税理士/名城大学大学院非常勤講師 加藤 久也
【編集部より】
さる11月29日(金)、令和6年度税理士試験の合格発表が行われました。合格発表をうけて、受験戦略を再検討する人、同じ科目の受験に再挑戦する人などさまざまだと思います。
来年の本試験まで、どのように学習計画を立てればよいかなどについて、主要科目ごとにアドバイスを頂きます。本記事を参考に、合格に向けてよりよいスタートを切りましょう!
はじめに
「令和6年度の合格発表」がありました。合格された740名のみなさん、おめでとうございます。
残念な結果に終わったみなさんへ、本年度の試験を振り返るとともに、来年度の試験で合格するために今後の学習についてアドバイスしたいと思います。
令和6年度の合格率は過去10年間で最低
本年度、消費税法の合格率は10.3%で、昨年度より1.6%減少しました。
過去10年間で最低の合格率となりました。
最高の合格率だった平成29年度(第67回)の13.3%と比較すると、3%低い合格率となっています。
合格率が低かったとはいえ、合格者数は740名で、税法科目の中ではいちばん多いことと、合格率が安定していることから、一概に合格しづらい科目ということではなく、合格点に達すれば順当に合格することを意味すると考えられます。
本年度の出題は、第一問、第二問とも、基本的な知識を問う出題でしたが、ボリュームが多かったため、適切な時間配分により解答し、基本項目について着実に正答を重ねることができた受験生が合格したものと思われます。
「出題ポイント」から読み解く学習のヒント
国税庁ホームページに税理士試験「令和6年度の出題ポイント」が公表されています。この「出題ポイント」から試験委員の出題意図を探り、今後の受験勉強の指針を考えてみましょう。
第一問について
【第一問】は、適格請求書等保存方式に関する問題が出題されました。
出題ポイントのうち下記の部分について注目してみましょう。
(太字は筆者。以下同じです。)
問1
「令和5年10月1日から、適格請求書等保存方式(インボイス制度)が開始されており、その内容や法令の適用関係を正しく理解していることが実務においても非常に重要である。」
「このように、適格請求書を交付すべき取引であるかどうかや、媒介者交付特例を含めた適格請求書の交付方法等について事業者から税務相談があった場合に、法令の適用関係を正しく理解していることが実務においても必要であることから、本問においては、実務においても生じ得る具体の事例に係る消費税法令の適用関係を問うものとした。」
問2
「本問においては、基準期間における課税売上高に含まれる範囲など、消費税の基本的かつ重要である(1)~(3)の事項について、問題中に記載された内容が正しいかどうかを判定し、その理由を消費税法令に沿って説明させることで、実務において必要な知識を問うものとした。」
いかがでしょうか。
具体的な事例について判断させることにより、実務上必要な知識を試したいという試験委員の意図が示されています。
さらに、単に取扱いを知っているかだけでなく、適用関係について正しく理解しているかを確かめたい意図もうかがうことができます。
これらの要求にこたえられるようにするためには、条文を暗記しているだけでは足りず、規定を理解し、その適用関係を具体例にあてはめて、正しく説明できるようにしておく必要があります。
そのためには、過去問や問題集に収録された問題にあたるだけでなく、消費税法基本通達や国税庁が公開している各種Q&Aの事例にも多く触れておくとよいでしょう。
第二問について
【第二問】においても、適格請求書等保存方式に関する事項が出題されており、出題ポイントのうち下記の部分から、法令の適用関係についての理解度を試す意図がうかがわれる出題となっていたことがわかります。
問1
「……について幅広く理解しておく必要がある。」
「これらの内容又は適用要件等について正しく理解しておかなければならない。」
「……を計算させることで、消費税法の総合的な理解度を問うものとした。」
問2
「……を計算させることで、消費税法の総合的な理解度を問うものとした。」
しかし計算問題を限られた時間内で解答するには、じっくり検討する余裕はないため、反射的に正しく判断できるように訓練する必要があります。
しかも、その反射的判断は、基礎となる規定の理解が伴っていなければならないということになります。
今から始める受験対策
