9月、税理士試験の受験生にとっては“新年度”がスタートしました。
来年度の合格に向けて、勉強を本格化させた方も多いのではないでしょうか。
ここでは、「専門学校講師が教える 簿記論・財務諸表論 初学者の1年間の過ごし方」などでお話しいただいた、資格の学校TACの加茂川 悠介先生に、財務諸表論の学習法について具体的なアドバイスを伺いました。
「簿記論には合格しているけれど財務諸表論になかなか合格できない」「計算は得意だけれど理論に自信がない」と悩まれている方もいらっしゃると思います。
そのような方をはじめ、財務諸表論を勉強されるすべての方が必見の内容です!
1年間、「計算」と「理論」をバランスよく
――税理士試験の受験生にとっては「新年度」が始まりました。財務諸表論の合格に向けて、この9月から気をつけていくべきことはありますか?
加茂川先生 この9月から、計算も理論もしっかり勉強していただきたいです。
というのも、すでに簿記論に合格している方に多いのですが、「財務諸表論の勉強を始めるのはいつにしよう」と悩まれる方がいらっしゃいます。
簿記論には合格しているから「計算」はある程度できる、あとは「理論」を詰め込むだけだ、それならいつからがいいのかな、ということですね。
実際、TACなど専門学校では5月からの直前期に試験委員対策や答練などを行うので、そこから財務諸表論の勉強を本格化させる方がいらっしゃいます。
もちろん、この戦法で上手くいく方もいらっしゃいますが、私がこれまで見てきたなかでは、失敗している方も多い印象です。
理論は計算と同じく、一朝一夕の勉強やヤマを張ってなんとかなるものではありません。計算も、継続して練習しないとスピードや正確性が落ちていきます。
そのため、お金や時間はかかるかもしれませんが、「まだ本気を入れなくていいや」と考えるのではなく、この9月から腰を据えて勉強していただければと思います。
理論は「まんべんなく理解する」と「書くことに慣れる」がポイント
――財務諸表論に合格される方の共通点はありますか?
加茂川先生 まずは、「まんべんなく」勉強されています。
直前期になると、専門学校では試験の出題予想もしていますが、実際のところ、合格される方は、ヤマを張ったりせずに隅から隅まで勉強している印象です。
今年の本試験を振り返っても、おそらく「収益認識」が出題されるのではないかと考えていた方は多かったと思いますが、実際は出題されませんでしたよね。
「ヤマなんか当たらないものだ」と考えて勉強するほうが無難だと思います。
また、「理解する」ことも大切です。財務諸表論に合格する秘けつは、この「まんべんなく」と「理解する」の二本柱ですね。
――「理解」が大切とのことですが、財務諸表論の場合、それと並行して「暗記」をするべきか悩まれる方も多いですよね。実際のところ、財務諸表論の理論は暗記したほうがよいのでしょうか?
加茂川先生 「理解」と「暗記」のどちらを重視すべきか、よく受講生から寄せられる質問の1つです。
このような質問を受けた場合、まずは「理解も暗記も並行してください」と伝えています。
ただ、注意していただきたいのですが、これは「理解できない=暗記しなくてもいい」ということではありません。
「理解」と「暗記」のどちらが先か、どちらを重視すべきかを考えたところで、結局は“暗記せざるをえない”んですよ。
なぜなら、本試験で合格しようと思うのであれば、当然、答案を書かなければいけないわけですから。
このとき、ある程度の文章が頭に入っていないと、解答としてアウトプットするのは難しいと思います。
ただ、「暗記をしなければいけない」といっても、単に文字列を覚えるだけでは、なかなか定着しませんよね。だからこそ「理解する」ということも大切になってきます。
理論を暗記する際には、「この文章はこういうことを言っているのかな」と考えながら覚えるようにしてみてください。
――具体的に、理論暗記にオススメの方法はありますか?
加茂川先生 私個人としては「音読」を勧めています。私自身も「音読」しながら理論を覚えていました。
ただ、最近合格される受講生の様子をみていると、「書いている」方が多いですね。
腕に湿布を貼ってまで書いている方も見かけますので、心配になることもありますが、おそらくは「書くという行為をいやがらない」のが合格につながっているのかなと思います。
結局、本試験では答案を書かないと合格できません。選択肢を答えるだけの問題ならよいのですが、しっかり論述させる問題には、「抵抗なく書ける力」が大切です。
日ごろから文章を書くようにしている方のほうが合格はしやすいかもしれませんね。
計算力は、練習問題を繰り返し解いてキープ
――たとえば、簿記論に合格している方が財務諸表論を勉強するとなると、計算と理論それぞれ、どのような割合で勉強するとよいのでしょうか?
加茂川先生 簿記論に合格していたり、計算が得意であったりしても、計算と理論を並行して学習していただきたいです。
計算と理論は、まったく違ったことを学習するわけではありません。
そのため、理論を勉強するにも、計算と並行したほうが、理解や暗記には効果的だと思います。先ほどもお話ししましたが、計算力も時間をおいたら落ちていきますしね。
そういった意味では、計算と理論のどちらかに偏るようなことはせず、両方をバランスよく勉強していただきたいと思います。
――計算を練習するにあたって、どのようなレベル感の問題を解くとよいのでしょうか?
加茂川先生 普段の練習としては、専門学校で提供される問題集や市販の問題集を解くのがよいと思います。
「簿記論に合格している」「財務諸表論を受験したことがある」といった経験者の方だと、過去の試験問題に早くからチャレンジされる方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、本試験問題には、「見たことがない、これってどう解いたらいいのかな」と考えさせるような難しい問題もあります。
そのような問題に早いうちから触れると、「こういう問題は解かなくていいや」とか「これは捨て問だな」といったように、先入観をもってしまう可能性があります。
財務諸表論はまんべんなく勉強することが大切なので、このように最初から取捨選択するような学習法はあまりよくありません。
そのため、ある程度の実力を一般的な問題集でつけ、そのうえで過去問に挑戦していただきたいと思います。
また、問題を繰り返し解くことも大切です。同じ問題を、時間内に満点がとれるまで解いてみてください。
今後は「注記」にも要注意!
――最後に、今年の試験を振り返って、今後の学習方針として意識したほうがいいことはありますか?
加茂川先生 「注記」ですね。
今年、計算で「注記」からの出題が多く見られました。しかも、選択形式の問題で、そこまで難しくはなかったと思うので、なるべくすべての問題に解答したいところでした。
注記をオマケのように考えている方もいらっしゃると思うのですが、今年の出題数や難易度から、目を通しておく必要はかなりあると感じています。
簿記論にはない部分なので、そういった意味でも注意が必要ですね。財務諸表論の初学者の方も経験者の方も、改めてじっくり勉強していただきたいと思います。
――やはり「まんべんなく」勉強することが大切なのですね。貴重なお話をありがとうございました!
【お話を聞いた人】
加茂川 悠介(かもがわ・ゆうすけ)
税理士。中央大学法学部、早稲田大学大学院法学研究科修了後、大手専門学校で教鞭をとる。その後、立命館大学大学院法学研究科で税法を学び、税理士事務所勤務、河合塾ライセンススクール講師を経て、財務捜査官採用試験に合格、宮城県警にて勤務。立命館大学大学院では成績および論文を評価され、奨学金全額返還免除を受ける。現在、資格の学校TAC税理士講座のほか、近畿大学等でも講義を行う。
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