会計学から考える今後問題となる論点


3.企業行動の変化と会計

(企業の継続を前提にしない会計の重要性)
現在の企業会計では、企業が継続することを前提に考えられていますが、今後倒産や廃業等が増えてくることも予想されます。
 
したがって、企業の清算や整理を前提にした会計がこれまで以上に重要性が増してくると思われます。

(製薬メーカーによる治療薬・ワクチンの開発費)
製薬メーカーが、今回の新型コロナウィルスのために治療薬やワクチンの開発を行うと思いますが、今から開発しても完成した時にはウィルス問題が終息している可能性がありますので、一から研究開発を進めることには躊躇しているようです。

そこで、多くの企業、また政府関係者も、既存のインフルエンザ治療薬などを転用できないかということで、実際、そのために日本でもファビピラビル(アビガン®)の治験を開始することになりましたが、その場合、そのコストは将来の収益獲得が見込まれる可能性が高いものとなります。

そうすると、IAS38号のように開発費として資産計上すべきであるという意見がでてくる可能性があるでしょう。

(補助金を受給した場合)
今後、政府による企業支援のためのさまざまな補助金が給付されると予想されますが、これらをどのように会計処理するかも検討しなければならなくなるでしょう。
 
その給付目的を考慮したとき、当該補助金に課税するのが適切であるのかという根本問題に突き当たるように思います。換言すれば、非課税ではなぜいけないのかということです。
 
この場合、補助金は資本か利益かという会計学における伝統的な問題に直面することになります。

(資金繰り)
現在、特に中小企業において、資金繰りがひっ迫しているという報道がなされていますが、大企業の中にも資金繰りに窮しているところが出てきているようです。

このような状況に対応して、公的資金が注入されるのではないかという報道が、一部ではなされていますが、バブル崩壊後には、優先株式の発行による公的資金の注入が行われました。

仮に優先株式の発行が実施されたとすると、企業が優先配当を実施できなければ普通株式への転換が起き、国が大株主である企業が誕生することにもなりかねません。

(会計基準の適用)
上記のとおり、有価証券の相場が下落することが想定されますが、過去の事例では、バブル崩壊時に、それまで金融機関に強制されていた有価証券評価の低価法が任意とされ、リーマンショック後には、有価証券の保有目的区分変更の弾力化が行われました。

いずれも、実態は変わらないのに会計数値上の改善が見られただけですが、それが破綻を遅らせたことによって、投資者の損害をさらに大きくしたのではないかという指摘も行われています。

今回の事態ではそのような表面を糊塗するようなことは是非とも避けてもらいたいと思います。

ここまで、会計学の視点から考えられる論点を思いつくままにピックアップしました。今回の新型コロナウィルスについては、今後さらに経済社会に与える影響が拡大する可能性もあり、さらに会計上重要な影響を及ぼす論点も生じることが考えられます。

さて、いろいろな論点があることをご理解いただけたと思いますが、ここで重要なのは、想定しうるさまざまな事態をあらかじめ考えておくことによって、どのような状況に陥ったとしても落ち着いてその状況に合わせて対処できる可能性が高まるという点です。
 
「備えあれば憂い(患)なし」、実務でも受験でも、まさにこの姿勢ないし心構えが大切だと思います。

〈執筆者紹介〉
佐藤 信彦
(さとう・のぶひこ)
熊本学園大学大学院会計専門職研究科教授・研究科長
1982年明治大学商学部卒業。明治大学大学院商学研究科博士後期課程退学。公認会計土試験委員(2006~2010年1月)、税理士試驗委員(2011~2013年)を歴任。現在、日本簿記学会会長、日本会計研究学会理事、税務会計研究学会副会長、日本会計教育学会副会長、日本学術会議連携会員など。
<主要著書>
『スタンダードテキスト財務会計論Ⅰ』『スタンダードテキスト財務会計論Ⅱ』(ともに編著)・『財務諸表論の要点整理』(いずれも中央経済社)、『リース会計基準の論理』(税務経理協会/編著)、『業績報告と包括利益』・『国際会計基準制度化論』(ともに白桃書房/編著)など多数。


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