海外で働く公認会計士のリアル:#イギリス(ロンドン)編・森 大輔


【編集部より】
「海外で働くこと」を一度は憧れたことがある人も多いのではないでしょうか。しかし、言語や仕事、生活など、乗り越えるないといけないようなハードルもたくさんあって、なかなか踏ん切りがつかないという人もいるでしょう。
そこで、本企画では、海外で働いたことがあったり、今まさに海外でビジネス展開していたりする6名の公認会計士に、海外で働くリアルについて教えていただきました。きっと、今後のキャリアを模索するさいのヒントになるはずです!
今回は、「#イギリス(ロンドン)編」として、森 大輔 先生(公認会計士・税理士)にご登場いただきます。
また、本シリーズは、#中国(北京・上海)→#シンガポール→#インド→#アメリカ(ニューヨーク)→#イギリス→#アフリカ(ルワンダ)と世界周遊気分を味わいながらご紹介する予定です。ご期待ください!(全6回・不定期掲載)

憧れの地・ロンドンへ

どうも皆さん、こんにちは。トメです。

イギリス―――

アフタヌーンティー、ハリーポッター、時計が象徴であるビッグベン、ビートルズ、イギリス王室、シャーロックホームズあたりがイギリスと言えば思い浮かぶものでしょうか。

会計業界では、国際財務報告基準(IFRS)を作成する国際会計基準審議会(IASB)をロンドンに置いており、イギリスはこれまで歴史的に会計・税務業界を常にリードしてきた言わば会計税務業界の聖地です。

この地に降り立ったのは2019年夏。当時監査法人で10年ほどの経験を積み、アメリカでの勤務も経験していたので、法人内で私が所属していた部署で英語関係の仕事の殆どが私の所へ来るようになっていました(笑)。

もうさすがに膨大な仕事量に疲れ果てており、そろそろ引き際かと思っていたところに来た憧れの地・イギリスのロンドンへの赴任の話。勢いでパートナーからのお話を引き受けることに。

なぜ海外で働くことになったのか

大人になるまで海外に住んだことも行ったこともなく、海外にすら興味なかった私が海外で働くことに興味を持ったのが公認会計士の試験勉強をしている頃です。

勉強の合間にふと立ち寄った本屋のスポーツコーナーで雑誌の立ち読みをしていると、プロサッカー選手の中田英寿さんやメジャーリーガーのイチローさんが海外で大活躍をしているのを見て、「自分も海外で働きたい!」と思ったのでした。

その後、PwCに入所しどうしたら海外にいけるかを考えつつ、日々の仕事に没頭し、入社5年後にアメリカ行きの切符を、そして、10年後にはイギリス行きの切符を得たわけです。

▶PwCロンドンオフィスにて

ロンドンでのミッション

話を戻すと、ロンドンでは現地日系企業への財務諸表監査や内部統制・内部監査のアドバイザリー業務をエンゲージメントマネージャーとしてこなすことがミッションでした。時に現地日系企業だけでなく、英国系の企業も担当したりしました。

また、日系企業をサポートすることを目的としてジャパンデスクが現地にありましたので、ジャパンデスクの一員として営業活動をしたり、現地で色々と悩みを抱える日系企業を助ける役割もありました。

ロンドンは世界でも有数の国際都市ということもあり、また、PwC発祥の地でもあることから世界中から人が集まってきます。監査チームやプロジェクトチームを組むと毎回国籍は確認しませんが、全て同じ国のメンバーとなることはなく、様々なバックグランドを持つ人達とチームを組み、仕事をします。

この多様な人材をいかにまとめて、メンバーに気持ちよく働いてもらい、最高の成果物を出すか。これがエンゲージメントマネージャーとしてのミッションでした。

言語の壁

さて、イギリスへの切符を取った後、イギリス・ロンドンのヒースロー空港に意気揚々と到着し、入社研修を受けてから業務に入るのですが、またこの研修が凄いこと。どこかの高級別荘地にあるお城のようなホテルを貸し切りで行うのですが、これぞ“ザ・PwC“でした。これは日本では中々経験できず、海外Big4ならではのものです。

