普段、読書しない受験生のための基本書の読み方〜『財務会計講義』をどう読む?


長島正浩(千葉経済大学短期大学部教授)

【編集部より】
理解を深めるためには、「基本書を読むとよい」とよく聞きます。しかし、これまでそういった類の本を読んだことがなかったり、あまり本自体を読まなかったりすると、そもそもどのように読んだらいいのかわかりません。そこで、これまであまり読書をしたことがない人のために、「本の読み方」について長島先生(千葉経済大学短期大学部教授)に教えていただきました!

はじめに

「すべての人間は2種類に分けられる。読書する者と読書しない者だ。」

このフレーズは、映画「スウィングガールズ」(監督:矢口史靖,主演:上野樹里,2004年公開)の終盤にコンクール会場に応援に来ていた野球部員が言ったセリフ

「すべての人間は2種類に分けられる。スウィングする者とスウィングしない者だ。」

を私が勝手にもじったものです。

「勝手に」と言ったものの一応根拠はあります。2024年9月17日に文化庁が発表した「令和5年度『国語に関する世論調査』の結果について」によると、1ヵ月に読む本の冊数(電子書籍を含む)という質問に対して、「読まない」が62.6%、「1冊以上読む」が36.9%、「無回答」が0.5%となっている。「無回答」はもはや調査用紙すら「読まない」と考えれば、およそ読書しない者は3人に2人の割合で、読書する者は3人に1人ということになります。

さて、本稿には、税理士試験・財務諸表論受験独学者に対して、その理論対策のためにどのように基本書『財務会計講義』を読書していくかというテーマが与えられています。そこで、財表受験独学者にも上記調査結果が当てはまるものとしました。また、今までの私の経験からすると「計算」は得意であるが、「理論」は不得意の人が多いので、むしろ「本を読まない」人の割合がもっと大きくなるのではないかと推察しています。

読みの方法“三読法”

本を読まない人に対しては、まず小学校の国語の時間で習った本の読み方を復習しておきましょう。

<三読法>
第1段階(通読)・・・全体をあっさりとただひたすら読む。初読ともいう(大学の授業では予習として「読んできて」と言うが、誰一人として読んでこない)。

第2段階(精読)・・・再読しながら難しい(専門的な)用語や説明について、さらに辞書など(財表なら「会計法規集」)で確認しておく。

第3段階(味読)・・・もう一度全体を味わいながら読む(ようやくすべてが一体となって理解できる)。

さて、いかがでしょう。本を1冊も読まない人が、1冊の本を3回も読み切るなんて夢みたいな話でしょう。しかも、小学校の国語教科書の物語を読む方法を財表理論対策として使うのが果たして効果的なのかどうかという疑問も残るのではないでしょうか。

私も以前は「通読」を提唱していて、試験まで何度も「通読」を繰り返すという、本を読みたくない人にとっては「鬼の千本ノック」のような仕打ちをしていたかもしれません。読書習慣のある人であれば、それほど苦労せずに実践することができ、第3段階の味読まで到達すれば、本当にこの『財務会計講義』を味わい深く、そして楽しく読み切ることができるのです。

合格するための『財務会計講義』の読み方

以上を踏まえて、なるべく本を丸ごと1冊読み切るということを避けながら、効果的な読み方はできないかを検討していきます。

まずは、使用しているテキストの個別論点を学習するつど、『財務会計講義』の該当箇所を開いて読んでみましょう。項目ごとであれば、多くても1~2ページ程度でしょう。これなら苦痛にならずに時間的にも1、2分で済むし、テキストとダブっている用語などがあればマーカーでラインを引いたりすれば変に退屈になることもありません。色分け付箋紙で、①覚えた用語、②(『会計法規集』などで)調べた用語、③まだよく理解できていない用語を区別しておくのも楽しいことです。

前述の三読法の第2段階(精読)の作業を最初に少しずつやるようなものです。したがって、テキストが総論から入っている場合は、その箇所は後回しにしたほうがよいでしょう。具体的に『財務会計講義』の目次から個別論点の章をピックアップしておきます。

