わたしの独立開業日誌 #行政書士・上田祐子


【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。

行政書士の資格を取るために札幌へ移住

北海道札幌市で行政書士として開業している上田祐子と申します。
高校卒業後から2018年12月末に退職するまで、ずっと税理士事務所に勤務していました。
2019年3月に行政書士事務所を開業し、今年で丸3年、これから4年目がスタートします。

出身は函館市で、行政書士の資格を取るために、ちょうど10年前に心機一転、単身で札幌市に移り住みました。
北海道は広いので、道外の方には伝わりづらいかもしれませんが、函館市と札幌市の距離は最短だと約250㎞あり、車で約4~5時間かかります。
例えると、東京から静岡県浜松市くらいの距離があるそうです。

そんな函館で生まれ育ち、税理士事務所での税務会計業務一筋だったわたしが、なぜ行政書士を目指し、札幌で独立開業したのかを少しお話しさせていただきます。

税理士事務所に勤務していた開業前

新卒で入った税理士事務所が居心地よかった

税理士事務所へ勤めることになった「はじめのきっかけ」というのは特になく、商業高校出身だったため、就職活動をしていくなかで、なんとなく受けてみた程度でした。
当初は、税理士事務所で行う業務についての前提知識もまったくない状態でしたが、親のように育ててくれた直属の上司や同年代の仲間といる時間がとても楽しく、気がつけば同じ事務所にずっと勤めていました。

そんななか、離れて暮らしていた父が癌により58歳で急死、二人三脚で仕事をしていた上司が60歳で退職と、一気に自分の置かれている環境が変わりました。
男性職員と同じように担当を持って、税務調査も同行し、ガンガン仕事をしていたものの、「世の中はもっと広いのに、このまま、この場所で、世間知らずのまま一生を終えるのはどうか?」と、その頃から疑問を持つようになりました。
何か資格を取って男性と肩を並べるような自信を自分に持ちたかったのです。

◆開業後のプロフィール写真
(3月に気温2度、雪の中での撮影でした)

相続案件をきっかけに「行政書士」を目指すことに

「行政書士」の資格に興味を持ち始めたのは、勤めていた税理士事務所で相続のお仕事をするようになった頃です。
戸籍謄本を取得しての相続人調査や農地転用許可など、行政書士へ依頼するような仕事もおもしろいなと思い始めました。
相続税法と民法との関係も興味深く、他の税務会計の仕事よりもこういう仕事のほうが自分に合っているとやりがいを感じるようになりました。

そこで、はじめての大きな相続の仕事が終わった後に、「すべてをリセットして、人生を一からやり直そう」と、行政書士の受験勉強に集中するために、20年近く勤めた税理士事務所の退職を決意しました(札幌を選んだのは、当時日本ハムファイターズの稲葉選手のファンだったからです)。
それから札幌に移住して、働きながら行政書士試験を受けましたが、なかなか合格できず…、6回目にようやく合格することができました。

札幌でも職場は税理士事務所を選びましたが、実は、その6年の間に、事務所を5回変更しました。
当時のわたしは、「場所や環境が変わればなんとかなる」と思っていたのですが、それは大間違いで、「自分自身が変わらなければ何も変わらない」ということを、行政書士試験に合格することでようやく気付くことができました。
勤めていたときは、自分も一生懸命でしたが、どこか環境や人のせいにして生きていたのだと思います。

ある女性行政書士との出会いが、独立開業を後押しする

札幌で最後に勤めた税理士事務所には、1年10ヵ月在籍しました。
合格後、その事務所の税理士先生に、「うちに勤めながら行政書士として独立しても良い」と、うれしい言葉をかけていただいて、私自身、正直そのつもりでおりました。

