【USCPA合格体験記 】日本の公認会計士目線での資格のメリット


吉井達哉(日米公認会計士)

【編集部より】
USCPA(米国公認会計士)試験の受験を検討する人にはさまざまなバックグラウンドがあるそうです。そのため、受験をスタートする時点での経験、受験勉強を続ける環境も人それぞれ。たとえば、簿記・会計の前提知識の有無によっても、試験対策の方法や戦略が変わるでしょう。
そこで、本企画では、異なるバックグラウンドのUSCPA合格者に、受験エピソードを教えて頂きました。これから受験を考えている方は、ぜひ参考にしてください。
なお、USCPA試験は2024年から新試験制度に移行しました。合格体験記の中には旧制度での合格者もいますのでご留意ください。

日本の公認会計士がUSCPAを取得するメリット

こんにちは、公認会計士の吉井達哉と申します。2011年にあずさ監査法人に入所し、2021年からKPMGニューヨークに駐在、2023年に帰国後、独立開業しました。現在は、IFRS導入支援、M&A支援や経理支援等の財務及び経営コンサルティング業務を提供しています。

USCPAの魅力については色々な記事でまとめられていると思いますので、ここでは日本の公認会計士目線でのUSCPAのメリットを合格体験記として書かせていただきます。

 USCPAを取得して良かったと思うことは、 以下の2点です。

・US-GAAP(米国の会計基準)を理解することによりIFRS、J-GAAP(日本の会計基準)の理解も深まった点
・米国の制度について概要を理解できた点

 私は監査法人にいた際も、独立した今もIFRSに関わる仕事をすることが多いのですが、US-GAAPはJ-GAAP以上にIFRSとの収斂が図られているため、US-GAAPを勉強することによりIFRSへの理解も深まるものと思います。 IFRS、J-GAAPだけではなく、US-GAAPを理解することにより、それぞれ会計基準の趣旨や設定の背景をより深く理解することができ、会計自体に対する理解が深まりました。

また、米国でのディスクロージャー制度や税制、法律等について勉強することにより、米国の制度の全体像を理解できたと思います。普段接する多くの日系企業は米国との関わりがあり、米国においても様々な書類を監督官庁に提出する必要があります。それらの書類のもつ意味を理解できたことは、日本の公認会計士として働く上でも非常に貴重なものと感じています。

USCPAを目指したきっかけ

2021年からKPMGニューヨークでの駐在が始まり、財務諸表監査やIFRSコンバージョンの監査等を担当していました。監査自体は、KPMGグローバルのルールに則って行っているため、米国での監査手法は日本と同じものとなります。

米国での業務が始まり、当初は日本での経験をもとに何とか業務を行うことができていたのですが、税務分野を担当した際に、想像以上にアメリカの税制が複雑であることに気づきました。社内の情報や参考書類をもとに調べながら業務を進めていたものの、一度体系的にアメリカの会計や税制を理解したほうが効率的かと思い、2022年の夏にUSCPAを目指すことにしました。

▶︎受験したマンハッタンにある試験会場

USCPA受験スケジュール

 以下のスケジュールで受験を進めていきました。

・2022年8月:国際資格の専門校アビタスに受講申込み
・2022年10月:FAR (財務会計)
・2022年11月:AUD (監査及び監査証明)
・2023年3月:BEC (ビジネス環境及び諸概念・旧試験)
・2023年4月:REG(税法と商法)

 このスケジュールは今振り返ってみても、かなり追い込んだスケジュールだったと思います。半年以内に4科目を受験した場合、1年以上かけて受験した場合に比べて$500ほど安く済むため、短期集中で終わらせようと決意しました。

▶︎受験したマンハッタンの試験会場内

バックグラウンドを活かした勉強方法

日本の公認会計士がUSCPAを目指す場合、FAR、BECは概ね理解があるのではないかと思います。監査法人での経験がある方であればAUDについても実務経験である程度カバーできるという印象です。

一方、FARの公会計については米国政府の会計であり、日本の会計基準とは制度も考え方も全く異なるものですので、ゼロから勉強が必要となります。

REGについては税制等の分野が想像以上に日本の制度と異なる分野が多く、苦労しました。 また、USCPAの勉強で一番苦労したのは英語に対する集中力でした。当然のことながらテストは全て英語のため、アビタスの問題集も解説を除き全て英語となります。

私は授業を一度聞いた後、問題集を3~5周するという勉強方法で進めました。全ての問題をまず3周し、3周しても理解がしっかりできていない問題を4周目、さらに間違えた問題は5周目を行い、試験前日については5周目でも理解が浅かった問題を見直す、という流れで進めました。

問題集以外に模試や過去問もありましたが、問題集が完璧にできれば合格できるだろうと信じて、あまり手を広げず問題集のみに特化しました。 ただ、問題集の量もなかなかでしたし、私は英語が得意なほうではなかったので、1周目は問題を読むだけでも時間がかかりました。

ニューヨークでの勤務も1年ほど経ったころに勉強を開始したため、会計用語の英語はある程度理解していたのですが、その他の英単語でわからないものが多々あり、その都度英単語を調べながら進めるという、地道な作業となりました。 英語が苦手な方は同じもどかしさを感じるのではないかと思います。ちなみに私は度々YouTube等、現実逃避の旅へ出かけていました。

日米会計士の活躍の場

私がUSCPAを目指したきっかけは業務上必要に駆られてでしたが、受験勉強を通じて当初想定していなかったようなメリットを感じることができました。 日本の公認会計士の方で、何か次の専門分野を身につけたい、他の会計士と差別化を図りたい、そんな時の1つのきっかけとしてUSCPAはおすすめです。

また、近年は米国のNASDAQ上場を目指される日本企業も増えていますので、そういった企業の支援として日米会計士の活躍の場があるのではないかと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。何か少しでも参考になるものがありましたら幸いです。

<執筆者紹介>

吉井達哉

吉井公認会計士事務所
公認会計士・米国公認会計士
2009年、慶應義塾大学3年次に公認会計士試験に合格し、2011年に有限責任あずさ監査法人に入所。上場企業のIFRS導入支援に長年関与するとともに、監査、USGAAPコンバージョンやデューデリジェンスに携わるなど幅広く監査関連業務を経験。2021年からはKPMGニューヨークへ駐在し、監査業務を中心に担当。
2023年に帰国後、東京都で独立開業し、IFRS導入支援、M&A支援や上場企業に対する経理業務高度化支援等を行う。
・事務所HP(https://yoshiicpa.com/

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