わたしの独立開業日誌 #公認会計士・税理士 中西光司


公認会計士・税理士 中西光司

独立して分かった、「働く」より難しいこと

独立する前、私が心配していたことの一つは、「独立したら、どれくらい働かなければならないのだろう」ということでした。

ところが、実際に独立してみると、働くこと自体は思っていたほど苦ではありませんでした。勤務時代は一刻も早く帰りたいと思うこともありましたが、独立後は、自分で選んだ仕事を自分の判断で進められます。むしろストレスになったのは、終わらない仕事が積み上がっていくことでした。誰かにやらされているわけではないからこそ、自分で区切りを設けなければ、仕事と生活の境界がなくなります。

独立して難しかったのは、働く時間を確保することよりも、限られた時間を何に使うかを決めることでした。資格を取った後の働き方を考えている方に、独立後の一例としてお伝えできればと思います。

ITや生成AIも活用している事務所の執務スペース

回り道の先で、独立を選んだ

私は、最初から公認会計士を目指していたわけではありません。高校を中退した後、高卒認定を取得して進学しました。当初は情報系の分野を学んでいましたが、簿記に出会ったことをきっかけに会計へ進路を変え、会計専門職大学院への進学後に公認会計士という進路を具体的に意識し、1年5ヵ月の勉強を経て論文式試験に合格しました。

大学院修了後は、有限責任監査法人トーマツで上場企業や中小企業の会計監査を経験し、その後はデロイト トーマツ税理士法人で法人税務に携わりました。

監査では、企業の業務や数字が生まれる背景を理解する力を、法人税務では、税務論点を整理して考える力を身につけました。どちらも、数字だけで結論を出さず、経営者の置かれた状況を踏まえて選択肢を整理する現在の仕事につながっています。

また、独立の1年前に妻が自宅でピアノ教室を開業し、妻が講師として現場を担う一方で、私は料金設定、運営ルール、集客目標、ホームページの構成など、経営面を全面的に支援してきました。夫婦で事業を運営する中で、小規模事業では税務だけでなく、価格、集客、業務の仕組み、生活との両立まで含めて判断する必要があることを実感しました。

妻が講師を務め、私が経営面を支援するピアノ教室

監査と税務の経験に加え、実際に事業を組み立てる側を経験したことで、経営者と直接向き合い、自分なりの方法で仕事を設計したいという思いが強くなりました。2024年9月に前職を退職し、翌10月に公認会計士・税理士事務所を開業しました。

顧客を増やすための活動を見直した

開業後は、すぐに税務顧問の仕事だけで生活する形にはしませんでした。監査の業務委託を週2日程度続け、一定の収入を確保しながら、ホームページを作成して公開しました。最初の問い合わせと見積りの提示は2024年12月頃、最初の顧問契約は2025年1月でした。

顧客を増やす方法が分からなかった開業当初は、とにかく人と会う必要があると考えていました。夜の交流会や飲み会にも頻繁に参加し、毎週2、3回ほど予定を入れていました。それが仕事につながったケースもありましたが、参加すること自体が目的になり、自分の仕事とあまり接点のない場にも時間を使っていることもありました。

サービスの見せ方にも問題がありました。記帳や申告といった一般的な税理士業務の枠組みで説明すると、他の税理士との違いが伝わりません。結果として、料金や業務範囲を中心に比較され、自分が提供したい支援と、相談者が求めるものにずれが生じることもありました。

さらに、2025年3月に第一子が生まれ、生活の前提が大きく変わりました。実際に自由に仕事へ使える時間がどの程度減るのかまでは、十分に想像できていませんでした。夜と土日は家族の時間になり、感覚的には、働ける時間はそれまでの3分の2ほどになりました。

それまでと同じように夜の交流会へ参加し、仕事を増やし続ける運営は成り立たなくなりました。働くこと自体は苦ではありませんでした。ただ、放っておけば仕事はいくらでも増えます。子どもが生まれた後は、やることを増やすより、やらないことを決める必要がありました。