<精読する個別論点の章(『財務会計講義』より)>
 第5章 現金預金と有価証券
 第6章 売上高と売上債権
 第7章 棚卸資産と売上原価
 第8章 有形固定資産と減価償却
 第9章 無形固定資産と繰延資産
 第10章 負 債
 第11章 株主資本と純資産
 第14章 外貨建取引等の換算

上記の章はじっくりと「精読」し、会計基準が登場したら、そのつど『会計法規集』で該当する箇所を調べて、付箋紙を貼っておきましょう。そして、適度に図表や設例が盛り込まれているので、それもその都度電卓で計算したり、仕訳したりするので決して飽きません。
恐るべし『財務会計講義』! 読書嫌いもひょっとしたら読書好きになるかも!

個別論点が終わったら、あとは「総論」っぽいところを今度はテキストの進度とは関係なく、「通読」であっさりとただひたすら読みます。マーカーを引いたり、付箋紙を貼ったりする必要はなく、気が向いたときに気楽に気持ちよく読めばよいのです。念のため次に列挙しておきましょう。

<通読する総論・構造論点の章(『財務会計講義』より)>
 第1章 財務会計の機能と制度
 第2章 利益計算の仕組み
 第3章 会計理論と会計基準
 第4章 利益測定と資産評価の基礎概念
 第12章 財務諸表の作成と公開
 第13章 連結財務諸表

これら総論・構造論点は個別論点を「精読」したあとだけに意外とわかりやすく、すらすら読めると、読書を全くしないわが教え子から聞いているので、「結構この読み方、いいんじゃないの」と少し自信をもったものです。このあとで、もし時間があれば「味読」してみるとよいかもしれません。

それと、この教え子は市販の財表テキストを使って独学して、合わせて以上の方法により『財務会計講義』と『会計法規集』だけで今年度の税理士試験に臨みました。もちろんまだ発表前なので合否結果はわかりませんが、財表第二問で出題された「社債発行差金」について聞いてみたら、「テキストには載っていなかったが、『財務会計講義』の繰延資産のところで「社債発行差金」として以前は会計処理されていたという説明がしっかりとあり、金融商品会計基準の償却原価法を参照するような記述があったので付箋紙貼ってちゃんとチェックしていました」という返答でした。なので、何となく前払利息説と後払利息説は理解していたようです。

これを聞いて私は、「この勉強方法で良かったんだなぁ」という安心感と、出題者に「いい問題出すじゃないか」という信頼感が生まれたのでした。

おわりに

冒頭で引用した映画「スウィングガールズ」のセリフは1回目観たときに、スウィング・ジャズを演奏しているので、「スウィングする者」と言ったという印象しかありませんでしたが、その後しばらくして2回、3回と繰り返し観ることによって、この野球部員が夏の高校野球予選で最後のバッターで「見逃し三振」して負けてしまい、スウィングしなかったことをずっと後悔していたという事実に気づきました。

基本書も同じでやはり何度も繰り返し読んだ者が、そのたびに新しいことを発見し、面白さが増していくのだと思います。最後に同映画の野球部員が中盤で言ったセリフを読者のみなさんへお送りして終わりにしましょう(ちなみにセリフは山形弁だそうです)。

「すべての人間は2種類に分けられるって知ってっか? やり遂げる者と諦める者だ。
 おまえはどっちだ?」

<執筆者紹介>

長島 正浩(ながしま・まさひろ)

千葉経済大学短期大学部ビジネスライフ学科 教授
東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。簿記学校講師,会計事務所(監査法人),証券会社勤務を経て,専門学校,大学・大学院,企業・官庁などで非常勤講師として簿記会計や企業法を担当。その後,松本大学松商短期大学部准教授、茨城キリスト教大学経営学部教授を経て,現在に至る。この間38年以上にわたり,簿記検定・税理士試験・公認会計士試験の受験指導に関わっている。

<オススメ書籍紹介>

財務会計講義』(桜井 久勝 著、中央経済社)

新版 会計法規集』(中央経済社 編)


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