わたしの独立開業日誌 #税理士・佐藤憲亮


【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。

京都で税理士事務所を開業!

2023年6月に京都市中京区で税理士事務所を開設しました、税理士の佐藤憲亮(さとうけんすけ)と申します。開業まだ半年ほどですが、会計人コースさんにお声がけいただき、税理士試験受験生や今後独立しようとお考えの方のお役に立てばと思い、執筆させていただきます。

Xのアイコンや名刺に使用している似顔絵

資格取得までに14年…大学院での論文執筆練習としてブログを開始

私は、京都生まれ京都育ちで、現在滋賀県在住です。
23歳のときに簿記の勉強をはじめ、京都の税理士事務所に就職しました。
そして、勤務時代の13年間で税理士資格を取得しています。
初年度に簿記論に合格したものの、財務諸表論合格に4年、消費税法合格にさらに5年かかりました。
3科目合格の翌年から大学院に2年間通い、税理士登録できたのが37歳でした。
資格取得まで、合計で14年かかっています。

勉強開始当初は大学院に行くつもりはなかったのですが、仕事と家庭の両立が難しくなってきたため、消費税法に合格した年に大学院に行くことを決めました。

大学院では論文を執筆する必要があるため、文章を書く練習としてブログをはじめました。また、モチベーション維持のためにX(旧Twitter)に投稿するようになりました。

1年間にわたり1,000文字以上の記事を平日週5でアップしていましたが、文章を書くことへのハードルが下がる、書くことの基礎訓練になるという効果があったと思います。

大学院の選び方などについて、以前に会計人コースWebで記事を執筆させていただきました。興味のある方はぜひ!
科目免除を目指す税理士受験生のための「志望大学院」の選び方5

税理士資格取得後、事情があって一旦転職…

税理士資格を取得するとすぐに、勤務先の税理士事務所の所長から「事務所を引き継がないか」という打診を受けました。
元々は独立するつもりだったのですが、営業などの経験もなかったので、事務所を継げるのはありがたいという気持ちになりました。

とはいえ、仕事のやり方がアナログだったり、いろいろと改善したい点がありました。
「新しいものを取り入れて効率化を図っていきたい」旨は所長に希望を伝えたものの、所長は「現状維持」を望んでいるようで、折り合いがなかなかつきません。妥協点を探していろいろと話をしたものの、どうも自分の思うような形にできなさそうだったため、結局退職することとなりました。

退職後は、「とりあえず独立するしかないかな」と考えていたのですが、ちょうど以前話を聞いた転職スカウトの方から、「税理士法人の支店長案件がある」と連絡を受けました。
当時は、コロナが蔓延しだした頃で、人が集まるような会合が全て中止になっている状況でした。
「開業しても人と会う機会が今までよりも極端に少なくなり、自由な営業活動は難しいのではないか」という懸念もあり、一旦転職することにしました。

転職先で3年間、ひとり支店を運営し開業ノウハウを学ぶ

入社した税理士法人では、入社3ヵ月目から京都にひとりで支店として事務所を開設しました。
そこから3年間、社員税理士として支店長を経験、東京支店の立上げにも関わりました。

京都支店は顧客ゼロからのスタートでした。
WEB広告、飛び込み営業、DM、テレアポなど、とりあえず出来ることは何でもやりましたが、「仕事が何もない」という状況は非常に辛く、毎日胃が痛かったです(笑)。

いろいろと試してWEB広告の効果測定をしっかり行うことで、段々と問い合わせにつながるようになりました。WEB広告からの問い合わせと既存顧客からの紹介で、仕事が増えていきました。

また、次のようなことにも力を入れていました。

①ブログでの経験を活かして税務に関する依頼記事の受注を受ける。
➁SNSを通じて知り合った人と直接会うなどの機会を増やす。
③税理士会支部からの税務相談員の仕事を積極的に受ける。
④顧客紹介会社へ申込み、見込み客との面談を通じて税務相談の練習をする。
⑤不動産投資をはじめ、居住用の町屋を改装してテナント不動産として賃貸。

今までに自分がやってきたことを活かして守備範囲を広げていくため、出来ることは何でも行動を起こし、どこかハマることはないかと模索していました(この中で今やっていないのは④だけです)。

多くのことに手を出したので、失敗も多かったですが、途中で辞めずに方向を修正しながら続けることで自然と広がってきました。税理士は経営者の相談に乗ることが仕事なので、自分の経験として失敗と成功の話ができるのは強みです。このころの経験は、今も仕事に活きています。

特に、税務相談で経験値を積むことは、話の持っていき方の練習になります。新規面談での成約率が上がりました。税理士の仕事の入り口はだいたい税務相談なので、今でも新規顧客開拓のためにこの仕事に従事しています。

完全独立

2023年6月に、ひとり支店長を辞め、完全独立することにしました。
個人事務所の開業地が前事務所の近隣であったので、いくつかは顧客の引き継ぎもできました。

完全独立にあたり、開業資金の借入をしましたが、以前から金融機関との付き合いがあったため、スムーズでした。また、引き継いだ顧客から仕事を紹介してもらったり、不動産収入や執筆による収入があったりしたので、比較的早い段階で生活を安定させることができました。

