西﨑恵理(税理士)
【編集部より】
今年度の税理士試験が終わり、次年度の科目選択をしたり、専門学校の受講申込みをしたりする方もいるのではないでしょうか。税理士試験の受験を始める際、受験する予定の科目をぼんやりとでも計画を立てている人は多いはず。しかし、受験の手応えや試験結果によって、なかなか計画どおりにいかないのも現実です。
そこで、合格者の人たちがどういった考えで税法科目を選択していたのかを、受験の経験談とともに教えて頂きました。
次の1年へ向けて
みなさん、こんにちは。令和5年度税理士試験の受験お疲れ様でした。
本試験を終えて自己採点も一通り終わり、悲喜こもごも、しばらくはペンも電卓も持たずにのんびり夏を満喫したい、と思っている方も多いかと思います。
それだけ一年間頑張ってきた証なのですから、少しの間、頭と身体を休めて英気を養うことはとても良いことだと思います。大丈夫、身体が受験勉強に馴染んでいれば、羽を伸ばしているうちに自然と勉強したくなってくるものです。その時が次の一年へ向けての本格的なスタートです。
税法、何を選ぶ?
私は独学で全ての税理士試験科目を勉強しました。というのも、育児(平成24年に第一子出産)や仕事(出産前から会計事務所にて勤務)と両立しながらの受験だったので、資金的・時間的余裕が全くなく、市販のテキストと問題集を使用し、専ら自宅で勉強をする、というスタイルでした。
では、私の受験科目とその受験年をご紹介します。
①平成25年 簿記論(合格)
②平成26年 財務諸表論(合格)
③平成27年 法人税法(A不合格)
④平成28年 消費税法(A不合格)
⑤平成29年 法人税法・消費税法(ともに合格)
⑥平成30年 相続税法(50不合格)
⑦令和元年 相続税法(官報合格)
今回は税法科目の選択についての体験談ということで、おそらく皆さんが気になるのは、どうして法人税法・消費税法・相続税法の3科目を選んだのかということと、③~⑤の3年間の科目選択の理由についてではないでしょうか。
では、この3年間を軸に、私の当時の状況と合わせて説明します。
最初が肝心⁉ いきなり最難関科目へ
法人税法・所得税法が選択必修科目であり、中でも法人税法は全税法科目の中で最難関科目に位置づけられることは皆さんもご存じの通りかと思います。所得税法と比べて法人税法は普段の生活で馴染みがないこと、用語が難解であること、範囲が広く覚えることが多いこと、これらが難解と言われている要因ではないでしょうか。
私は最初の税法受験科目として、法人税法を選択しました。その理由は、仕事で法人の担当を任されるようになったことと、市販のテキストのラインナップに所得税法がなかったこと、の2点に尽きます。
では、なぜ最初の科目にしたかというと、仕事に早く役立てたかったというのもありますが、自分が会計科目の受験時から独学で勉強をしていたため、自分の評価を正しく知りたかったという理由が大きいです。
税理士試験の本丸である税法科目に足を踏み入れるにあたって、法人税法という難関科目における自分の手応えとそれに対する客観的評価は、自分が将来的に官報合格できる可能性があるかどうかを判断するのに、一番良い材料になると考えたのです。
さらに言うと、ミニ税法のような平均点が80点の科目よりも、平均点が60点の科目のほうが、独学の自分でも上位10%に食い込める可能性が高いのではないか、という打算的考えもありました。
本試験3か月前に出産⁉ 2年目の税法選択
もちろん、1年目の法人税法の受験はその範囲の広さもあり、本試験で手応えが感じられるレベルへは到底達しませんでした。
本来であれば、そのまま本試験後に法人税法の2年目へ突入、という流れが自然なのでしょうが、そう単純にはいきませんでした。本試験直後に、第二子の妊娠がわかったのです。
