blanknote
【編集部より】
2023年12月1日から始まった「会計系 Advent Calendar 2023」。
X(旧Twitter)を通じてご覧になった方も多いのではないでしょうか。発起人のblanknoteさんはじめ、さまざまなテーマが取り上げられ、会計界隈ではとても話題になりました。こうした企画を立て、またご自身も鋭い内容を書かれたblanknoteさんが、日頃どのようなことに興味があるのか、どのように考えているのかをもっと詳しく聞きたい!という編集部の一方的な要望に応えていただき実現した新シリーズ「なぜか会計にくわしいJK @blanknoteさんの言いたい放題・書きたい放題」がスタート!
実務に携わる方はもちろん、働きながらの受験生や実務に興味のある受験生にもオススメです!(全4回予定・不定期掲載)
皆が楽しみにしている12月のイベントといえば何でしょうか?
はい、正解です。
ご推察の通り、”税制改正大綱”の公表ですね。
今年も2023年12月14日に与党の税制改正大綱が、22日に閣議決定の税制改正大綱が公表されました。
税制改正に関心の強い層が公表日にいち早くチェックし、SNSで感想を言い合うのは、この時期の一種のお祭りのようになっています。
今年は、法人税制が関心事の私には目立って注目するものはありませんでしたが、所得税の定額減税のあたりからは関係する実務者の恨めしい声が聞こえたような気がします。
大綱の内容の解説は専門の方のサイトにお任せするとして、今回は大綱の公表と企業の実務対応、特にタックス・プランニングの話をしたいと思います。
税制改正大綱の内容をなぜ予め押さえる必要性があるの?
税制改正は12月の閣議決定の後、法案が提出され、通常、翌年3月下旬に成立、3月29~31日頃に公布、特段の定めがあるものを除き4月1日施行、というスケジュールになります。
例外としては、2011年税制改正のねじれ国会による年度内不成立のケース(11月30日成立、12月2日公布・施行)や、2012年社会保障と税の一体改革関連法のケース(8月10日成立、8月22日公布、2014年4月1日施行)などありますが、最近は通常通りです。
企業勤めで経理・財務・税務に関わっている方は大綱の内容を公表以降法案成立までの間に追いかけているでしょうか。
全員とまでは言わないまでも会社の税務担当の誰かは追いかけている、というところは多いと思います。
税務申告のことだけを考えるならば法案が成立してから考えれば良いのではないか、大綱なんてマニアの趣味の領域で時間の無駄ではないか、と思う方もいるかもしれません。
しかし、実務では内容をきちんと把握しておいたほうが良い局面がいくつかあります。
例えば、上場会社であれば税制改正が業績予想に大きく影響する場合はその影響額を見積もる必要があります。
税制改正によって減価償却制度が見直されれば業績予想に加えて予算の対応も考慮する必要性が高くなります(2007年の250%定率法の時は大変でした…)。
法案成立前に行うべき”タックス・プランニング”がある!
