【経済ニュースを読み解く会計】 トランプ大統領とゴーイング・コンサーン情報の開示(後編)


長崎県立大学・経営学部准教授 坂根純輝

【編集部より】
話題になっている経済ニュースに関連する論点が、税理士試験・公認会計士試験などの国家試験で出題されることもあります。でも、受験勉強では会計の視点から経済ニュースを読み解く機会はなかなかありませんよね。
そこで、本企画では、新聞やテレビ等で取り上げられている最近の「経済ニュース」を、大学で教鞭を執る新進気鋭の学者に会計・財務の面から2回にわたり解説していただきます(執筆者はリレー形式・不定期連載)。会計が役立つことに改めて気づいたり、新しい発見があるかもしれません♪ ぜひ、肩の力を抜いて読んでください!

こんにちは!長崎県立大学で簿記や会計学を教えている坂根です。

「前編」の概要

まずは、前回の内容をおさらいしましょう。

トランプ大統領とゴーイング・コンサーン情報の開示(前編)では、ドナルド・トランプ氏が大株主となっており、トゥルース・ソーシャルというソーシャルサービスを提供するTMTG社がアメリカのナスダックに上場し、株価が急騰した直後に、TMTG社のForm 10-Kに添付されている独立登録会計事務所の報告書(Report of Independent Registered Public Accounting Firm)において、継続企業の前提であるゴーイング・コンサーンに重大な疑義(Substantial Doubt)があるという情報が開示されていることも一因となり、TMTG社の株価が大幅に下落した2024年4月までの事実関係を述べてきました。

TMTG社とドナルド・トランプ暗殺未遂事件

ここからは、TMTG社の2024年4月以降の展開の中でも特に重要なドナルド・トランプ暗殺未遂事件をみていきましょう。

ドナルド・トランプ氏がTMTG社を設立し、TMTG社の筆頭株主はドナルド・トランプ氏であることから、ドナルド・トランプ氏の言動は、TMTG社の株価に影響を与える一要因となりうると考えられます。なお、2025年現在TMTG社のCEO(最高経営責任者)は、元下院議員であったデビン・ヌネス氏です。

ドナルド・トランプ氏は、2024年アメリカ合衆国大統領選挙に出馬を決め、2024年7月13日にペンシルベニア州の共和党の選挙集会で演説を実施しました。ドナルド・トランプ氏は、演説中に、シークレットサービスの警備エリア外である120m離れた建物から銃撃され、右耳を打たれました。いわゆる、ドナルド・トランプ暗殺未遂事件です。その後、ドナルド・トランプ氏は、耳から血を流しながら、集会参加者達に拳を突き上げる動きを見せました。銃弾が当たっているにもかかわらず、拳を突き上げる姿から、ドナルド・トランプ氏は、強いアメリカを体現した人物だと考えられます。

政治家に対する暗殺未遂事件は、その政治家の支持率にプラスの影響を与える可能性があります。当時アメリカの大統領であったロナルド・レーガン氏は、1981年3月に銃撃された後の世論調査で支持率を上げており、ギャラップの世論調査では、銃撃による懸念と同情で事件直前に60%だった支持率が68%まで上昇したと述べています(日本経済新聞 2024a)。

そして、米メディアによると、当時パキスタンの元首相であったイムラン・カーン氏が2022年に⾜を銃撃された後に所属政党の⽀持率が上昇し、ブラジルのジャイール・ボルソナロ氏は、2018年の大統領選挙期間中に刺されたのですが、その後の大統領選挙に勝利していると述べています(日本経済新聞 2024a)。つまり、政治家に対する暗殺計画が失敗に終わった場合には、暗殺未遂事件が政治家にプラスに働くことがあり得ると考えられるのです。

ここからは、TMTG社の事例に立ち返ります。ドナルド・トランプ氏の銃撃前における2024年7月12日のTMTG社の出来高(その日取引された合計株数)は4,469,662株であり、株価の終値は30.89ドルだったのですが、銃撃後の2024年7月15日のTMTG社の出来高は80,789,436株となり、株価の終値は40.58ドルまで値上がりしました。つまり、ドナルド・トランプ氏が銃撃された後にドナルド・トランプ氏が筆頭株主となっているTMTG社の株の売買が18倍活発になり、約30ドルだった株価が約40ドルまで値上がりしたのです。政治家に対する暗殺未遂事件は、選挙だけでなく、株価にもプラスの影響を与える可能性があるのかもしれません。

その後、2024年10月2日のTMTG社の株価の終値は、15.81ドルまで値下がりしましたが、2024年11月6日にドナルド・トランプ氏がアメリカの大統領に再選確定する直前の段階である2024年10月29日のTMTG社の出来高は157,348,283株となり、株価の終値は51.51ドルまで値上がりしました。その後も、TMTG社の株価のボラティリティ(株価の変動幅)は高い状態となっており、安定していないように考えられます。

TMTG社と監査人の交代

ここからは、TMTG社の現在の状況を理解するために、TMTG社が2025年2月14日に開示したアメリカの上場企業の有価証券報告書であるForm 10-Kをみていきましょう。