帰国子女や長期留学していた方を除けば海外赴任して最初に苦労するのが言語です。イギリスに行く前に米国に2年ほど勤務していましたが、それでもブリティッシュイングリッシュはまた一味違います。

カ~ント(can’t)やラブリー(lovely)を多用し、そしてスペルもアメリカ英語とは異なります。特にイギリス北部の英語はアクセントが強く、また、もっと言うとロンドンとなると国際都市ということもあり世界中から人が集まりますので、多種多様な英語が飛び交うわけです。

色々な価値観と言語、そして文化が入り混じる中での仕事、滅茶苦茶エキサイティングでした。このような状況の中で、そして何よりもこれまで働いたことのない国で信頼をいち早く得るには兎に角仕事での結果を出すこと、赴任当初はこのことに全精力を注ぎました。

時に同僚とパブへ行って、イギリスに行ってから好きになったシャンディ(ビールとレモネード半々のもの)を飲み、現地の日本人の集まりに行ったり、週末はゴルフをしたり(結局あまりスコアは良くならず笑)、と充実した日々を過ごしていました。ちなみに、イギリスはゴルフ発祥の地。ゴルフは5,000円以下で18ホール回れます(安い!)。

▶コロナによるロックダウン最中のロンドン中心部

ロンドンに赴任して半年後…新型コロナの世界的蔓延

イギリスで勤務開始して約半年が過ぎたある日、ニュースが流れ込みます。

「もうお前さんたち、明日から家にいろっ! お願いだ!!」

貫禄十分のボサボサヘアーの大男 ボリス・ジョンソンさん(当時の首相)の記者会見です。そして続けて、「恐らく状況によっては生死の選別が始まるかもしれない」とも言っています。

おいおい。ロンドンに来て早々孤独死かよ…(当時トメは独り身)。コロナが深刻化してきたのです。

急いで近くのスーパーに行くと食料は空っぽ。参りました。そして翌日から全業務を家で行うことに。彼是1年はずっと家に籠る生活が始まりました。1日に1回、生活必需品の買い物か散歩程度の運動を1人もしくは家族となら問題ない、との許可がイギリス政府から降りています。

日中オンラインで全て業務をこなし、夕方に監査チームやプロジェクトチームのメンバーと進捗確認。そしてその後に近くの丘に1人で散歩する日々を続けました。

夕方に丘に行くと同じ想いを持った人たちがゾロゾロと集まってきています。集まっているけど、特に会話もしない。そんな異様な光景が遠くにロンドンの中心地が見える丘の上で繰り広げられていました。

最初は、在宅だ! 通勤なし! と新鮮でしたが、次に訪れた問題がメンタルです。メンタルのケアなんて今まで一度も考えたことがありませんでした。

天気の冴えない国として有名なロンドンですが、夏の天気は最高ですが、夏以外はほとんどの日が曇りや雨、そして冬は日照時間が滅茶苦茶短い、という感じです。

毎朝パソコンを開けて、夜に閉じる生活。少しでも話す時間を設けようと、なんと現地イギリスにいながら朝と夕方にオンラインの英会話のレッスンを始めていました(笑)。

近くの薬局に行けばビタミン剤が大量に販売されていました。毎日サプリを飲む日々。そして、少しでも日が出ている時間が長く感じられるように、朝5時に起き、外を散歩する日々。

常に1人で、オンライン会議以外で人と話すことも少ないため、朝の散歩は英語の音読をしながらしていました。コロナの状況も良くなったり、悪くなったり。一時期は同僚の家族が亡くなるなどを目の当たりして、本当に生死の選別が身近にきているのだ、と恐怖を感じたものでした。