そして、これら以上に重要になるのがタックス・プランニングです。
今回の税制改正大綱を例にするならば、外形標準課税の減資への対応はタックス・プランニングの検討事項になるでしょう。
今回の大綱では、ニュースで時々批判の対象になっていた資本金1億円以下への減資による外形標準課税適用回避への対策が盛り込まれています。
具体的には、令和7年4月1日以後開始する事業年度では、前事業年度に外形標準課税適用法人で当事業年度に資本金1億円以下、且つ、資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超える場合には外形標準課税適用とするというものですが、駆け込み減資対策として、公布日を含む事業年度の前事業年度(公布日の前日に資本金が1億円以下となっていた場合には、公布日以後最初に終了する事業年度)に外形標準課税適用法人で、施行日以後最初に開始する事業年度に資本金1億円以下、且つ、資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超える場合には外形標準課税適用とするという対策も加えられています。
…ちょっと大綱の書き方が回りくどくて分かりにくいですね。
この改正による留意点はざっくり言うと下記のようになります。
- 公布日の前日までに資本金1億円以下にしておかなければ、資本金と資本剰余金の合計額が10億円超の場合の外形標準課税適用の網にかかってしまいます。
- 組織再編などで一時的でも資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超える状態が期跨ぎになると外形標準課税適用の網にかかってしまいます。
2つ目は今後の実行時の課題なので対策の猶予はあるとして、1つ目については3月下旬までに適用か適用回避かの有利不利検討の上、公布日前の資本金減少を行うか決定しなければ、4月に入ってからでは間に合いません。
以上から、法案成立前からタックス・プランニングを行うべき状況は存在し、大綱の内容把握によってその検討ができるということをイメージしていただけると思います。
プランニングの駆け込み対応の必要が生じる改正は、印象的には、組織再編税制や最近ではグループ通算制度などが多いです。
ただ、改正は多いけれど検討が迫られる状況にある企業は限定的でもあります。
では、企業の多くが検討を迫られる改正は何かと問われれば、私は法人税率変更を挙げます。
”法人税率の見直し”は多くの企業に影響大
法人税率は、近時では基本税率30%だったものが平成24年度税制改正により2012年25.5%、平成27年度税制改正により2015年23.9%、平成28年度税制改正により2016年23.4%、2017年23.2%と引き下げられてきました(参考)。
法人税率が引き下げられると、同じ取引、同じ金額であっても、事業年度によって税額への影響が変わります。
そうすると、未確定の費用、税務上留保した費用を改正前に精算して損金算入すべき動機が生まれます。
評価下げしたけれど放置されたままの事業用資産や追加出資を決めあぐねた合弁会社の株式などが少しだけお宝のように見えてくる瞬間です。
もちろん損金算入の根拠を揃える必要がありますし、前提としての事業方針や取引を動かす必要もあるので手間、根回し、費用などを伴いますが、税率ギャップが大きい時ほど検討すべきです。
その他、税率変更に関わるタックス・プランニングでは、公開情報で確認できる面白い例にキーエンスがあります。
キーエンスは通常、事業年度が3月21日から翌3月20日までという珍しい会社なのですが、施行日以後開始する事業年度が施行日の翌年の3月21日からとなるため、そのままでは法人税率引き下げの効果を享受できるのが大幅に遅れることになります。
そこでどうするかというと、なんとその年を3ヵ月+9ヵ月の変則の2事業年度にして、6月21日からは法人税率引き下げの効果を享受できるようにしているのです。
近時では2012年、2015年、2016年に実施しています。議案に含めるかの決定までのリードタイムを考えると、おそらく法案成立前から検討をしているでしょう。
さて、2015年5月28日付の第44回定時株主総会招集通知の第2号議案、定款一部変更の件を読んでみましょう。
「1. 変更の理由 平成27年度税制改正により、平成27年4月1日以降に開始する事業年度から法人税率が引き下げられることになりましたが、当社の場合、従来の事業年度では平成28年3月21日以降の適用となります。この遅れを少なくするために、平成27年6月21日から新事業年度を開始するものであります。」
タックス・プランニングとして行うことがはっきり書かれていますね。
日本企業はタックス・プランニングに消極的と評されがちですが、これくらい堂々としていたいものです。
税制改正大綱を読もう!
これまで法人税率引き下げの方向で進んできた我が国税制ですが、そろそろ反動の兆しが見えてきました。
与党版大綱の「基本的考え方」では、今後法人税率の引き上げも視野に入れた検討が必要と明記されています。
もし具体的な改正の動きに入る場合は、これまでとは逆向きのプランニングが必要になってきますね。
このように自社の租税コストの最適化の上で重要な情報源である税制改正大綱、これまで読んだことのない方は、一度そういう視点で読んでみると実益が感じられて興味を持って読めるのではないでしょうか。
<執筆者紹介>
blanknote
製造業の事業企画に従事。前職は製造業経理。事業運営、財務、会計、税務、法務、開示などが関心事で、X(旧Twitter)やしらさぎ会などの実務家の有志勉強会から得られる実務知識を主食として生息する匿名ネットアカウントです。
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