そこで、まずは自宅の住所で行政書士の登録をしましたが、ちょうどそのとき、外国人を専門にする女性行政書士の先輩と出会い、その先生の「仕事に対する覚悟」に心を打たれる出来事がありました。
そして、改めて、自分の甘さや生温い考えが恥ずかしくなり、「これは独り立ちするしか道はない」と、事務所の退職を決めて、個人事務所を開業しました。

開業、ゼロスタートの1年目とコロナ禍の2年目

事務所通信はお世話になった方々への感謝のお便り

◆手作りの「事務所通信」を毎月5日頃に作成しています。

開業後は、とくに当てもなく、後先考えずスタートしました。
もちろんはじめは仕事もありません。

そこで、何かできることはないかと考え、「令和」に元号が変わった2019年5月から「事務所通信」を作り、他愛のない話や自分の勉強のためにも外国人関係の話について発信するようになりました。
幼い頃からマンガを描いていて中学生のときから自費出版もしていたため、こういったチラシを作るのが得意ということもあり、毎月続けて現在34冊目になります。

この事務所通信は、函館時代にお世話になった税理士事務所の上司に郵送したり、毎月参加している勉強会やお会いした方々に配布しています。
読んだ皆さんから、「楽しみにしている」とか「癒される、元気になる」といった、うれしい言葉をかけていただいているのが励みになっています。

思いもよらなかった前事務所からのご縁

開業後2年目に入ってすぐに、コロナ禍となりました。
依頼されていたお話も一気になくなり、「この先どうしよう…」とはじめて不安になりました。

そんななか、最後に勤めた税理士事務所の方から、支援金関係の相談で少しずつお問い合わせがくるようになりました。
そして、外国人で日本語が苦手な方や、ご年配でパソコンが不慣れな方など、本当に支援が必要なお客様を積極的にご紹介いただくようになりました。
また、思いがけずありがたいことに、そのお客様からまた別のお客様を…といったように、ご紹介でつながっていき、いろいろな業務に携わることになりました。

お客様自身も、信頼している税理士事務所の担当者から紹介された行政書士であることや、実際にわたしもその税理士事務所に勤めていたことがあるということをお話しすると、共通の話題もすぐ出てきて、安心したお顔に変わることも多くあります。
改めて、独立させてくださった税理士の先生には感謝しかありません。

◆開業3年目最後に、ノベルティのボールペン(自作デザイン)を作りました。

最後に

長年にわたり、ご縁があって数々の税理士・公認会計士の先生のもとで、たくさんの経験を積ませていただきました。
行政書士試験の受験勉強中、「行政書士の資格を取った後はどうするの?」と質問されることが多かったのですが、わたしは自分の将来をまったく想像することができず、上手く答えることができませんでした。

悩んでいるつもりはなく、単純に「そのときにならないと、わからない。わからないものを決めることができない」というのが本音でした。
いま考えると、雇っている事務所からすれば、得体の知れない職員ですし、「随分好き勝手やっていたなぁ…」と、反省しています。

悩むということは、それだけ選択できる情報を持っているので、「悩める」ということは有難いことなのではないでしょうか。
焦らずとも諦めずに自分の信じた道をコツコツと続け、人とのつながりを大切にすることができていれば、ふと立ち止まったときに、自然とまた別の新しい道が開けていくのではないかと、わたしは思います。

【執筆者紹介】
上田 祐子(うえだ ゆうこ)

うえだ行政書士事務所代表。中小企業の会計・創業支援、行政機関への許認可や届出、相続の手続き等を手掛ける。
北海道函館市出身。札幌市在住。函館商業高校卒業後、函館市内の税理士事務所へ勤務、2012年3月行政書士になるため札幌市へ移住、札幌市内の税理士事務所へ勤務しながら受験。
2018年1月行政書士試験合格、8月行政書士登録、12月税理士事務所を退職。
2019年3月開業、事務所を開設。
趣味は、絵を描くこと、茶道、美味しいものを食べること(好き嫌いなし)。

事務所ホームページ
Twitter(@ueda_office)

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