会計士業から社外役員まで〜独立してからどのように仕事をひろげたか?


岩波 竜太郎(公認会計士・税理士)

【編集部より】
公認会計士のキャリアとして選択肢がどんどん広がっていると聞きます。受験生の皆さんも「会計士になったらこんなことをしてみたい」と夢を描いている人も多いのではないでしょうか。
そこで、今回は大手監査法人・ベンチャー企業を経て独立し、社外役員やMBA講師など幅広くご活動される岩波竜太郎先生(公認会計士・税理士)にこれまでのキャリアについて振り返っていただきました。特に、社外役員就任のきっかけや仕事内容などを掘り下げていただいたので、ぜひ参考にしてください!

独立に至るまでの歩み

私の24年間の会計士としてのキャリアを簡単に振り返ると、
(1)最初の14年の大手監査法人時代(2000年~2014年)
(2)その後1年半の再エネベンチャー時代(2014年~2015年)
(3)独立会計士時代(2015年~現在)の大きく3つの時代に分けられます。

まず(1)の大手監査法人時代は、公認会計士としてだけではなくビジネスマンとしての基礎を作る時期でした。私の場合、大手監査法人の中でも特に金融という特殊なセクターにフォーカスしていましたし、海外勤務も経験することができ、一人の人間としても大いに成長できた時期だったと思います。

続いて(2)の再エネベンチャー時代は期間としては短めですが、事業会社としての立場から様々な経験を得た時期でした。特に勉強になったのはアカウンティングとファイナンスの違いを実務を通して体得できたことで、この時期の学びとしては最も大きなものでした。

そうした経験を経たことにより、(3)の独立会計士時代に踏み出すためのパーツが整っていった印象があります。

営業力の源泉としての経験やネットワーク

独立当初を振り返ってみると、独立以前の(1)監査法人時代や(2)再エネベンチャー時代に出会った方々を経由して新しいお仕事をご紹介いただくケースが圧倒的に多かったです。そのため、いろいろな方を訪問して「お仕事をください」とお願いするタイプの営業活動は、これまでしたことは一度もありません。

そういう意味では、特に独立を目指すのであれば、独立する前の監査法人や事業会社における勤務において、とにかく実直かつ真摯に、仕事に対して取り組むことが重要だと思います。

目の前にある仕事をきちんとしていれば、自ずと周囲の目にも止まり、独立した後に思ってもいないような展開が生まれることもあります。

社外役員に就任した経緯

社外役員就任もまさにそういう思わぬ展開の1つの例です。社外役員になることなど、独立当初は思ってもいませんでしたが、(1)の監査法人時代に苦楽を共にした同僚がCFOをされている会社で、8年ほど社外監査役を務めています。就任当初はIPO準備会社でしたが、現在はプライム市場の会社になるまで成長しています。

他にもIPO準備会社2社の社外役員を歴任していて、このうち1社は(2)のベンチャー時代の顧問弁護士の方からお誘いいただいて就任しています。残念ながらこの2社は上場までは至らず、改めてIPOの難しさを肌で感じました。

こうした話を聞いて、私が社外役員になれたのは、私が単に運がよかっただけで、再現性がない話だと思われる方もいらっしゃるかもしれません。でも、そうした運を引き寄せた原因をたどってみると、監査法人やベンチャー時代に一生懸命に目の前の仕事に取り組み続けたことが大きなきっかけになっているのは間違いないことだと感じます。

社外役員の仕事とは?

社外役員の仕事についてですが、一番のメインは毎月の定例及び四半期ごとの決算承認に係る取締役会・監査役会(※監査役会設置会社を前提にお話ししています)への参加になります。会議に出席するための資料は事前に送付されてきますので、中身をよく理解したうえで、不明な点やリスクがありそうな点を自分なりに分析して、会議中に質問していくのが基本となります。

会議での発言は議事録にも残りますので、事前準備が重要です。また、逆に急にアドバイスを求められることもありますので、アドリブ力を含めた高いコミュニケーション能力も要求されます。必ずしも専門である財務・経理だけではなく、ビジネスはもちろん、法務・人事・労務に関する話も出てきますので、専門内はもちろん、専門外のことでもある程度は対応できるような力も必要かと思います。

上記の取締役会・監査役会以外にも、内部監査や監査人との定期的なミーティングもあります。特に公認会計士である社外役員は内部統制や会計に関する知識が豊富ですので、他の社外役員よりも率先して議論をリードしていくことが求められます。

いずれにせよ、高い総合力が必要であるのは間違いありません。

また、特にIPO準備会社では、IPOに向けて様々な問題に直面するケースが多いため、上場会社の社外役員と比べるとより時間を費やすケースが多いかと思います。IPOするにしても、主幹事証券や東証のインタビュー等への対応といった追加的な対応もあり、当然ながらきちんとした対応が求められます。

IPOがうまくいかないケース

原因は様々ですが、そもそも売上や利益が想定していたレベルに達せず企業価値が思ったようにつかず上場に至らないケース、経営陣が必ずしも一枚岩になっておらず、同じ方向を向ききれていないようなケース、内部管理体制が不十分なケースなどがあります。

内部管理体制については、わかりやすい例でいえば、ひとたび上場すれば45日ルールなど、決められた期日までに必要な財務情報の開示が求められますが、それに耐えうるだけの人員や体制が不十分であるようなケースです。公認会計士である社外役員としては、リソースを紹介する、改善提案をアドバイスするなど、貢献できる余地が多々あると思いますので、逆に社外役員としての価値を出せるチャンスなのかもしれません。

おわりに

いかがでしたでしょうか。独立して感じるのは公認会計士という資格のありがたみです。監査法人でパートナーを目指すもよし、事業会社でCEOやCFOとして活躍するのもよし、独立して自分の城を持ち自分のビジネスを広げるのもよし、社外役員で活躍するのもよし。こんな幅広い活躍の選択肢が取れる資格はそうはないと思います。

特に受験生の方は非常に大変な思いや犠牲を払いながら日々お過ごしかと思いますが、必ずその努力が報われるような正解が広がっています。ぜひ、公認会計士を目指してがんばってください!

また、若手の公認会計士の方々も、いまの環境から外に目を向けてみるといろいろな選択肢があると思います。ぜひ、いろんな選択肢を考えながら、唯一無二の公認会計士を目指してください!

<執筆者紹介>
岩波 竜太郎(いわなみ・りゅうたろう)

公認会計士・税理士
岩波公認会計士事務所代表、アイプラスアドバイザリー株式会社代表取締役
2000年に公認会計士試験合格後、大手監査法人での金融監査(シニアマネージャー)、ベンチャー企業での執行役員を経て、2015年独立開業。金融・非金融、海外・国内業務という枠に縛られない幅広い守備範囲をもとに、経営・財務・経理に関するアドバイザリー業務を展開している。本業以外でも社外役員やMBA講師など、幅広い分野で活躍。
・Xアカウント(@taro_3_orat


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