ようやくオフィス勤務の許可

コロナも半年ぐらい経ってくるとロックダウンの生活も慣れてきます。表面上は家族以外の交流は禁止とされていますが、諸外国からきている人たちはもう限界なんですよね。

当時私はヨーロッパや東欧から来た同僚と仲良くしており、夜な夜な近くの家で秘密のホームパーティーをしたりもしました。見つかったらルール違反なんでしょうが、外に出てみると色々な家から騒ぐ声が聞こえるので皆さん極秘パーティーをしていたのでしょうね(笑)。

そうこうしている内にオフィス勤務の許可が出たため、オフィスには早朝6時過ぎには行っていました。誰もいないオフィスで1人仕事。それでも在宅1人で仕事するよりかマシでした。

そして帰りはなんとオフィスから家まで徒歩で帰宅。約1時間半の道のりを歩いて帰っていました。せっかく行ったイギリス・ロンドンなのに何も思い出がないのはどうかと思い、思いつきました。

オフィスから家に行く途中には観光地で有名なピカデリーサーカス、東京ドーム何個分あるだろうかという一面綺麗な緑の芝で埋め尽くされただだっ広い公園を抜けて、時に公園で寝そべったりと帰国前のコロナによる行動制限がある程度緩和された中での最高の思い出となりました。

コロナで埋め尽くされたイギリス生活でしたが、それでもコロナになる前に欧州・東欧諸国5ヵ国も旅行でき、また、コロナ禍でも国民スポーツであるゴルフは比較的早く解禁されたので、車で片道8時間かけてセントアンドリュースというゴルフ発祥の場所であり、全ゴルファーの憧れの場所でゴルフをしました。

セントアンドリュースから戻ってきたときに車のダッシュボードのランプが全部点滅しており、合計16時間であらゆるところが故障し、結局買った時の値段より高い修理費を払ったのも良い思い出です。

詐欺にも遭いました。コロナでロックダウン直前にイギリスで開設した銀行口座から全額横領されるという激しいものでした。結果的には全額補填されましたが、補填されるまでは電話でスコットランド地方のアクセントの強い英語とやり取りを行わねばならず、骨が折れたのを覚えています。

長くなりましたが、私のイギリスでの勤務はコロナ真っ只中ということで特殊なケースに思います。コロナの中でも会計業界に身を置いていたことで仕事にありつけ、そして、世界中の人と繋がりながら仕事をダイナミックに実施できました。

海外に興味がある、絶対に海外で働きたい、世界と接点を持って働きたい、そんな方には諦めずに、そして日本で働くとはまた違った楽しさを経験できるので、是非海外で活躍していただきたいと思います。

▶コロナ禍によく行ったゴルフ場で見た二重虹

【執筆者紹介】

森 大輔 (もり だいすけ)

公認会計士・税理士・公認不正検査士
公認会計士論文式試験合格後、国内外の放浪生活を経て、2008年あらた監査法人(現 PwC Japan有限責任監査法人)に入所。2014年にPwC英国法人(シカゴ・ピオリアオフィス)、2019年にPwC英国法人(ロンドンオフィス)へ赴任。
2022年 森大輔公認会計士事務所(MD C.P.A Office)を開設し、各種財務諸表監査、内部統制(J-SOX/US-SOX)・内部監査アドバイザリー業務、財務デューデリジェンス、IFRSコンバージョン、IPO支援(日本・米国)並びに社外役員等を行う。
一般財団法人 会計教育研修機構 実務補習所 講師 『企業におけるリスク管理』
Xでは通称“トメ”(@TomeCPA

<こちらもオススメ>
「海外で働く公認会計士のリアル」

▶︎「中国(北京・上海)編(津田 覚)

▶︎「シンガポール編(林 竜太)

▶︎「インド編(野瀬大樹)

▶「アメリカ(ニューヨーク)編(吉井達哉)

▶「イギリス(ロンドン)編(森 大輔)

▶「アフリカ(ルワンダ)編(笠井優雅)


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