令和7年度税理士試験へのカウントダウンはすでに始まりました。
合格発表の11月29日から来年8月5日まで249日で、残された日は、1日1日減っていきます。
今日の1日も試験前日の1日も同じ1日です。
さあ、気持ちを切り替えて、今から試験勉強をスタートしましょう。
理論対策
「出題ポイント」の検討では、条文の単なる暗記ではなく理解こそが重要だということを指摘しました。
では、条文の暗記は不要かといえば、そんなことはありません。
暗記していなければ、解答を正しく速く記述することができないことは、みなさんもうお気づきですよね。
理論暗記が足りなかった、甘かったとの反省を抱いている人も多いと思います。
そう思うのであれば、今すぐ理論暗記を始めてください。
覚えようと思えば覚えられます。
今回が最後の理論暗記となるように完璧な暗記を目指し、努力してください。
消費税法の理論問題は、1日1問暗記していけば、1月終わりまでには1回転できます。
忘れることを恐れずガンガン覚えましょう。
また、応用理論対策については、過去問や問題集の問題文を読み、解答の骨子を書きだした後で答え合わせをする方法で効率よく理解を深めるようにしてください。
このトレーニングをすることで、個別理論問題についても解答のポイントがつかめるようになり、さらに計算問題を解答するときにも役立ちます。
計算対策
基本的な総合計算問題集を年内に1回転することで計算問題を解答する勘を取り戻してください。
消費税法の計算項目に難しいものはありません。
練習を重ねることで合格レベルに達することができますから、しっかり練習してください。
また、個別問題集の解答も早めに一回り終わらせていきましょう。
そのときに、スラスラと解ける問題と解けない問題を仕分けしてください。
間違ったり、迷ったりする問題があなたの弱点です。
対策していくべき箇所を明らかにすることで、特に直前期において時間の節約につながります。
年末年始休暇には
年末年始の比較的時間が取れる時期には、消費税法基本通達や国税庁が公表しているQ&Aなどの情報に目を通すことをお勧めします。
理論問題の事例や、計算問題の出題内容の中にはこれらの中から出題されているものが多くあります(「国税庁Q&Aの効果的な活用法と、読んでおきたい消費税法Q&Aベスト3」)。
おわりに
消費税法の受験対策として大切なことは、基本的な知識を確実に身につけることです。
適格請求書等保存方式の特例的な取扱いは、実務上も判断に迷う場面が多く、令和7年度税理士試験においても出題されるものと予想されます。
しかし、消費税法の基本的な構造は変わりませんから、基本項目について、繰り返し訓練することで確実に解答できるようにすることが大切です。
理論暗記の正確性と計算問題の解答能力をアップしていきながら、条文の意味や内容について理解を深める復習もしていくようにするとよいでしょう。
今後の試験勉強に対する心構えを最後にお話しします。
今の悔しさを忘れずに挑戦を続けましょう。
特にわずかの点差で不合格となった方は、合格までのあと数点をどう取るかが課題です。
今年その数点を取れなかった原因について真摯に振り返ってみてください。
不合格の原因は必ず自身の中にあります。
この時期に反省すべきことは反省したうえで、いかに気持ちを切り替えて新たなスタートを切るかが、来年の合否を左右します。あなたの努力があなたを裏切ることはありません。
あと数か月消費税法の勉強時間を与えられたと思い、覚悟を決めて最善を尽くしてください。
来年、あなたからの合格の報告を楽しみにしています。
<執筆者紹介>
加藤 久也(かとう・ひさや)
税理士/名城大学大学院非常勤講師(消費税法担当)
1991年、富山大学理学部卒業。1991年~1995年、株式会社日立製作所に勤務。1998年、税理士試験合格。2000年、税理士登録。2002年、愛知県春日井市に加藤久也税理士事務所開業。税理士業のほか、1998年~2019年に名古屋大原学園、2016年より名城大学、2019年より愛知淑徳大学にて非常勤講師を務める。2017年より東海税理士会税務研究所研究員、2021年より同研究所副所長に就任。2019年より日本税法学会所属。著書に『ワークフロー式消費税[軽減税率]申告書作成の実務』(共著、日本法令)がある。
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