
平林黎(TAC公認会計士講座講師)
【編集部より】
近年増えている指定校推薦での大学進学。大学受験の経験がないため、会計士試験での勉強法に悩む受験生も多いようです。本連載では、受験生の悩みに日々接する平林先生にアドバイスをいただきました。
第1回 指定校推薦は陸上トラック競技、会計士試験はマラソン!?
第2回 ”漆塗りのお椀”を作るには?受験勉強のコツ
第3回 本試験当日もコツさえ押さえれば大丈夫!
前回の記事では、指定校推薦と会計士試験の違いをご紹介しました。
今回は、指定校推薦の方からよく伺うお悩みと、お伝えしているコツをいくつかご紹介します。
お悩み例1 復習スパンが長く、どんどん忘れてしまう
まずは全体像を掴む。1回で覚え切ろうとしない。
例えばコンクリートを使った道路の舗装工事のように、テキストの1章から順に、綺麗に仕上げていこうとしていませんか。
重要性が高くない点にまでこだわって復習スパンが1ヶ月などを超えると、再び取り組む時には、まっさらな状態に戻ってしまいます。
漆塗りのお椀を想像してみてください。
何度も何度も薄く塗り重ねて乾かすことで強固な層を作って、部分的に金箔や色つけを施す流れです。
復習の度に、各単元で20%だけを毎回塗り重ねるような意識で進めると、気がつくと強固な「常識」になってきます。
まずは一番重要な箇所、次に重要だけど苦手な箇所、の順です。
特に理論科目は、まずは骨格となる重要概念・重要規定を常識化してから、脚注など細部へ進みましょう。
例えば企業法の場合、特別決議が出てきたら「TKG!」と脇にメモしてみてください。会社にとって一大事です。「なぜ必要なの?そこまで大変な状況?」と、趣旨や具体例を意識して一気に復習してみてください。1~2週間で概観がつかめます。
※企業法の学習については、以前宮内先生と対談しました
→https://kaikeijin-course.jp/2023/11/16/60091/
また、予備校のカリキュラムは、講義後1~2ヶ月で計算科目は3回以上、その後2週間ほどおきに苦手な問題や実力テストの解き直し等により記憶を定着させるカリキュラムになっています。うまく利用しましょう。
丸暗記は減らす
例えば英単語について、共通する語源を知ると、多少覚えやすくなった経験はありませんか。公認会計士試験で学習するほとんどの内容には、制度が作られた趣旨・理屈があります。
直前の1-3日・1週間の詰め込みで覚え直すような丸暗記は、ごくわずかです。
似たようなルールも、趣旨に基づいて違いを言語化しておくと、ぐっと忘れにくくなります。
本試験直前期以外は、できるだけ理屈を意識して、常識と思える内容を増やすのがコツです。丸暗記対象を減らすことにより、直前数日でざっと単純暗記を再確認して、膨大な範囲についてピークを合わせることが可能になります。
どうやったらもっと楽におさえられるか?を考えてみましょう。普段から趣旨を意識すれば、短答だけでなく、論文の勉強もスムーズになります。
丸暗記になりそうな箇所は…
一度講師に、自分の理解が正しいかや覚えるコツを質問してしまえば、エピソード記憶として残ります。または、付箋を貼るなど直前に見返しやすくなる工夫をしましょう。
お悩み例2 無理な計画を立てて、体調を崩した
優先順位を知って、タスクを絞る
遠出する際に、「あ、これもあったら便利かな」とどんどん鞄に詰め込んで、替えの効かない大事なものを忘れたり、取り出しにくくなったり、肩が限界に達してしまい後悔したことはありませんか(私は出張時「コンタクトとPCだけは必須、あとはなんとかなる」と割り切るようにしました)。
指定校推薦の方の場合、「できればやりたいな」ということを全力でこなそうとして、優先順位を付けられず、キャパオーバーになってしまうケースが見受けられます。
講義直後は学習量(主に、計算の問題演習)に比例して学力が伸びますが、科目が増えてきてからは、優先順位や課題発見を誤ると成果に繋がりにくくなります。
メリハリ/逆算/メンテナンス/試験中の行動など受験特有のテクニックは、自習量を増やすだけでは習得が難しいです。予備校内の定期的なセミナー等で時期ごとの優先順位やポイント・成績表の分析方法などノウハウを入手して、毎回の答練に活かしましょう。
徐々に経験値不足が解消されていきます。
なかなか成果が出てこない場合は、講師や受付スタッフなど相談窓口を使ってくださいね。
ちなみに、公認会計士が携わる監査実務で一番大事な仕事は、「質問すること」です。苦手な方は、徐々に慣れておきましょう。質問の機会を通じて自然と説明能力も伸び、論文式対策にもつながります。
お悩み例3 問題演習で間違えることに、強い抵抗感がある。「理解」していれば全て解けるはずなのに、と思い詰めて、講義を受け直してしまう
間違いを恐れない
筋トレでいうと、多少痛みを感じる程度に適度な負荷を掛けることで、筋肉は成長します。
受験勉強も同様です。
解けない問題にぶつかって、悔しい思いをした時に、学力は伸びます。
もし講義だけで全ての問題が解けるとしたら、予備校が提供する沢山の演習教材は必要ないはずですよね。未完成な状態で「今の自分にとって、少し背伸びするような難易度」の問題にチャレンジして、インプットの穴を探すことができるように、カリキュラムが組まれています。
本試験のトップ層は、それまでに山ほど間違えてきた人達です。「あの問題が悔しい!」と感じられるほど毎回のテストに準備して臨んで、間違えた原因を端的に言語化できれば、ミスはその後の財産になります。
特に普段の自習時は、こだわり過ぎず、「苦手論点洗い出しモード」と割り切ってみてくださいね。2週間などほどよく忘れた頃に苦手な問題に取り組むと、「うわ、あと少しなのに思い出せない・・・」と脳が刺激されます。
※ミスの分析については、こちらの記事で書きました。
→3つの「ミス分析」で”計算力”を高めよう!
会計人コースWeb https://kaikeijin-course.jp/2022/10/07/53686/
以上、受験勉強におけるコツをご紹介しました。
最終回は、本試験当日のちょっとしたコツをご紹介します。
【プロフィール】
平林 黎(ひらばやし・れい)
TAC公認会計士講座講師(フォローチーム主任、学習相談/学習法セミナー/受講生向け公式LINE/財務会計論-理論質問対応)
1986年東京都多摩市生まれ。国際基督教大学教養学部国際関係学科卒業。体調を崩し、公認会計士試験を一度撤退。
2014年独学で保育士資格取得後、公認会計士を再度志す。
2016年論文式試験に合格し、現職。
2020年以降、オンラインでの相談対応・セミナーを開始。
下記SNSで主に受験生に向けた情報発信を行っている。
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