の解釈や会計基準との照合において非常に有効です。
新リース会計基準への対応において、この生成AIの活用は重要な要素であると認識しています。

なお、当社の2024年時点でのリース事前調査では当初感じていた人間が全契約書を確認する実務上の限界から調査対象を大幅に絞り込む対応をとりましたが、2025年12月からの本番対応ではより広範囲な確認プロセスにアップグレードする予定です。

現在、クラウド契約システムに生成AI機能を組み込み、契約内容を解析してリース判定を自動化する機能を開発中であり、経理本部もその要件定義に深く関与しています。
この機能が実装されれば、AIが全契約を網羅的にスクリーニングし、人間が結果をレビューするという、より正確かつ効率的なプロセスが実現可能になります。

【著者プロフィール】
松岡 俊(まつおか・しゅん)

株式会社マネーフォワード
執行役員 グループCAO 
1998 年ソニー株式会社入社。各種会計業務に従事し、決算早期化、基幹システム、新会計基準対応 PJ 等に携わる。英国において約 5 年間にわたる海外勤務経験をもつ。2019 年 4 月より株式会社マネーフォワードに参画。『マネーフォワード クラウド』を活用した「月次決算早期化プロジェクト」を立ち上げや、コロナ禍の「完全リモートワークでの決算」など、各種業務改善を実行。中小企業診断士、税理士、ITストラテジスト及び公認会計士試験 (2020 年登録)に合格。


関連記事

ページ上部へ戻る