【経済ニュースを読み解く会計】 トランプ大統領とゴーイング・コンサーン情報の開示(前編)


長崎県立大学経営学部・准教授 坂根純輝

【編集部より】
話題になっている経済ニュースに関連する論点が、税理士試験・公認会計士試験などの国家試験で出題されることもあります。でも、受験勉強では会計の視点から経済ニュースを読み解く機会はなかなかありませんよね。
そこで、本企画では、新聞やテレビ等で取り上げられている最近の「経済ニュース」を、大学で教鞭を執る新進気鋭の学者に会計・財務の面から2回にわたり解説していただきます(執筆者はリレー形式・不定期連載)。会計が役立つことに改めて気づいたり、新しい発見があるかもしれません♪ ぜひ、肩の力を抜いて読んでください!

はじめまして!長崎県立大学で簿記や会計学を教えている坂根といいます。

今回のコラムでは、2回にわたって、アメリカの制度を前提としたゴーイング・コンサーン(GC)について紹介します。GCとは何か、試験勉強の息抜きもかねて気軽に読んでみてください。

アメリカにおけるゴーイング・コンサーン(GC)情報の開示

まずは、アメリカにおけるゴーイング・コンサーン情報の開示をみていきましょう。なお、アメリカのゴーイング・コンサーンの監査は、日本のゴーイング・コンサーンの監査とは異なりますので、注意してください。

日米で制度に相違があるのですが、日米において経営者は、自身が経営する企業が将来にわたって事業活動を継続するという前提である継続企業の前提(ゴーイング・コンサーン)を評価しています。現在のアメリカでは、経営者がゴーイング・コンサーンとして存続する能力に関する重大な疑義(Substantial Doubt)を生じさせるような状況または事象を識別した場合、以下のような対応をとります。

経営者が重大な疑義を生じさせる事象や状況を緩和するための経営者の計画を検討した結果、経営者の計画が効果的に実施される見込みがない場合及び経営者の計画が重大な疑義を生じさせる状況や事象を緩和する見込みがない場合、経営者は、財務諸表にゴーイング・コンサーン注記を記載します。

一方で、現在のアメリカの株式市場に上場している企業に対して、監査人は、財務諸表監査において、経営者のゴーイング・コンサーンの評価プロセスを評価するとともに、監査人も独自に、財務諸表の開示企業が翌会計年度中まで継続企業として存続する能力に重大な疑義があるか否かを評価しています。

TMTG社とドナルド・トランプ氏のSNSアカウントの凍結

ゴーイング・コンサーンの問題を身近に感じてもらうために、アメリカのドナルド・トランプ大統領とゴーイング・コンサーン情報の開示に関して説明していきますので、みていきましょう。

ドナルド・トランプ氏は、TMTG社(トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ)を2021年2月に設立しました。TMTG社は、2022年2月からトゥルース・ソーシャルという新たなソーシャルメディアプラットフォームのサービスを開始しました。

なお、トゥルース・ソーシャルのサービス開始は、ドナルド・トランプ氏がツイッターやフェイスブックから追放されていたことが関係していると考えられますが、イーロン・マスク氏がツイッターを買収した後の2022年11月にツイッターは、ドナルド・トランプ氏のアカウントの凍結を解除し、フェイスブックは、2023年2月にドナルド・トランプ氏のアカウント凍結を解除しています。

ドナルド・トランプ氏のアカウントが凍結されたのは、2021年1月6日にドナルド・トランプ氏の支持者達が発生させ、4人が死亡し、52人が逮捕された(Swissinfo.ch 2021)アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件が契機となっています。2021年1月6日には、2020年の米大統領選挙結果を公式に集計・認定し、ドナルド・トランプ氏ではなく、ジョー・バイデン氏を正式に次期大統領に確定するために、アメリカ合衆国議会議事堂において上下両院合同会議が開かれていました。

ドナルド・トランプ氏が自身のソーシャルメディアのアカウントを使用し、選挙が不正であるという趣旨の主張を複数回にわたり拡散し続け、選挙結果に対するトランプ支持者の不信感と怒りを芽生えさせたこと及び2021年1月6日のドナルド・トランプ氏の演説が本襲撃事件に繋がったと考えられること等が要因となり、ドナルド・トランプ氏のアカウントが凍結されたと考えられます。

以下、アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件の画像が掲載されているHPをとりあげます。当該HPの写真では、トランプ支持者がアメリカ合衆国議会議事堂を襲撃しようとする状況及び抗議者がアメリカ合衆国議会議事堂に侵入しようとした際に、ドアの後ろで銃を構える警察の状況が確認できます(Swissinfo.ch 2021)。

TMTG社の合併とTMTG社のゴーイング・コンサーン(GC)情報の開示

ここからは、TMTG社の合併とTMTG社のゴーイング・コンサーン情報の開示をみていきましょう。

TMTG社は、2024年3月26日に、既にナスダックに上場していた買収を目的に設立された特定の事業を有さない特別買収⽬的会社(SPAC)であるDWAC社(デジタル・ワールド・アクイジション)と合併し、存続会社をTMTG社に入れ替えるという方法により、アメリカのナスダック市場に上場しました(TMTG 2024a)。

