税理士試験5科目合格を目指す? 大学院に進学する? 受験生のタイプ別「適性」アドバイス


加藤 久也(税理士/名城大学大学院非常勤講師)

【編集部から】
税理士試験と大学院での学びは大きく異なるといわれています。
それぞれに適性があり、もし自身の適性に合わない方を選択してしまうと、資格取得までかえって多大な労力を費やすことになってしまいます。
そこで、5科目合格で税理士登録され、さらに現在大学院で非常勤講師を務める加藤久也先生にどのようなタイプが大学院もしくは試験に向いているかについて解説していただきました。

税理士試験と大学院では勉強の取り組み方が全く違う!

税理士試験の受験勉強は、法令等に定められた規定の内容を覚えそれらの規定にしたがい納税額を正しく計算できるようにしていきます。
具体的には試験問題で与えられた前提が規定の適用要件に当てはまるか否かを判断できるように訓練していきます。つまり、規定を覚えて使えるようにすること目指します。

大学院では、税法を法律学の見地から学びます。税法等の解釈について判例を通じて理解し検討する力を養います。したがって、規定を細部まで詳細にみていくよりは、判例や学説で考え方がわかれるものについて深く検討していくことになります。

このように、同じ「税法」の勉強ですが、その取り組み方は全く違います。
そこで、本稿では、どのようなタイプの人が、大学院進学に向くのか、また5科目受験に向くのかについて考えてみましょう。

大学院が向いているのはどんな人?

大学院では、税法等の全部を詳細に勉強することはしません。租税訴訟の判決を題材に法令の解釈について検討します。したがって、法令の規定についてその沿革や立法趣旨について調べ、深く検討する必要が生じます。つまり、時間をかけて物事を深く丁寧に理解しながら前に進むことを好む人に向いています。

また、大学院での評価は、授業での報告、議論への参加などの平常点、単位論文などにより行われ、最終的に修士論文を完成させることになるため、これらのことに手を抜かず時間をかけてじっくり取り組むことができる人に向いています。

このように大学院での研究は、自己の力を2年間の期間を通じて発揮することができるため、税理士試験のように当日の体調や出題内容に結果が左右されることがありませんから、税理士試験の本試験で緊張しすぎて実力を発揮できない人にも向くといえます。

5科目受験が向いているのはどんな人?

「5科目合格してこそ本物の税理士である」という確固たる信念を持っている人には、ぜひあきらめることなく初志を貫徹してほしいと思いますし、長くつらい受験生活を考えると、このくらいの覚悟が必要ともいえます。

受験勉強は、1年間(科目によっては7か月間)で準備して受験しますから、短期間に集中して勉強できる人に向いています。

また、暗記しなければならないことが多いため、時と場合によっては、理解しづらいことも覚えてしまえば大丈夫と割り切って先に進むことができる人にも向いています。

特に仕事をしながらあるいはダブルスクールで受験される場合には、生活にメリハリをつけて、受験勉強に効率よく取り組むことができる人にも向きます。

大学院修了か5科目受験なのかは、単に税理士資格の取り方の差にしかすぎず、本当の意味での勝負はその先!

会計2科目および税法1科目に合格されている人は、大学院への進学を検討してみてください。
というのも、大学院での学びは、税理士となった後に非常に役立つからです。私は、税理士試験5科目合格していますから税法について理解できている自負がありました。
ところが、実際には法的な考え方を学んだことがなかったため、実は一方の面からしか税法を見ていなかったことに気づき大変驚くとともに、大学院での学びを見直すきっかけとなりました。

大学院修了にせよ、5科目合格にせよ、税理士の資格を得た時が新たなスタートとなります。法令だけでなく通達やQ&A、実務書に書かれている取扱いなど多くのことを勉強し、また法的な見地からその取扱いについて判断することができる力を身につけていく必要があると思います。
そう考えると、大学院修了か5科目受験なのかは、単に税理士資格の取り方の差にしかすぎず、本当の意味での勝負はその先だと考えられます。
ご自身の性格、生活環境などを考慮し、ご自身に合う選択をしていただきたいと思います。

<執筆者紹介>
加藤 久也
(かとう・ひさや)
税理士/名城大学大学院非常勤講師(消費税法担当)
1991年、富山大学理学部卒業。1991年~1995年、株式会社日立製作所に勤務。1998年、税理士試験合格。2000年、税理士登録。2002年、愛知県春日井市に加藤久也税理士事務所開業。税理士業のほか、1998年~2019年に名古屋大原学園、2016年より名城大学、2019年より愛知淑徳大学にて非常勤講師を務める。2017年より東海税理士会税務研究所研究員、2021年より同研究所副所長に就任。2019年より日本税法学会所属。著書に『ワークフロー式消費税[軽減税率]申告書作成の実務』(共著、日本法令)がある。


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