2025年のTMTG社のForm 10-Kに添付されている独立登録会計事務所の報告書には、継続企業の前提に関する重大な疑義(Substantial Doubt)を生じさせているという記述は無くなりました(TMTG 2025)。2023年12月31日のTMTG社の総資産は、3,363.6千ドル(1ドル150円換算で約5億400万)であったのですが、2024年12月31日のTMTG社の総資産は、938,287.5千ドル(1ドル150円換算で約1407億4312万円)となっています(TMTG 2025)。総資産だけで企業規模を観察すると、TMTG社は、1年間で企業規模が著しく拡大していることが理解できます。

ただし、TMTG社は、2024年5⽉3日付けで、財務諸表監査を依頼していたBF Borgers CPA PC(以下、BF Borgersという。)を解任し、2024年5⽉4日にSemple, Marchal & Cooper, LLP(以下、SMCという。)に財務諸表監査を依頼していました(TMTG 2025)。

つまり、監査人を交代していたのです。2024年にBF Borgersがゴーイング・コンサーン情報を開示したため、経営陣が開示したくない可能性が高いゴーイング・コンサーン情報を開示する監査人(BF Borgers)と監査契約を解除し、ゴーイング・コンサーン情報を開示せずに、適正意見を表明しそうな新しい監査法人(SMC)に監査人を交代するオピニオン・ショッピングをTMTG社が実施している可能性が考えられました。

よって、TMTG社がオピニオン・ショッピングを実施しているか否かに関して詳細を述べていきます。TMTG社の監査人であったBF Borgersは、2024年5月3日にアメリカの証券取引委員会であるSEC(U.S. Securities and Exchange Commission)から、SEC提出書類1,500件以上に影響を与える大規模な詐欺行為で告発されていました(SEC 2024)。監査法⼈BF Borgersは、1,200万ドルの民事制裁金を支払うこととなり、BF Borgersの所有者であるベンジャミン・ボルガーズ氏も200万ドルの民事制裁金を支払うこととなりました(SEC 2024)。

そして、BF Borgersは、SECの告発に対応するために、業務の永久停止に同意しました(SEC 2024)。このことから、TMTG社は、ゴーイング・コンサーン情報を開示されることを避けるために、オピニオン・ショッピングを実施し、監査人を解任したのではなく、BF Borgersが業務の永久停止に同意したので、他の監査人(SMC)に監査人を交代しなければならなかったということが明らかとなったと捉えられるのではないでしょうか。

むすびにかえて

ここからは、今後の研究の方向性を皆さんと共有しますので、みていきましょう。

ドナルド・トランプ氏が所有するTMTG社に関する会計や監査を取り巻く論点は依然として残っていますが、詳細については研究論文にまとめていく予定です。本稿執筆時点である2025年10月24日のTMTG社の株価の終値は15.84ドルとなっています。ドナルド・トランプ氏の人生の浮き沈みが大きいとともに、ドナルド・トランプ氏が所有するTMTG社の株価の変動幅も大きく、TMTG社の事例は非常に興味深いため、TMTG社に対し、会計・監査の視点からさらなる研究を展開していきます。

(参考文献) 
SEC (2024) SEC Charges Audit Firm BF Borgers and Its Owner with Massive Fraud Affecting More Than 1,500 SEC Filings, https://www.sec.gov/newsroom/press-releases/2024-51  (accessed on 26 October 2025).
TMTG (2025) Form 10-K, https://s3.amazonaws.com/sec.irpass.cc/2660/0001140361-25-004822.pdf  (accessed on 26 October 2025).
CNN.co.jp(2024) トランプ氏暗殺未遂、カメラマンはいかにしてその瞬間を捉えたのか, https://www.cnn.co.jp/usa/35221538.html (最終閲覧日2025年10月25日)。
日本経済新聞(2024a) ⽶共和、トランプ⽒銃撃を選挙戦へ利⽤過去には⽀持率上昇(2024年7⽉15⽇[会員限定記事]), https://www.nikkei.com/article/DGKKZO82092880V10C24A7NN1000/ (最終閲覧日2025年10月25日)。
日本経済新聞(2024b) トランプメディア株5割⾼ 増す再選観測、賭けサイト7割(2024年7⽉16⽇[会員限定記事]), https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN1536W0V10C24A7000000/ (最終閲覧日2025年10月25日)。

<執筆者紹介>
坂根 純輝(さかね・よしてる)
長崎県立大学准教授、博士(経営学)。西南学院大学大学院博士後期課程修了。九州情報大学講師、九州情報大学准教授を経て現職。
【主な著書や論文】
『サステナビリティ情報の会計・保証・ガバナンス(日本監査研究学会リサーチ・シリーズⅩⅩⅡ)』同文舘出版、2024年(共著)、『中小企業決算の透明性と信頼性ー改善に向けた実証・理論・実務研究ー』同文舘出版、2024年(共著)、『地方自治体の監査基準に関する分析と検証(日本監査研究学会リサーチ・シリーズⅩⅩ)』同文舘出版、2022年(共著)ほか多数。

(国際学会参加時に、海外の大学の教員からいただいた筆記具)


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