接点の数ではなく、時間を使う相手を選ぶ

2025年の夏頃から、営業活動と仕事の進め方を見直しました。それまでは仕事や交流会の予定を先に入れていましたが、家族の予定を先に置き、その範囲で仕事を組み立てるようになりました。夜の活動は月1、2回程度まで絞り、人と会う場合もランチが中心になりました。交流会についても、参加目的が明確か、継続的な関係につながるかを考え、本当に必要だと思うものだけに参加するようになりました。

また、参加したいと思える交流会が少ないのであれば、自分たちで作ればよいと考え、現在は司法書士の先生と一緒に、吉祥寺で士業交流会を定期的に主催しています。用意された場へ数多く参加するよりも、どのような人に参加してもらい、どのような関係を作るかを自分たちで考えるほうが、私には合っていました。

同時に、新しい人と会うことだけでなく、既に顧問契約をいただいている方により多くの時間を使うようになりました。現在は、すべての顧問先と原則として月1回面談しています。申告に必要な数字を確認するだけでなく、事業の値付けや集客方法、資金繰りや役員報酬の決め方など、これからの経営判断について一緒に考えるためです。面談では、税務や記帳の確認より、これからの経営について話す時間が長くなることもあります。

顧問先との面談スペース

ただし、面談をして話を聞くだけでは、経営はなかなか前に進みません。面談後には、話した内容や決まったことを整理した資料と、今後取り組むこと、担当、期限を共有しています。そして、次回の面談で実行状況を確認し、結果を踏まえて次の判断につなげます。次に取り組むことを明確にすることで、面談を「相談して終わり」にせず、実行までつなげることを意識しています。

開業当初は、自分の仕事を記帳や申告といった業務の一覧で説明していました。しかし現在は、毎月の面談を起点に、経営者の判断と実行のサイクルを回していくことが、私の仕事の核だと考えています。

この運用を一人事務所で続けるため、ITやAIも積極的に使っています。私は会計を学ぶ前に情報系の分野を学んでいたこともあり、新しい技術を業務に取り入れることに抵抗がありません。現在はClaude Codeを事務所運営の基盤として使い、所内資料の草案、業務手順、チェック方法の設計などに活用しています。ただし、税務判断や内容の検証、顧客への説明、最終的な責任は人が担います。AIの目的は、人と会う時間を減らすことではなく、経営者の判断と実行を支える時間を確保することです。

夜と土日の活動を減らしたことで、顧客獲得に大きな支障が出たわけではありません。営業活動の量を減らした後も、結果的に事務所の売上は伸びています。もちろん、夜と土日の活動を減らしたから売上が増えた、と単純に言うことはできません。ただ、接点の数を増やすことよりも、一つひとつの関係を大切にすることのほうが、自分の仕事には合っていたのだと思います。

正解を決めてから始めなくてよい

公認会計士や税理士の資格を取った後にも、監査法人、税理士法人、独立と、さまざまな働き方があります。そして、独立後の働き方にも、最初から決まった正解があるわけではありません。

受験生の方も、将来の働き方を完全に決める必要はないと思います。私自身、会計専門職大学院に入学するまでは、公認会計士になることも、自分の事務所を持つことも想像していませんでした。今の段階で将来の働き方を決め切れなくても、資格を取った後に選び直すことはできます。

環境や家族の状況が変われば、仕事の形も変わります。それまでに得た経験を捨てるのではなく、現在地から次の形を組み立てていけばよい。独立してから、私はそう考えるようになりました。

【著者プロフィール】
中西光司(なかにし・こうじ)

公認会計士・税理士
関西大学会計専門職大学院修了。有限責任監査法人トーマツで会計監査、デロイト トーマツ税理士法人で法人税務を経験し、2024年に東京都三鷹市で独立。法人向け税務顧問を中心に、月次面談を通じた経営判断と実行支援を行う。情報系を学んだ経験を生かし、ITや生成AIも業務設計に取り入れている。
ホームページ:https://nakanishi-cpa.com/


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