出産予定日は翌年4月末、本試験の約3か月前という日程です。少なくとも出産直前から産後1か月ほどは全く勉強ができないことを覚悟しないといけない、という状況です(それどころか、産後1か月を過ぎたら普通に勉強ができる、なんて保証も全くありません)。
本試験直後にわかったのが幸いでした。私はすぐに法人税法の2年目を延期し、9月以降は消費税法に着手することにしました。
法人税法の初受験を経て、消費税法のボリュームであれば出産までに一通りの勉強を終わらせることができそうだという見通しもついていましたし、この状況で法人税法に合格できる可能性は非常に低かったため、少しでも合格可能性のあるほうに賭けようと考えたのです。
もう後がない! 3年目の正直
予定通り産前にテキストを一通り終わらせ、産後1か月で勉強を再開することができたため、前年よりは多少手応えのある状態で消費税法の試験を終わらせることができました。ですので、9月以降は改めて法人税法にチャレンジすることにしたのですが、その年の12月、消費税法の結果は不合格でした。
4回の受験を終えて合格科目は会計科目の2科目のみ。受験に専念することは出来ないため1年に1科目ずつ、と決めていましたが、このペースでは受験が想定よりも長引いてしまう、と焦りました。
幸い、この時点ではまだ第二子の出産後で育児休業中だったので、少なくとも仕事復帰まではあと数か月ありました。そこで、この数か月で法人税法と消費税法を必死で勉強して、どうしても無理そうだったら法人税法に絞って受験しよう、と考えて、発表後すぐに消費税法のテキストと問題集を再度購入しました。
2科目受験へのチャレンジは初めてのことでしたが、両科目とも2年目で、かつ、1年目でA判定だったこと、問題との相性や合格率など運の要素も強いこと、などから、少しでも可能性があるなら2科目受験をしよう、と心の中では決めていました。
実際、2科目を並行して勉強するのはかなりしんどいものでしたが、仕事に復帰するまでの僅かな時間をフル活用して勉強した結果、翌年の本試験で両科目とも合格することができました。
最後の科目は税理士を目指すきっかけの税法
2科目受験を終えた本試験後、自己採点の結果もボーダー~合格確実の間ぐらいの点数であったため、9月から最終科目の勉強を始めることにしました。もともと法学部出身で、相続税絡みの訴訟に出会ったことから税理士を志した経緯があり、「最終科目は相続税法にしよう」と受験前から決めていました。
相続税法は他の税法に合格した猛者が選択することが多く、合格までに何年もかかるような難関科目であるという情報もネット上にはありました。しかし、それまでの5年間を経て、興味のある科目でなければ最後まで走りきることはできない、という確信があり、迷いなく最後の科目に足を踏み入れました。
思った通り、1年目では歯が立ちませんでしたが、2年かけて勉強したことによって、より理解度の高い勉強をすることができ、それが今の税理士としての基礎になっていると思います。
自分がどのような税理士になっていたいか
税理士になるためには税理士試験に合格することが必要です。ですが、試験の合格はゴールではありません。
合格するために何をするか、ではなく、数年後に自分がどのような税理士になっていたいのか、どんな分野の仕事をやっていきたいのか、そういった気持ちを大切に、税法科目の選択をしていただきたいと思います。
最後になりましたが、皆さんが9月からより良いスタートが切れるよう、心より応援しています!
【執筆者紹介】
西﨑恵理(にしざき・えり)
税理士
愛媛県松山市出身。大阪大学法学部卒業後、大阪市内の法律事務所でパラリーガルとして勤務するも、結婚を機に退職、愛知県へ転居。未経験から税理士事務所へ就職し、仕事と子育ての合間に独学で税理士試験を受験し、2019年度(第69回)本試験で官報合格。2023年4月に個人事務所「エンTAXサポート」を開業。
著書に 『税理士試験 独学×家勉で合格する方法Q&A』(中央経済社)、『税理士試験 税法理論のすごい暗記法』(共著、中央経済社)がある。