TMTG社の普通株式のティッカーシンボル(アルファベットで表示されるアメリカの株式の証券コードのことであり、日本の株式の証券コードは数字4桁で表示されます。)は、「DWAC」からドナルド・トランプ氏(Donald John Trump)に敬意をあらわし、「DJT」に変更されました。

当時ドナルド・トランプ氏が約6割の株式を保有していたTMTG社の上場2日目である2024年3月27日の株価は、66.26ドルの終値となりました。TMTG社と合併前であった2024年3月22日のDWAC社の株価の終値が36.94ドルだったことを考慮しますと、TMTG社の上場直後の株価の上昇が著しかったことが理解できます。

順風満帆にみえたTMTG社であったが、2024年4月1日にTMTG社は、アメリカの証券取引委員会であるSEC(U.S. Securities and Exchange Commission)に提出が義務付けられているForm 10-K(アメリカの上場企業の有価証券報告書)において、ゴーイング・コンサーン情報を開示しました。

TMTG社のForm 10-Kに添付されている独立登録会計事務所の報告書(Report of Independent Registered Public Accounting Firm)には、以下の文言が記述されています。財務諸表は、TMTG社が継続企業として存続することを前提に作成されていると記述されているものの、財務諸表の注記1で説明されている通り、TMTG社が定められた期間内に事業合併を完了できるかどうかは不確実であり、事業統合が所定の日までに完了しない場合、当社は強制清算を経て解散することになると述べられています(TMTG 2024c)。

さらに、TMTG社は、買収計画の遂行に伴い多額の費用を負担しており、今後も同様の費用が発生する見込みであり、これらの要因は、継続企業の前提に関する重大な疑義を生じさせていると記述されています(TMTG 2024c)。

Form 10-K 提出日である2024年4月1日のTMTG社の株価の終値は、48.66ドルとなり、2024年4月11日の株価の終値は32.41ドルとなりました。2024年3月22日のTMTG社と合併前のDWAC社の株価の終値が36.94ドルであり、2024年3月27日の上場2日目の株価の終値が66.26ドルであることを踏まえますと、ボラティリティ(株価の変動幅)が高く、TMTG社の株のリスクの高さが伺えます。

TMTG社の株価が急激に下落したことには、様々な要因が考えられますが、Form 10-Kにおいて、ゴーイング・コンサーンに重大な疑義があったと開示されたことも大きな要因となったのではないでしょうか。

おわりに

ここからは、ここまで述べてきたことを考察しますので、考察結果を一緒にみていきましょう。

TMTG社の大株主であるドナルド・トランプ氏は、この大幅な株価の下落にどれほどのストレスを感じたのでしょうか。自身が筆頭株主となっているTMTG社の株価が2倍近く上がったと思えば、その直後にゴーイング・コンサーンに重大な疑義があったことも一因となり、TMTG社の株価が2倍近く下落しました。

常人であれば、かなりのショックでしょうが、ドナルド・トランプ氏は、2回もアメリカ合衆国の大統領となった人物です。只者ではないはずです。ゴーイング・コンサーンに重大な疑義があったことや株価が下落したことにショックを受けているかどうかさえ不明です。

ここまで、本コラムを読んだ読者は、TMTG社の悲惨な未来を想像したでしょうが、その後、誰も予想していなかった想定外の展開がTMTG社に訪れることとなります。その後のTMTG社の物語は、ドナルド・トランプ大統領とゴーイング・コンサーン情報の開示(後編)で解説します。

【参考文献】 
Swissinfo.ch(2021) ‘Disturbing, shocking, historic’: Swiss papers react to US Capitol riot, https://www.swissinfo.ch/eng/politics/disturbing-shocking-historic-swiss-papers-react-to-us-capitol-riot/46266198 (accessed on 24 October 2025)
TMTG (2024a) Trump Media & Technology Group Stock to Begin Trading Under Ticker Symbol DJT, https://s3.amazonaws.com/b2icontent.irpass.cc/2660/rl132367.pdf   (accessed on 24 October 2025)
TMTG(2024b) Trump Media & Technology Group Files 10-K Report,https://s3.amazonaws.com/b2icontent.irpass.cc/2660/rl132938.pdf (accessed on 24 October 2025)
TMTG(2024c) Form 10-K, https://s3.amazonaws.com/sec.irpass.cc/2660/0001140361-24-017011.pdf (accessed on 24 October 2025)

<執筆者紹介>
坂根 純輝(さかね・よしてる)
長崎県立大学准教授、博士(経営学)。西南学院大学大学院博士後期課程修了。九州情報大学講師、九州情報大学准教授を経て現職。
【主な著書や論文】
『サステナビリティ情報の会計・保証・ガバナンス(日本監査研究学会リサーチ・シリーズⅩⅩⅡ)』同文舘出版、2024年(共著)、『中小企業決算の透明性と信頼性ー改善に向けた実証・理論・実務研究ー』同文舘出版、2024年(共著)、『地方自治体の監査基準に関する分析と検証(日本監査研究学会リサーチ・シリーズⅩⅩ)』同文舘出版、2022年(共著)ほか多数。

(国際学会参加時に、海外の大学の教員からいただいた筆記具)


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