マネーフォワード経理本部が挑む!新リース会計基準の早期適用~第4回:IFRS第16号導入プロジェクトの教訓


松岡俊(株式会社マネーフォワード執行役員 グループCAO)

【編集部より】
2027年から新リース会計基準が強制適用となります。対応に追われている企業は多いのではないでしょうか? 本連載では、新リース会計基準を早期適用したマネーフォワード経理本部の実例を解説していただきます。

第1回:改正の概要と早期適用をした理由
第2回:リースの範囲はどこまで?
第3回:新リース会計基準の導入が困難な理由
第4回:IFRS第16号導入プロジェクトの教訓
第5回:【実践】プロジェクトの可視化
第6回:【実践】知識のインプット
第7回:【実践】意思決定の加速とリース期間の決定方針
第8回:【実践】契約書の網羅的な洗い出し
第9回:【実践】全社連携と監査法人との協議
第10回:【実践】システム対応とその他の影響の考慮

過去の教訓:IFRS第16号導入プロジェクトで発生した5つの課題

私は前職で2018年から2019年にかけてIFRS第16号の導入プロジェクトに携わりました。
しかし、そのプロジェクトは決して順調ではありませんでした。

今回の新リース会計基準への対応は、当時の私のプロジェクト推進における数々の反省に基づいています。
今後の対応を検討される皆様の参考とするため、まずはその経験からお話しさせてください。

課題1:完璧主義に起因するインプット過多

IFRS第16号の導入当時、日本語での解説は少なく、英語の原文や専門書を読み込む必要がありました。言語の壁に加え、「完璧に理解しなければならない」という意識が強く、インプット作業に時間を要しました。インプットに時間を要した結果、本来進めるべき会計方針の決定や影響額の試算といったアウトプットが出ないまま、時間が経過してしまいました。

課題2:議論の停滞と、現場の意見が反映されない方針決定

「リース期間の定め方」という重要な会計方針をめぐり、理論と実務の両立が困難で議論が停滞しました。

さらに問題を深刻にしたのは、この重要な意思決定が、実際に業務を担うグループ会社への十分なヒアリングや根回しがないまま、本社経理部の中だけで進められていたことです。
案の定、方針を伝えると各社から強い反発を受け、プロジェクトは炎上気味になってしまいました。

課題3:監査法人との非効率な協議

IFRS第16号は2018年ごろにおいては監査法人にとっても未開の領域であり、他社の事例も乏しかったため、当社と監査法人の双方にとって手探りの状態でした。

そのため、各論点では広範な選択肢の中からゼロベースでの議論が頻繁に発生し、具体的な結論に至らない意見交換に終始することも少なくありませんでした。
監査法人側もあらゆる可能性を指摘せざるを得ず、論点が多岐にわたった結果、各種会計方針の決定に時間を要し、後続処理の遅延につながりました。

課題4:「適用初年度」への過度な注力と「通常業務」の考慮不足

適用初年度の期首残高の作成に注力したため、適用開始後の契約更新、中途解約、条件変更といった日常業務プロセスの検討に十分な時間を割くことができませんでした。

課題5:システム選定、プロセス構築におけるリーダーシップ不足

本社経理は「連結パッケージに正しい数字が集約されれば、各社のプロセスは問わない」という方針で、グループ会社へのリース計算ツールの提供やプロセス構築におけるリーダーシップが不足していました。

結果として、各社がExcelや独自ツール、異なる勘定科目でリース管理を行うことになり、グループ全体での標準化の機会を逃しました。

過去反省を踏まえた対応方針

これらの私個人の至らなかった点、反省点を踏まえ、2024年10月に現職で開始した新リースプロジェクトでは、以下の点を重視し、計画を策定しました。

  • 迅速なインプットと意思決定: スピード感をもって情報収集と方針決定を進める。
  • 部門間の連携強化: 関係部門との密接なコミュニケーションを通じてチームワークを醸成する。
  • プロセスとシステムの標準化: 新リース会計導入後のプロセスやシステム選定まで標準化を意識する。

以降、これらの反省を個別の論点にどのように活かし、新リースプロジェクトを推進したかを詳しく説明します。

【著者プロフィール】
松岡 俊(まつおか・しゅん)

株式会社マネーフォワード
執行役員 グループCAO 
1998 年ソニー株式会社入社。各種会計業務に従事し、決算早期化、基幹システム、新会計基準対応 PJ 等に携わる。英国において約 5 年間にわたる海外勤務経験をもつ。2019 年 4 月より株式会社マネーフォワードに参画。『マネーフォワード クラウド』を活用した「月次決算早期化プロジェクト」を立ち上げや、コロナ禍の「完全リモートワークでの決算」など、各種業務改善を実行。中小企業診断士、税理士、ITストラテジスト及び公認会計士試験 (2020 年登録)に合格。


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