効率よく経営する上で、これまでの経験を活かすことは重要です。
過去に医療業や建設業の顧客が多い事務所に勤務していたので、「業種特化したほうが効率良いだろう」と思いました。
しかし、自分は飽きやすい性格です。
「ひとつに絞るよりも多くの業種を見て、いろいろなバックボーンがある方と繋がる方が楽しいのではないかな」という気になり、業種特化することをやめました。

このように、無駄なこともいろいろ考えましたが(笑)、結局は「自分の直感でできるとこまでやってみて、ダメならそのときにまた考えて方向転換しよう」という感じに落ち着きました。

事務所について

事務所としては、下記のことをルールとして設定しています。

①顧客との面談は全て税理士が対応(質の担保)。
➁いつでも相談できるようにして、顧客との心理的距離を近くする(相談しやすい)。
③安請け合いはしない(自分のやる気低下を防ぐ)

滋賀県に自宅がありますが、京都の烏丸御池というオフィス街にワンルームマンションを借りました。自宅開業される方も多いですが、自宅事務所だと自宅にひきこもりになりそうだったので、多少の出費があっても人が多い場所に事務所を借りることにしました。

事務所は一人暮らしの部屋のような感じです。
仕事スペース、打合せスペース、あとは休憩用のヨギボーが置いてあります。
事務機器などには何もこだわりがなかったので、お金をかけずに自分が快適に仕事ができるスペースを作りました。

自慢があるとすれば、駅から徒歩1分の立地であること、事務所に風呂がついているところです(笑)。

事務所の様子

「知っている税理士の中の2、3番手」に居続ける

顧客を増やす方法は人それぞれあると思います。
大事なのは、自分に合った方法を見つけることだと思います。
士業の営業方法は再現性が低いと言われていますので、人の真似だけしていても顧客を増やすのは難しいですし、自分だけでコツコツ続けられる方法を見つけるのが一番です。

私自身は、基本的には会合等に参加し、人との繋がりを広げていくようにしています。
そして、「知っている税理士の中で2、3番手くらい」の位置づけで思い出してもらえるようになることが大事かなと(笑)考えています。
種まきの結果をすぐには回収できなくても、「いつかは話が回ってくる可能性があれば」という気楽な感じでいます。

新しいことに挑戦

独立してからは、仕事の入口をもう一つ増やしました。
「トトノイ」という会社を立ち上げ、バックオフィスの改善・経理代行を行っています。

新事業「トトノイ」のロゴ

顧客の相談にのっていると、「人手不足で人員を確保できない」「人員を確保できたとしても実務を覚えてもらうことや教えるのが大変」「仕事を覚えてもらってもすぐに退職するリスクがある」といった悩みを多く聞きます。

こういった悩みを解決するため、バックオフィスを丸ごと組み替えて効率化を図っています。
作業工数を減らし、人員が足りない場合は私が代行することで、人材採用のコストや人件費を大幅に削減できます。
ただ、依頼が増えるとマンパワーが必要になるため、現在は少しずつ経理代行の仕事を増やしていきながら、他の税理士と協力しながら、パートの方などにお手伝いをお願いするなど、試行錯誤中です。

税理士だけど、税理士業務に捉われずに

改めて自分のことを振り返ると、色んなことに手を出してきたなと思います。
昔は税理士になったら税理士業務だけをやるイメージを持っていましたが、本業以外の仕事をすることで自分の固定観念をなくすことができ、面白い出会いも多くなる気がしています。

最近は仕事以外でもフットサル会を立ち上げるなど、興味があることは思い立ったらとりあえずやってみることを大事にしています(フットサルに興味ある方はご連絡ください)。

もし何かに挑戦して失敗したとしても、その都度修正しながら一歩でも前進していければと思っています。

おわりにー受験生・独立志望の方へ

税理士資格を取得するには複数のルートがありますが、私はどのようなルートを選択してでも資格を取ることを何よりも優先すべきだと思います。

最初から最後まで決めた道を進む方もいれば、途中で失敗して方向転換する方もいます。私はいろんなことを失敗してきましたし、これからも失敗は多いと思います。ただ、失敗しても諦めないことが大事です。

独立後はウェブから集客したり、紹介を通じて集客したりすることになると思います。ただ、これらの方法は効果が出るまでにある程度の時間を要するため、将来独立する予定がある場合は、早めにブログをはじめたり、会合等に参加して人との繋がりを広げておいたほうがよいでしょう(受験生は勉強に集中した方がよいですが)。

独立は、やるやらない含め、全て自分で即断即決できることが最大のメリットです。
体力的・精神的なしんどさは常にありますが、私は毎日楽しくやってます。
今後も興味あることはとりあえずやってみて、楽しそうな方向に進んでいきたいと思っています。

プロフィール
佐藤憲亮(さとう・けんすけ)
京都市出身。 医療系特化事務所、税理士法人の社員税理士(役員)を経て、気軽に相談できる専門家として税務顧問業務をメインに活動。実務で得た知識や経験を活かし、税務記事や税務論文の執筆、ブログの運営をしている書くことが好きな税理士。大学卒業後、税理士事務所で実務経験を積みながら、大学院で税法を学ぶ。2020年に税理士登録。2023年6月に京都市中京区にて独立。また、顧客企業の利益最大化を実現するため、バックオフィスの効率化や改善に力を入れており、経理代行及びコンサル事業会社を設立。経理、財務、税務の支援を得意としている。
ホームページ:佐藤憲亮税理士事務所
ブログ:さとうのブログ
X:@lklkfafa1

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