【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。
自分の心身を大切にする働き方を実現するため独立開業
はじめまして。税理士の酒井真理子です。
「芸能人の顧問税理士」をメインに幅広く活動しています。
独立前は、平成16年4月に新宿区にある税理士事務所に入社し、その2年後から平成27年12月まで新宿区にある税理士法人で社員税理士をしていました。監査担当者、総務、経理等あらゆる業務を行っていたため、激務の日々でした。
約12年働いてきて、平成27年10月に「もう少し自分の心身を大切にする仕事の仕方をしよう」と独立開業を決意しました。
その年の12月28日に税理士法人を脱退し、平成28年1月4日に「プレシャスパートナーズ会計事務所」として新宿区西新宿で独立開業しました。
年末に駆け込みで開業準備
脱退まで激務だったため、12月の日曜日と12月29日以降で開業準備をしました。
一人開業するにあたり、まずはオフィスを決める必要がありましたが、時間がなかったため、不動産屋さんにほぼお任せしました。丸の内線西新宿駅徒歩3分の物件を内見し、その日のうちに契約をしました。
あとは、会計ソフト、税務ソフトのTKCシステムを導入することを決めていたのでTKC全国会に入会し、㈱TKCと契約をしておきました。
また、備品として複合機をゼロックスから購入しました。さらに、電話機、シュレッダー、電子レンジ、冷蔵庫等の電化製品をビックカメラで買いました。大晦日のことです。
オフィス家具は、どうしても白と赤で統一したかったので、安いアスクル家具で白いテーブル、机、赤い椅子を購入しました。1月4日に納品、セットアップしてもらい、実際にオフィスが完成したのは1月5日でした。
その他、顧問契約書、税理士報酬料金表は元日と1月2日に、カフェで作成しました。最初は足りないものがあってもいいので、とりあえず最低限のものだけ揃えての開業となりました。
「小さい事務所経営」でお客様満足を最優先にする
前税理士法人では、必死で拡大し、スタッフの採用、入社、退社と目まぐるしかったため、担当変更が頻繁にありました。その度に、顧問先からの不満を聞いていました。
それゆえ、第2の税理士人生では、大きな事務所を作って無資格従業員を担当にするのではなく、顧問先との応対や窓口は必ず私がするような「小さい事務所経営」をしようと考えていました。自分で応対できる範囲内に仕事の受注を留め、お客様満足を最優先にしたいと思ったのです。また、スタッフがストレスを感じる仕事は受託しない、スタッフが辞めない事務所にすると決めました。
独立開業にあたり、営業についてはまったく知識も戦略もありませんでしたが、徐々に知人や、士業の先生からのご紹介が増えていきました。
とりあえずホームページは作りましたが(当時はSNSはやっていませんでした)、未だに営業にはお金をあまりかけていません。
開業直後に来た仕事が「芸能人の確定申告」
平成28年1月4日に開業し、すぐにお知り合いの国税OB税理士先生から連絡がありました。
「某芸能プロダクションが、大勢の女性芸能人さんの確定申告をしてくれる税理士を探しているからやってくれないか」というお話でした。
大変ありがたい話だったのですぐに面談へ行き、やれる見込みもあてもないのに大量の確定申告を受託することになりました。「仕事をもらえるだけでありがたい、お断りなんて出来る身分じゃない、何でもやらせてもらうべきなんだ」と自分に言い聞かせていました。
とは言っても、マンパワーもない状態でした。あちこちに連絡してパートアルバイトを探し、4名の女性パートに来てもらいました。さらに、前税理士法人時代の後輩税理士に手伝ってもらいながら、土日祝日、平日夜も休みなく作業をし、何とか独立開業初の確定申告シーズンを乗り越えました。
この開業初年度の確定申告より、徐々に芸能人の顧問先が増え、現在の自称「芸能人の顧問税理士」につながりました。
ストレスフリーに仕事をするために心がけていること
前税理士法人時代は、とにかく毎日目の前の仕事に追われていましたが、独立開業してからは「どのお客様と顧問契約をするのか」を自分で決められるようになりました。
お引き受けするべきでない仕事は最初からお断りする、または適任と思われる先輩税理士をご紹介したりして無理がない仕事をするようになりました。
平日と土曜日の9時半から17時半までを営業時間とし17時半で閉店する、17時半以降仕事をしない、日曜日、祝日は完全にオフにする、自宅にPCを置かないようにしました。
また、納税意識の低いお客様、脱税志向のあるお客様、暴言を吐いたり関与しても相当なストレスが予想されるお客様については、事前に見抜けずに顧問契約をしてしまったとしても即、解約をするようにしています。
顧問先数社、記帳代行を受託しておりその作業は女性スタッフに任せていますが、前税理士法人時代に毎朝あったストレスフルな朝礼は一切やらないと決め、原則、顧問先へ直行直帰OK、業務連絡はラインでOKというルールにしております。
私自身とスタッフがノーストレスで仕事ができる体制を構築し、日々進化させています。
失敗を通して開業税理士としての嗅覚が発達
開業間もない頃、とにかく作業をしてくれるスタッフが必要でした。そこで知人が知人のママ友(地元の友達)を数名紹介してくれたのでパートアルバイトとして採用しました。自分自身でしっかり面接して選考することもなく勤務がスタートしましたが、ママ友同士のトラブルが発生し、やむなく辞めてもらう方が出てしまいました。やはり、スタッフ採用は、可能な限りは採用サイト等で一般募集し、たとえご紹介であってもしっかり自分で面接して採用不採用を決めるべきだと学びました。
関与先獲得については、独立開業当初は、とにかく何でも受託し、売上を上げることを第一に考えていましたが、そこで大きな落とし穴がありました。
ホームページを見て初回面談申込があり簡単にヒアリング事項を聞いてから顧問契約をしましたが、関与して2年ほど経って、関与すべきではない事実が発覚し、即顧問契約を解除しました。
もっと入口の時点で詳細を聞き、過年度資料等もしっかり調査してから契約すべきだったと反省しました。また、顧問契約を一方的に終了させるのはとても労力が必要です。
色々な失敗がありましたが、勤務時代の所属税理士では体験できない様々な経験を通して、独立開業税理士としての嗅覚が発達してきていると感じています。
おわりに
税理士になって独立開業すると、自分のイメージした通りに、自由に、誰にも指図されることもなく税理士事務所経営をすることが出来ます。
「AIによって税理士の仕事がなくなる」と言われますが、実際は消費税インボイス制度の導入、電子帳簿保存法改正などにより仕事は増えるばかりです。
本稿をお読みの受験生、ぜひ税理士になって独立開業してください!
一緒に中小零細企業の永続的発展を支援していきましょう!
【プロフィール】
酒井 真理子(さかい・まりこ)
税理士法人Growth 代表社員税理士
東京税理会麹町支部、TKC東京中央会千代田支部所属。TKCニューメンバーズサービス委員会委員としてTKC入会3年未満の税理士に対して、税理士事務所経営手法等をアドバイスしている。
千代田区六番町(四ツ谷駅徒歩2分)にオフィスを構え、現在、女性スタッフ3名、業務委託税理士2名所属。
スタッフにストレスを感じさせないことを第一にノーストレス税理士ライフを送っている。
TKC全国会各支部、委員会での講演依頼多数、参加者100名程度の自社セミナーを随時開催し、6月開催セミナーが前年の12月時点で満席になる大人気セミナーを主催。
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